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VR―05 Dream Come True

1500PV達成しました!

皆さんありがとうございます!

物語前半はアマネさんの過去編となっております。


小坂井 雨音が、なぜあの双子の女神に『あなたはどうやら元の世界に未練がないようなので』と言われたのか。

それを説明するには、少々時間を遡らなければならない。


『命の漂流者』となる12年前、当時9歳であった雨音少年は、『神童』と呼ばれるほど大変優秀な子供であった。

勉強をすれば難しい事もすぐに理解し、運動をすれば全てを卒なくこなす。

雨音少年はいつしかクラスの人気者となり、あらゆる人物に持てはやされる事になる。


しかし、それを良い様に捉える人物ばかりではない。

その代表が両親であった。

雨音少年の両親は当初、うちの子供は天才だ、と手放しに喜んだが、段々と雨音少年に対して冷たい態度をとるようになる。

要因としては幾つかあったが、強いて言うなら嫉妬。


小坂井一家は裕福というわけでもなく貧乏というわけではない。

しかし雨音少年の両親は普通に暮らせるようになるまでかなり苦労をしている。

父親は学歴もなく金もない現状をなんとかするために血が滲むほど勉強し、やっとこさ仕事にありつけたものの上司や同僚との関係があまり良くなく毎日悪態を吐かれながらも働いている。

母親は仕事で疲れた夫を癒すために甲斐甲斐しく世話をすると同時に自身もまた金のために働き詰め、毎日クタクタになりながらも家事をこなしている。


全ては家族のために。

両者の心の根底にはそれがあるが、働き詰めると人間は誰しもストレスを抱える。

息子である雨音少年は優秀で、自分達の世話がなくてもいい程出来が良い。

それは一見、自分達の世話などなくてもいいとでも言っているようで、ストレスを抱えた両親を刺激した。


自分達のおかげでいい生活を送れているにも関わらずこの態度は何だ。

自分達はこんなにも苦労しているのに何故この子はこんなに楽をしているのだ。


9歳である幼い少年にとっては余りに理不尽で利己的。

雨音少年の心には段々と穴が空いていった。


そしていつしか、その穴を塞ぐように雨音少年はある夢を見るようになる。

そこは剣と魔法の世界。

辺りには魔物が蔓延り、エルフやドワーフ、獣人などの色々な種族が住んでいる。

雨音少年は冒険者だった。

時には失敗したりするが、信頼する仲間と共に冒険するのが何よりも楽しい。

雨音少年は思う。

ここが僕の居場所なんだ、と。


それは現実逃避であるのかもしれないが、幼い雨音少年は楽しい夢が現実で、両親がいる現実が夢だと認識するようになるのは仕方がない事であろう。





「息子さんは解離性障害になっていますね。」


そう医師に診断されたのは雨音少年が11歳の時であった。

解離性障害。

精神疾患の一つであり、自分が自分であるという感覚が失われる病である。

重いときは解離性同一性障害、つまり多重人格障害になる時もあり、生活面で様々な支障をきたす。


雨音少年の精神疾患の発覚により、両親はようやく気づく。

本来守るべき自分達の息子に私達は何をやっているのだ、と。



そして、小坂井一家に大きな変化が訪れる。

両親と雨音少年との仲は元に戻り、父親は今まで以上に身を粉にしたおかげか昇進することになり、母親はそれによって働き詰める必要もなくなった。


それは遅すぎる変化ではあったが、雨音少年の精神疾患も段々と弱まり、遅れていた勉強も元々自頭がよかった事もあってすぐに追い付いた。

皮肉にも精神疾患という本来悲観すべき事により家族は一つに纏まったのだ。




雨音は二十二歳、現在大学生になった。

友達との関係も比較的良好。両親ともそのまま仲が良いままである。

大きな変化といえば、ゲームに嵌まった事であろうか。

剣と魔法の世界であるゲームの世界は、雨音の幼い頃からの願望のせいか琴線に触れた。


そんなある日、雨音は今日もいつものように愛するゲームのためにPCを立ち上げる。

最初に手紙のアイコンをクリックしてメールを確認すると、友人から一通メッセージが来ていた。


『アマネへ。○○会社からVRMMOでるらしいぞ! ○月×日に発売予定らしい! 嘘だと思うならHP見てみろよ!』


雨音は念のためにホームページを確認して事実であると知ると、歓喜のあまりに吠える。


「やったー! 遂に! 遂にキターー!!」


一通り暴れ倒して、早くその日になってほしいのか、ゲームをせずにベットに潜り込み、今日も雨音は幼い頃から未だに見続けているあの夢に思いを馳せながら眠りについた。



青年は夢を見る。


それは、魔法がありドラゴンがいる事が当たり前の世界。

青年はいつだって自由で、信頼する仲間と共に冒険する。

ある時は地面から火を吹く灼熱の地を。

またある時は氷に閉ざされ全ての時を止める地を。


冒険は終わらない。

青年が止めない限り。


歩みは止まらない。

青年が諦めない限り。


空に浮かぶ雲のように、青年は自由だった。




―――――



チュンチュンと小鳥がさえずり、朝日が射し込む宿屋の一室で少女は目を覚ます。

「んん~~~。」と声を出しながら大きな伸びをして、口に手を当ててこれまた大きな欠伸をする。

そしてぽつりと一言。


「もう朝かぁ……。」


もはや口癖と言ってもいい程幼い頃から言い続けているその独り言は、今日も誰にも聞かれずに部屋に響く。

少女は寝ぼけ眼をこすりながら辺りを見回し、昨日と全く変わっていない現状にホッと胸を撫で下ろした。


「よかったー。夢じゃなかったー。」


間の延びたその声は、心なしか昨日より明るい。

そして女となった自身の体をまさぐる。


股……ない。胸……ない。


きっちり女となっている。

しかし何故か胸を確認したところで空しさを覚えた。

謎の感情に首を傾げつつ、とりあえず少女アマネは身だしなみを整える。


昨日は髪を解いて革鎧を外しただけで寝てしまっている。

そのためインナーしか今は着用していない。

身だしなみを整える間にふとアマネは気づいた。

着替えも何も持っていないじゃないか、と。

そこから連想してまたまた重大な事にふと気づいた。

その前にそもそもお風呂全然入っていないじゃないか、と。


いくら可愛くても臭い女は嫌だ。

そのためにお風呂のついた宿にしたのに何故入らなかったのか、とアマネは自分のアホさ加減に頭を抱え、今日の予定に朝風呂と身の回りの物を用意する事を加えた。


そうと決まれば早速お風呂に直行である。

急がば回れとは言うが、アマネは善は急げ派なのですぐに行動を開始する。

部屋に備え付けられた地球程フカフカではないバスタオルをひったくるように手に取り、一階から別館の大浴場へ向かう。


大浴場の二つの入り口には地球ではないのに何故か暖簾が垂れている。

それぞれ赤と青に着色されていた。

前者は△のマークに○が乗っており、後者は▽のマークに○が乗っている。

アマネは迷わず後者へ突入。


脱衣所は竹のような物で編んだ籠が所狭しと棚に置いてあり、一糸纏わぬ姿の男達がタオルや桶を抱えて風呂場へ行こうとしている。


しかし、アマネが入った途端、アマネに視線が集中し、時が停止する。

刹那、全員が悲鳴を上げた。

アマネも男達も全員「キャーー!」と叫ぶ。

何故か全員声が高くて裏声だ。

男達は股間を、アマネは顔を隠した。

アマネは顔をりんごのように赤くしながら脱兎の如く退散した。


そしてアマネは今度はちゃんと確認して女のマークがついている女風呂へと、未だに顔を赤らませながらいそいそと入っていった。


後日、宿屋『エリージェ亭』に男風呂を覗く痴女が現れたと話題になったとか、ならなかったとか。


閑話休題。

脱衣所は男風呂のほうと変わらず竹のような物で編んだ籠が並んでいる。

そして半裸の女性が着替えを行っていた。

赤い顔をさらに赤らませながらできるだけ周りを見ないように背中を向けながら着替え、タオルを胸にあてながら風呂場へと入る。


股間や胸を意図的に触れないようにゆっくりと洗い、割れ物に触れるように優しく触る。

股間に何もない事に寂しさを覚えつつ、周りを見ないように下を向いてもじもじと内股になりながら湯船にゆっくりと浸かっていった。


「ふぅ~~~。」


アマネは思わず間の抜けた声をだす。

これが異世界初であり、初の女の体での入浴である。

緊張や羞恥があったが、日本人のさがなのかお風呂の気持ちよさが全てを取り除いていく。


「お風呂は命の洗濯だ、とか言うけどあながち間違ってないよね~。」


アマネは独りごちる。

ご機嫌のようで今にも鼻歌を歌いそうな勢いである。


それでは一曲歌いましょうかな、などと言いたげにアマネは満面の笑みで湯船でゆったりしていると、湯船の対面に一人の女性が浸かりにきた。

思わず視線がそちらに移動し、視界に入った瞬間釘付けになった。


女性は人間ヒューマンであったが、腰まで流れた黒髪をポニーテールで纏め、整った顔や綺麗な褐色の肌には傷痕が無数にひろがっている。

それは彼女が数多の戦いを生き抜いた猛者である事を主張していた。

腕や脚はしなやかに伸びており、必要な所だけに必要な分だけついた実践的な筋肉が美しいラインを象っている。

それはまさに芸術品。

戦いの戦いによる戦いのための筋肉。

戦闘素人のアマネでさえ目を奪われてしまう程の曲線美であった。


アマネはゴクリと生唾を呑む。

アマネとその女との距離は5m程離れていたが、それでも彼女は刹那のうちにアマネへ走り抜け喉を掻っ切る事ができるだろう。

それだけ彼女には強者の威圧があった。


アマネがちらちらと彼女を横目で見ていた事に気づいたのか、女はギロリとアマネを睨んだ。

アマネは思わず「ひっ!」とか弱い乙女のような声を出してしまう。

すると女は歯を見せて豪快に笑った。


「カッカッカッ! 少女よ、貴様面白い眼をしているな。」

「へ?」


アマネは何を言われたのか理解できずに間の抜けた声を出す。

その様子がさらに面白かったのか女はさらに口で弧を作り、「カッカッカッ!」と笑った。


「貴様の眼は面白い。私の体を見て恐怖と同時に好奇心を感じているようだ。私の体に好奇心など普通は感じない。戦いの中でできた体など厄介事しか舞い込んでこないとわかっているからな。ところが貴様は何も知らない赤子のように見るもの全てに好奇の視線を送っている。貴様、さては戦いとは無縁の所から来たのではなかろうな?」


ドキッとアマネの肩が跳ね上がる。

女の瞳はどこまでも深く、全てを見透かしているようであった。

この人には嘘が吐くことはできないと瞬間的に悟り、アマネは顔色をうかがうように返答する。


「は、恥ずかしながら、その通りです……。」

「カッカッカッ! そうかそうか。こりゃあ傑作だ!」


何がおもしろいのか女は膝を叩いてケタケタと笑う。

一頻り笑うと、今度は女はアマネに近付いていき豊かな胸の下で腕を組んで挑発するように問いかけた。


「では貴様は、これからどうしたい?」


その問いはあまりに抽象的であったが、アマネにとっては限りなく的を得ていた。

この世界でどうしたいか?

受付嬢のカトールにも問いかけられたその答えは、未だアマネの中にはない。

それゆえアマネは答えるのを躊躇った。


「わ、私は……。」


それ以降の言葉は出ない。

顔をふせ、女に視線を合わせる事ができない。

しかし、女はアマネが逡巡するのを見透かしていたかのように口を開いた。


「問いを変えよう。貴様の『夢』は何だ?」


女はニヤリと笑いながら問いかける。


(私の夢?私の夢は……。)


思い出すは幼少の頃から見続けるあの『夢』。

仲間と共に自由に駆け回る冒険者としての『夢』。


「わ、私の夢は、ぼ、冒険者として自由に生きる事です。」


詰まりながらもなんとか答えたアマネに、満足そうに女は歯を剥き出しにして笑った。


「カッカッカッ!なんだ。答えを持っているじゃないか。では少女よ。改めて問おう。貴様はこれからどうしたい?」


夢が冒険者として生きる事なら、それを成すために努力をしなければならない。

それなら答えは自ずと決まってくる。

今度はまっすぐ視線を合わせてアマネは答えた。


「私は、生きる術を身につけたいです。」


女は返答せずに「カッカッカッ!」とだけ笑って、クルリと踵を返し、風呂場から出ていった。


女がいなくなるのを確認した周りの客達がぞろぞろとアマネの元に寄って心配そうに問いかける。

「大丈夫?」「脅されたりしなかった?」などと言いながら、アマネの体をペタペタと触る。

アマネは裸の女性に囲まれて耳まで赤くしながら、「だ、大丈夫です。」と周りの客の相手をするのにしばらく奮闘するのだった。



―――――



「エリージェ。彼女はどうだった?」


そう問いかけたのはサウスセルトポール城門警備兵のキャストール。

キャストールは今日は非番なのか私服を着こなしている。

対するは全身に傷痕がある黒髪の女性――先程アマネに相対していた女だ。

黒髪の女性――エリージェは、大浴場の前の広場のベンチに座り、「カッカッカッ!」と楽しそうに笑った。


「あれは本当に傑作だ! あやつ、昔の私そのまんまだよ。」


グビリと手に持っていた酒瓶を煽り、アマネを思い出して再びカラカラと笑う。

そんなエリージェを胡乱げに見ながらキャストールは問いかけた。


「じゃああの子は、『命の漂流者』なのか?」

「カッカッカッ! おそらくそうだろうな。」


エリージェはニヤニヤしたまま答える。

キャストールはふざけた態度のエリージェにため息を吐くが、彼女をここまで楽しそうにする程『あの子』に何かがあるのだろう、と納得する。


「そうか。じゃああの子の事はお前に頼んだぞ。」

「はいよ。まあ同郷のよしみって事で気にかけとくよ。」


ひらひらと手を振って、軽い感じで答えるエリージェ。

どこまでもおちゃらけているエリージェに、真面目なキャストールは少し苛つく。

なので、別れ際に一言意趣返しを忘れない。


「わかった。すまんな、ギルド『バイタル・ローバー』のギルド長殿。」


ピクリとエリージェの額に青筋が立った気がしたが、キャストールは素知らぬ振りをして踵を返す。


キャストールは歩きながら過去の出来事を脳裏に浮かべた。

10年前キャストールがまだ新人の時、黒髪の少女が城門の前で生き倒れていたのを発見した事を。


そしてその黒髪の少女が色々やらかした事も思い出して、はぁ…と長いため息を吐いた。

あの薄赤髪の少女もまた色々やらかすのだろうなあ、と想像し、それだけでキャストールの頬は痩けていく。


最近薄くなったような気がする頭を触りながら、苦労人キャストールは愛する家族が待つ我が家への帰路につくのだった。



ようやく話が動きました。

まだアマネさん冒険者登録もしてないんですけどね。

早く戦闘シーンをいれたいです。


感想やアドバイスなどをくださると幸いです。

ではまた次回もどうかよしなに。


追記

少し文章を改訂しました。

と言ってもほとんど変わっていないですが。

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