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VR―01 Vital Rover


「決めるの遅すぎるよ君。いったいどれだけ私が待ったと思っているんだい?もう食べる物も飲む物も無くなっちゃったじゃないか。」


真っ白少女の予想外の第一声は外見の美しさとあまりに異なり軽い物であった。雨音は思わずアホ面を晒す。


「ん?なんで黙ったまんま口を開けているんだい?もう喋れるはずなんだけど。」


とりあえず色々突っ込み所があるが、雨音はグッと我慢してさらっと重要な事を言った事にはたと気づく。


「喋れる?………あっ!」


そう、喋れるのだ。

先程までのキャラメイクの時間中、まるで金縛りにあったかのように声も体も何一つ自由が利かなかった。

しかし今は喋れる、これはどういう事なのか。

雨音は直ぐ様何か知っているであろう真っ白少女に問い詰める。


「こ、これはどういう事なん………ってあれ?」

「ふふふふふ、困ってる顔も可愛いねぇ。」


少女は不敵に笑う。

雨音が言葉を途切らした理由を知っているから。

そして雨音の困った顔があまりにも可愛かった(・・・・・)から。


「今の体の調子はどうだい?アマネ(・・・)ちゃん?」

「っ……!?」


少女はニヤリと、まるで悪戯が成功した幼子のような笑みを造る。

その笑みは見る人が見れば数多の男性を虜にしたであろうが、今の雨音にそのような余裕はない。

雨音の声はいつもより高く、心なしか体も縮んだ気がするのだ。

アマネ(・・・)は、両の手で自身の体をまさぐった。


胸……ない。股……ない。


何もかも失ってしまった、とアマネは絶望に打ち拉がれ膝を地面につく。

が、胸は元々ないはずである。

アマネはそれ程動揺しているのだろう。

ともかくアマネの姿は女性に変わっているのだ。


しかしアマネは次の瞬間思考を切り替えた。

というのもこれがゲームの中で、先程キャラメイクしたキャラなのではないかと今さら気づいたのだ。

何とも早い切り替えである。

なんだ、この腹黒真っ白少女は僕の事をからかっただけではないか。ここは僕が大人として紳士な態度をとってあげよう。

と、アマネは先程とはうって変わって件の腹黒真っ白少女に吹っ切れたような清々しい笑顔を向け、口を開こうとするが……。


「待って。君は今、ここはVRですから、とか言おうと思ったんじゃないのかい?残念ながらこれは仮装空間ではないね。」


と、少女はニヤニヤと嗤う。

図星である。圧倒的に図星である。一言一句同じである。

アマネの背中に嫌な汗が伝う。

この相手を嘲笑う変態腹黒真っ白少女は要注意人物であるとアマネの警鐘が鳴らしている。


しかし、アマネの予想を裏切るかのように先程の人の悪い笑みは消え女神のような慈愛に満ちた笑みに変わり、今までのは夢であったかのように少女は優しい口調で続けるのだった。


「君は、このゲームのVRって正称は何だと思う?」


それは訳のわからない投げ掛けであった。

VRの正称?そんな事わかりきってるじゃないか、とアマネは訝しむ。

しかし少女の顔は返答を催促している。

アマネは仕方なく口を開いた。


「Virtual Reality……です。」


アマネの回答を聞き、少女はウンウンと納得するように腕を組み首を縦に振るう。

どうやら合っていたらしいと、アマネはホッと胸を撫で下ろした。

しかし、少女は口角をニンマリと上げ、またもや予想外の答えを突きだす。


「違うね。」

「えっ!?」


少女の不敵な態度に驚きを隠せない。

少女はアマネの反応に気を良くしたのかアマネをさらに煽る。


「Vital Roverだよ。つまり、《命の漂流者》。やれやれ一応パッケージにも書いてたんだけどねぇ。」


と、少女はアマネをチラチラと見ながらあからさまにハァ、とため息を吐く。


アマネはこの生意気な少女に誂われたのが余程ショックだったのか、目を伏せてブツブツと独り言を呟きだした。(※アマネさんは動揺しているので無駄に長いです。飛ばしてください。)


(この子完全に舐めてるよね、僕を。なんで?年上の僕をなんで?いや確かに僕は女々しいって大学でも言われるよ?でもここまで年下の女の子にからかわれたの始めてだよ。ゲーム内ではむしろ古参プレイヤーとして尊敬されてたし、大学だって後輩に優しい先輩だと言われたりしてるんだよ?これは怒ったほうがいいんだよね?こんなふうに目上にも不遜な態度をとると将来怖い先輩とかにボコボコにされるかもしれないし、ここは僕が優しく諭してあげて反省させるべきだよ、うん。あっ、でももしそれさえ考慮済みだったら?僕が怒るのを楽しんでいたりしたら?そしたら逆効果だよね。それにそれだとなんかあの子の手の上で踊らされてる気がしてちょっと癪に障るし、何より年上なのに言い負かされるみたいなのも悔し……(割愛)。)


ベキッ!


アマネの長すぎる独り言は謎の轟音によって突然中断された。

目の前で意地の悪い笑みでニヤつく変態腹黒真っ白少女の後頭部にドロップキックがめり込んだのだ。

予想外の衝撃に流石の変態腹黒真っ白少女も対応できずに綺麗に弧を描いて飛んでいき、「ぶべらっ!」と、乙女が出してはいけないような呻き声を漏らし顔面からヘッドスライディングをかます。


アマネは事態が目まぐるしく変わり、呆然と立ち尽くすしかない。

そんなアマネには見向きもせずに、ドロップキックをかました犯人――真っ白少女と全く同じ容姿で全身が真っ黒の少女――は頭から突っ込んでK.O.している真っ白少女に向かっていき、その髪の毛を掴んで顔をあげさせると頬に思いっきり張り手をした。

見ていたアマネはドン引きである。


「いったぁぁ~~!!」

「いったぁ、じゃありません!アマネさんが困っているでしょう!姉さんが無駄な事してちっとも話が進まないじゃないですか!」

「でもサウスゥ~。この子いじるとおもしろいんだよ。表情に感情がでまくりでさ。笑ったり怒ったり悔しがったりコロコロ表情が変わるんだよ。つい私も調子に乗っちゃったよ。」


真っ白少女は叩かれて紅葉ができた頬を押さえながらアマネにちらりと視線を動かした後、先程の事を思い出したのかクスリと笑う。

アマネは感情がそんなにでていたのか、と羞恥で顔を真っ赤に染めて俯く。


真っ黒少女は真っ白少女の言葉に長い溜め息を吐き、アマネの方を向いて申し訳なさそうな顔をしながら口を開いた。


「アマネさん。姉さんが大変失礼致しました。さぞ御混乱されているでしょう。全てはこのバカ姉のせいです。後で煮るなり焼くなりしても構いませんので、今は何卒お許しいただけないでしょうか?」


真っ黒少女はペコリとお辞儀する。

後ろで姉の変態腹黒真っ白少女は、「誰がバカだ! 誰が!」とギャーギャー騒いでいるが、完全にスルーである。


対して雨音は真っ白少女よりは話がしやすそうだと、動揺しながらも首肯した。


「は、はい。僕も今どういった状況なのか全く掴めていないので、説明してもらえると嬉しいんですが。」

「ええ、もちろん。そのために私達がいるんですから。」


真っ黒少女はニコリと笑った。



―――――



「申し遅れました。私の名はサウス。双星の女神 サウスでございます。」


真っ黒少女ことサウスは行儀よくお辞儀する。

日本人のさがなのか、はたまた目の前の少女が女神であった事に驚いたのかアマネも慌ててお辞儀をした。


「そしてこの白いバカは残念ながら私の姉、双生の女神 ノウスでございます。」

「ちょっと残念ながらってどういうこと!?しかもバカってまた言った!」

「ではこのバカ姉はほっといて話の続きをしましょうか。」

「ちょっとー!!」


あまりに強烈な白黒姉妹にアマネは、「はあ。」と気のない返事をする事しかできなかった。

今のアマネの気持ちを端的に表すとこうだ。

何だこの姉妹、早くお家に帰りたい。


「ではまず初めに、うちのクソ姉の言っていたVRについてから説明したいと思います。」

「ク、クソになったぁ!」


曰く、所謂VRMMOは実際は存在せず、双星神たる二人がある理由によってつくりだした嘘である。

しかし、一応神ではあるので、理由があったとしても完全な嘘は建前上よろしくない。

そのためVRの正称をVirtual RealityではなくVital Roverと、パッケージに表記したのだとか。

騙されたと主張しても、パッケージにはちゃんと書いていて嘘は吐いてはいないと言い張るつもりのようだ。

もはや詐欺のような行為ではないか、とは決して口に出してはいけない。

真っ黒少女こと妹のサウスの顔は有無をも言わさぬ顔である。

アマネは本能的にこの黒いのには逆らってはいけないと悟ったのか、「ナ、ナルホドー」と冷や汗を垂らしながら無理矢理納得したのだった。


「あのー、質問してもいいでしょうか。」

「はい、どうぞ。」

「今頃、日本では大問題になっているのではないでしょうか?」

「ああ、それなら大丈夫ですよ。あなたがここに来た時点で全人類の記憶は改竄されていますので今頃は普通の大人気MMOとして売り出されているでしょうね。」

「じゃああのヘッドギアは?」

「ただの無骨なヘッドホンですね。他の人には入ってないですよ。」

「僕だけだったんですか?」

「その辺りの事も含めて、私達が嘘を吐いた理由というのを説明しましょう。」


世界は多重に存在している。

アマネがいた世界もまたその一つである。

そして、世界にはそれぞれ神が存在し管理している。

神々の仕事はその世界の発展。


神々は考えた。

どうすれば発展させられるか。


世界にはそれぞれ特有の価値観を持っている。

価値観は生ける物を縛り行動を疎外する。


世界を発展させるには、価値観を変化させ新しい風を吹かせなければならないのだ。

価値観というものは同じ価値観を持つ者の間では中々変える事は難しい。


ではどうするか。

異なる価値観を持つ者を受け入れればいいのだ。


それゆえに神々は互いの世界の魂を交換する。


今回この姉妹は交換する魂を選別するためにゲームを作ったのだ。

姉妹が管理する世界は剣と魔法のあるファンタジー世界。

それに興味を示しなおかつ交換に応じる人物を探すには一気に注目を集めなければならず、わざわざVRを用いたという嘘をついてまで噂を流したのだ。


「それで僕が交換対象なんですね。」

「はい。あなたはどうやら元の世界に未練がないようなので。それに最初にあのゲームを買ってくれましたしね。」

「あっ、そういえば女神様はどうやってゲームを作ったんですか。」

「それは小さなゲーム会社の社長に夢の中で刷り込んだんですよ。こんなゲームを作りなさいとね。」

「そ、それっていいんでしょうか。」

「そのゲーム会社は後々それで成功して大きくなるんだから逆に感謝してほしいぐらいだね。」

「そういうものなんですか。」


実際にそのMMOは大変出来がよく大ヒットし、それを皮切りに大手のゲーム会社に肩を並べる事になる。

後に社長は記者会見においてこう残したのだとか。

「夢の中で二人の美しい少女があのゲームを作るときっと成功すると私に言ったのだ。あれはきっと私に対する神託に違いない。」

数々の逸話が紡がれた中で冗談として捉えられたその言葉が本当の真実であったとは、事実は小説よりも奇なりとはまさにこの事なのだろうか。


閑話休題。


「話が変わるんですが、もしかして僕ってこの姿で行くのでしょうか。」

「はい。異世界に適応するために新しい体を再構築するのでその体ですね。」

「変更とかは……。」

「無理ですね。」

「自分で容姿決められるなんて最高じゃないか。二回も確認したし、神はそんなに慈悲深くはないんだよ。」


アマネは落胆する。

さらば我が息子よ、ともはやない長年連れ添った相棒に別れを告げ、心の中でさめざめと泣いた。


「まさかそんな可愛い子にするとは私達も思わなかったけどね。」

「ぐっ!」

「いやぁ、身長150cmだっけ?小さい子がタイプなの?なるほどなあ。胸もないみたいだし、こりゃあれだな。ロリk……」

「ち、違いますから!憧れです!小さい子が強力な魔法を撃つ事への憧れです!」


変態腹黒真っ白少女ことノウスは、アマネの考えている事がわかっているのかニヤニヤしている。

アマネは必死に否定しているが、それが逆に怪しいとは本人は気づかない。


「姉さん、アマネさんをからかうのも程々にしてください。アマネさん、他に質問などはないでしょうか。」

「本当に違いますからね!ゴホン!えー、では最後に一つだけ。僕は向こうで何をすればいいんでしょうか。」

「何もする必要はありませんね。」

「えっ、何もしなくていいんですか!?」

「君達みたいな人達を私達神は《命の漂流者》って呼んでてね。まあだからパッケージはVital Roverって書いたんだけどさ。別に何かを成し遂げてもらうために交換してる訳ではないんだよ。まあ君達が俗に言う異文化交流ならぬ異世界交流みたいなもんさ。だから普通に生活してくれればいいんだよ。」


正直アマネにとっては拍子抜けであった。

こういう系の物語のテンプレとして、魔王を倒せだとか、何かを集めろだとか、そういう目的があって異世界に放り出される事が多いのだ。


「さて、アマネさんも理解して頂けたようなのでそろそろ送還しようと思います。アマネさんへの迷惑料として色々便宜も図りますので御心配なさらずに。」

「あの、言語とかお金とか服装とかそこらへんはどうすればいいんでしょうか。」

「そこらへんも何とかしとくから大丈夫大丈夫。」


非常にノリが軽くてアマネはさらに不安になる。

アマネの不安を余所に足元に光輝く幾何学模様が浮かびあがった。


「ではではいってらっしゃーい。」


ノウスが暢気に手を振る光景を最後にアマネの意識は途絶えた。



―――――



アマネが先程までいた白い空間に、白と黒、対照的でありながら容姿は瓜二つな二人の少女がいた。


「行っちゃったね。」

「行っちゃいましたね。」


しばらく沈黙が続くが、黒色の少女が白色の少女をちらりと一瞥すると、訝しげに口を開いた。


「姉さん、なんでそんなにニヤついているんですか?気持ち悪いですよ。」

「き、気持ち悪いってなんだい!?私とサウスの顔は一緒だろ!?」

「そうですね。姉さんが気持ち悪い顔をしたら私も同じ顔である事に不快になるのでやめてくださいという意味だったんですけどね。」

「ひ、ひどいっ!!」

「はぁ……。で、どうしてニヤついているんですか?姉さんがそういう顔してる時良かった事一度もないんですけど。」

「いやぁ、彼、いや今は彼女と言ったほうがいいかな。彼女、中々面白い運命をお持ちのようでね。これからしばらく、見るのに飽きなさそうだと思ってね。」

「姉さんって本当に悪趣味ですよね。」

「それほどでもぉ。」

「ほめてないです。」


二柱の女神、ノウスとサウスは先程までいた少女に思いを馳せる。

前者は期待と好奇を。

後者は心配と不安を。


彼女の運命を見て喜び、怒り、哀しみ、楽しむ。


この世界を創った二人の少女は今日も永遠の時を過ごす。

ノウス=北

サウス=南

という安直なネーミング。

書いていると話の流れが不自然になったり、言いたかった事が抜けてしまったりが頻繁に起こります。

小説書くのは難しいですね。



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