第四案件 その1
私立夕祓学園――都内進学校のひとつである。
白を基調とした女生徒の制服は、特徴的であり、デザイン性も相まって人気の要素となっている。
(男子生徒の制服は、ごくありふれたブレザーとなっており、特筆すべき点は何一つ無かったりする)
文武両道を掲げてはいるが、進学校と言うこともあり、文に傾いていることは否めない。
私立と言うこともあり、学費は高め、門戸も決して広く開いているわけでは無いため、世間からはお嬢様学校として認識されている。
(ここでも男子生徒の扱いは軽い)
都内と言うこともあり、電車やバスといった公共の交通機関を利用しての通学生が多い。
駅から徒歩10分という立地の良さも売りのひとつではあるのだが、その10分、たった10分を歩くと言うことを嫌う生徒も少なからず居る。
自転車通学を許可してしまうと、そう言った生徒も自転車を使い始めることとなるため、同通学は、原則禁止となっている。
――理由によっては許可される――家庭の事情や、家からの距離等――が、そういう許可を得ている生徒は少数だ。
自動二輪車での通学は、当然ながら禁止されているが、近隣の商業施設に駐輪し、通っている男子生徒が毎年、絶えること無く出現する。
教師の側も、そういう生徒が出ることは承知しており、取り締まりに掴まる者、逃れる者が出るのも恒例行事と言える。
(進学校と言うことで、それなりにお行儀の良い生徒が集まるハズなのだが、毎年毎年、一定数は居るのが集団の不思議でもある)
「真希、おはよう」
夕祓学園に通う蒔田真希は、通学路で声を掛けられ振り向いた。
「真穂里、おはよう」
石綿真穂里――真希のクラスメイトで、ショートヘアの快活な少女だった。
陸上部に属しており、日々の活動で焼けた肌が、白い制服とのコントラストを織りなし、快活な――向日葵のような印象を振りまく少女だ。
――もっとも、その焼けた肌は、本人にとってはコンプレックスでしか無いのだが。
その真穂里が、軽く駆けてきて、真希の隣へと並ぶ。
「どうしたの? 今日は遅いね」
「朝練無かったからね」
「そっか」
「それよりも、真希」
真穂里が、身体半分前に出て、真希の顔を覗き込むようにしてきた。
「な、なに?」
「何やらカッコイイ男の子と、公園でデートしてたっていうじゃない」
「えッ!?」
「ほんとッ!?」
ふたりの後ろからも驚きの声が聞こえてきた。
真穂里の話にも驚いたが、その声にも驚き、後ろへと振り返る。
「朱音じゃない。お、おはよう」
「やっほー。真穂に真希」
「やっほー。朱音」
土井垣朱音、ボブカットでメガネを掛けた文学少女だ。
――黙っていればだが。
図書委員と言うこともあり、本を携えている姿は、絵に描いたような文学少女なのだが――
大人しい性格を思い描いて言い寄ってくる男子の心を、そのギャップで砕くらしい。
「で、で。そのカッコイイ男の子とデートをしてたって話を詳しく聞かせて、聞かせて」
「デ、デートなんてしてないしッ」
真希が慌てて否定をするも、朱音は、少しも信じていないようだった。
「本人は、否定してるけど、どうなのよ」
「あの親密な感じはデートですにゃぁ」
「な、何言ってるの。そ、それに、さっき伝聞調だったじゃない」
「ありゃ。バレた」
「でもでも、真穂が見てないってだけで、誰かが見たんでしょ?」
「ふっふっふ。被告の前じゃぁ情報ソースは明かせないわ」
「えーッ。じゃぁじゃぁ、後で詳しいこと聞きに行こう」
「もぅ。やめてよね。そんなんじゃないんだから」
真希は、むくれて否定するのだが、少なくとも朱音には通じなさそうだった。
面白いモノを見付けたという喜色満面の笑顔を浮かべている。
「あれ? でも、男の子と一緒だったことは否定してないよね」
真穂里の一言で、朱音は更に喜色を浮かべ、反対に真希は暗い顔となった。
朱音は、悪い娘じゃないのだけれど、たまに――ちょっと面倒臭い。
今がソレだ。
「公園にいた女の子のお兄さんです」
ちょっと――いや、かなりぶっきらぼうに――突き放すような感じで言った。
色々と端折ってはいるが、嘘は言っていない。
「もうちょっと、こう、面白おかしくはならないのかね」
朱音が、無茶振りをしてくる。
真希としては、もう苦笑を浮かべるしか無い。
ただ、彼女がこうして茶化してくれるお陰で、話が有耶無耶になることも多い。
真希にしてみれば、今日は、その流れに乗った方が得策に思えた。
「じゃぁ、続きは――教室で、だね」
――真穂里は、まだまだ解放する気は無いようだ。
笑顔を浮かべながら、のらりくらりと話題を避けつつ、本格的に問われたらどうしよう――と内心、頭を抱えるのだった。
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・・・ストックやばいですorz




