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江鬼神のリョカ  作者: 辻村深月
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鬼化

「朧………。」


目の前の人物を見ながら、リョカは立ち尽くしている。

その顔はいつものような落ち着きは無く、陰りを見せている。

笛を吹く手を止め、声をかけようとした瞬間、街道を裂くように鉄扇を払うと、まるで火の玉のように長髪の女に飛び掛かって行った。


「…朧オオォーーー!」


激しくぶつかった鉄扇と長髪の女の得物。

その衝突に耐え切れず、建物が崩れ、木片と煙が舞う。


「………リョカ!!」


煙が落ち着き頭を庇っていた腕を下ろして呼ぶが返答はない。

姿を探して晴れてきた空を見上げれば、月夜に照らされて二つの影が激しいぶつかり合いを繰り返している。


「逃がしはしない…!」


扇を広げて、空を切るリョカを涼しく流れるような動作で交わし、銀の髪の女はその裁ちバサミのような得物で切りつけた。

髪をなびかせながら叩き落とされるリョカ。

それを冷たい視線で見下ろし、朧と呼ばれた女はその得物を背中に収めた。


「…少し見ない間に、随分落ち着きがなくなったわね、涼香」


衝撃で凹んだ斜面から身を起こし、リョカはフラつきながら鉄扇を手に立とうとする。

それを見て、他の人型を留めていない鬼の相手をしていた雷蝉が叫ぶ。


「よせ!憎しみに身を委ねるな!!怒りに呑まれたらその分呪いが…!」


雷蝉がいい終える前に、リョカの目の色が変わる。

みるみる髪が白く染まり、見開かれる眼。


「…まて、リョカ!!」


制止を無視してリョカが飛び出すと、相手の女が先程と同じように受け止める。

が、次第にジワジワとリョカの力に押され、足元が沈む。


『…絶対に、逃さない!』


人とは思えない声でそう言ったリョカに対し、朧は顔を顰めると、大きく得物を振って無理矢理振り払いながら言った。


「…醜いわね、それに愚かだわ」


薙ぎ払われ砂塵が立ち込める中、再び顔を上げ向かって行きそうなリョカの首根っこを掴むと、そのまま元いた位置に身体を放り込んだ。

立ち込める煙を吸い込み咳き込みながら、何が起こったのかわからずにいるリョカの前に立ち見下ろす。


「…何をしている、このうつけ者が!」


白くなり異様に浮いていた髪がザワザワと栗立つ。

それでも感情に抑えがきかないのか、怯みながらも訴えかけてくる。


『…お前に、私の何を解ると言うんだ!誰にも私の気持ちなど解らない!』


長くなった爪で引っ掻いてきたリョカを、全く気にせず再び見下ろす。


「どうした?言いたい事はそれで終わりか?今何を為すべきかわからぬ者に用はない!引っ込んでいるがいい!!」


それを聞き、次第に髪の色が元に戻っていくリョカを捨て置き、屋根の上を見上げれば、その女が襲ってくるわけでも無く静観していた。


「…アナタ、明らかに他の人とは違うけど、何者?」


薄く笑いながらそう尋ねてきた女を見て目を細めると、今まで見ていて溜まったものを吐き捨てるように言い捨てた。


「答える義理はない、貴様には知る必要のない事だ」

「…………。」


黙って聞いていた女は片手で手を覆うと、これ以上無いほど笑い、目の色を変えた。


「面白い…まだこんな人間がいたとは。来た甲斐があったと言うものだ!」

「…雷蝉!」


言うや否や得物を構えた、女を前に笛を取ると、簡易結界を解き全てを俺とリョカの周囲に集中させた強化結界を展開させる。

弾かれて女は舌打ちすると、受け身をとって降り立つ。

そこへ、鬼達を一通り倒した雷蝉が落ちてきた木片を手に取ると、俺達の前に立ち、持てるだけ持った木片を投げつけた。

稲妻が天地を裂く。


「…逃したか」


引き際、異様な空気を放つ女の気配に警戒したが、追ってくる様子は伺えなかった。




隠し通路を通り城へ戻ると、苦しみ出したリョカを運び城の者を橋場に決して近ずけないよう命じた。

暫く唸り声や奇声を上げるリョカを、何も知らぬ氷雨が黙って外から見守っていたが、あまり聞かれたくはないだろうと話すといつもの様に屋根の上に上がって行った。

そして数日後…。


「気分はどうだ…」


目を覚ましたのに気づき問いかけると、疲れた顔をしたリョカはため息を吐くように笑った。


「…いい良いに見えます?」

「全く、物凄く悪そうだな」


それを聞いてまたリョカは同じように笑うとまた目を閉じる。


「上様…」

「何だ」


短い会話を途切れ途切れし、様子を見ながら手に持つ団扇で窓際から風を送る。


「こう言う時は同性の方に看病を任せるものでは…?」

「…知らなかった、お前オンナだったのか?」


弱々しく飛んできた物を団扇で退け、少し表情を和らげる。


「もう心配は無用のようだな…」


そう言って団扇を置き、出て行こうとすると、袖を引かれ歩みを止めてリョカの方に再び顔を向ける。


「お暇でしょう…もっと仰いで下さいよ」


暇か…。

元いた位置に戻り風を送り、リョカの涼しそうな顔を見て思う。

さて、橋場になんと言って弁明しようかと。




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