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江鬼神のリョカ  作者: 辻村深月
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涼しく香る

雷鳴をかき消す激しい雨が降る。


「あれ、リョカは?」


寝ぼけ眼の氷雨に問いかけると、雷蝉がキセルを口から離しため息混じりに煙を吐いた。


「そう言えば、今日でしたねェ…上様」

「……。」


また一際大きな音が外から響き、灯りが消える。

リョカは町だろうか。


「……バカめ」


一つ目を閉じながら、なお激しく降り注ぐ雨音を聞いた。





人気のない寺の縁側に座り、勢いよく屋根から落ちる雨水を眺めていた。

あらゆる物が洗い流されているような雨。


「……誰?」


視線を離さずにそう口にすると、寺の中から子供が二人、転がるように飛び出してきた。


「やい!そこの怪しい女、ここで何してる。 ここはオイラ達の縄張りだぞ!」

「そうだぞ!何してる怪しいオンナ!」


木の枝葉で武装する子供達を目にし、一体何を警戒していたのかと笑みがこぼれた。


「いらっしゃい、少ししか無いけれど」


小さい箱に入った飴玉を見せると、目の色を変える子供達。

そう言う所は年相応だとまたこぼれそうになる笑いを堪える。

おずおずと近ずいてくる少年達は、警戒しながらも箱に入っている物を取って走って行く。


「こっ、これで今回は勘弁してやる!物につられたわけじゃないんだからな!!」

「ないんだからな!」


リョカ姉、今日お土産は?

逃げていく少年達はを見ながら目を見張る。

その場に立ち尽くし、濡れるのも構わず空になった箱を見つめた。

視界が歪む。

あの日、泣かないと決めた筈なのに。

悔しさと悲しさを堪え切れずもう一方の手で口を覆った。




「俺の胸で泣けぐらい言ってやったらどうですかね?」


傘片手に物陰に嬢ちゃんに背を向けて佇みむ上様を茶化すが、やっぱそんな冗談じゃ何の意味もないか。

これは俺様には手にあまり過ぎる。


「そんな言葉で喜ぶ女じゃないだろう。好きなだけ泣かせて置け」


嫌な性質だ。

泣き崩れる嬢ちゃんを捨て置き元来た道を戻る上様。

全く迎えに来たくせによぉ。

素直じゃない最近の若い奴らを前に軽く肩を上げながら、急かす視線にヘイヘイと後に続いた。




暫く歩いた頃、立ち止まったのに気づかずぶつかり、見上げる上様に少し怪訝な顔をされながら片手を顔の前に立謝る。


「お前護衛する気あるのか?」

「わり〜わり〜」


ため息をつきながら、改めて辺りを気にする上様。

毎回何とも奇妙に感じはしても、あえて口には出さない。

鬼は鬼を倒せはしても、どこにいるかまで分からない。

ただ、上様。

アンタが何処に居ても光って見えるのは確かだ。


「嫌な空気だ」


雨の匂いも相まって不穏な気配を俺様でも感じ始めたって事は近いんだろう。


「雷蝉、何か来る」


雨音だけが支配する静けさの中から、それを貫くような刃が俺様の髪を掠めた。




人知れず泣き止んだ頃。

微かな光を近くに感じ取った。

不意に力なく笑い息をつく。

いらしてたんですね…。


「気遣いなど普段はしない癖に…」


瞳を閉じ空になった箱をしまった時、嫌な気配を近くに感じとり、ゾッとする程の胸騒ぎがした。

身を転じて、雨水の流れる屋根を駆けた。




何て多さだよ。

ふざけた数の鬼を前に流石の俺様も武者震いがとまらねぇ。

ひたすら背後からピーポー援護してる上様を気にしながら、酒瓶を投げつけ素手で手前の鬼を持ち上げるとそのまま投げつけて薙ぎ倒す。

黒焦げになる鬼ども。

しかしそいつらを踏み越えワラワラ沸いてくる鬼にニヤつきが止まらねぇ。


「嬉しいねぇ、そんなに俺様に痛めつけられたいかー?」


追い詰められる程燃える性質。

ヤバイとは思いつつも、性質って奴は根本からそいつを形取ってるってもんよ。


「雷蝉、程々にして真面目にやれ」


ピーポーやってた主人に窘められ、またヘイヘイと言いながら肩を落とした。

にしても妙に多すぎるのは気になる所だ。

それにあの女は…。

再び来る妙に色気のある女の斬撃が右腕を掠め血がにじむ。


「成る程ねぇ…アンタも俺様達と同じか?」


長い銀髪の紫の目をした女。

見た事のない裁ちバサミを交互にしたような得物を一振りし、女は俺様を見た後、その背後に注目する。


「下がれ鶴坊!!」


一瞬動きが遅れ叫ぶと、笛の音が止まる。

その刹那、凄まじい金属音と風圧が辺りを覆う。




弾き飛ぶも軽い身のこなしで屋根に降り立ち、片手で長い髪を振り払いながら女は微笑して言う。


「久しいわねリョカ。そう、生きていたの…今となっては涼香と呼んだ方がいいかしら?」

「………朧」


雨が降り続けている。

夢にまで見てうなされた相手を前に、私は目を見開くと扇についた雨水を振り払い、かつての親友を見据えた。


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