第二十三話
東京港区の信勝のマンションに3人は転位した、広いリビングには既に5人ほどが集まっていた。
「おお帰ったか、現地はさぞ大変じゃったろう怪我などせんかったか さぁこっちに来て座れ」
父はまるで自分の部屋に人を招いたかのような振舞いだった。
達也はリビング入り口に佇む信勝をちらっと見た、その時彼は意識的に視線を外した…と達也には感じられた、やはり急な集団押しかけに気分を害したのか それともオワフ行きを拒んだ後ろめたさからか…。
「達也よ まずは見たありのままを皆に伝えてくれぬか」父は顔を綻ばせ達也の顔に見いった。
達也はオワフ島に着いてからの出来事を詳細に語り始めた、その途中信勝のことが気になりちらちらと彼の顔を盗み見たが彼はなぜか始終黙って目を伏せていた。
信勝は何を考えているのだろう…初めそんな想いで報告に集中出来なかったが 他の皆が真剣な顔で達也に聞き入っているため次第に信勝への気配りは心の片隅に追いやられていった。
語り終わった時 皆の顔は暗く沈んでいた、達也は死体の所見を詳しく話しすぎたかと後悔した。
「あの環境に2週間も晒されたならオワフ島住民も観光客も全て死に絶えたと考えざるを得ません」
達也は一人一人の目を見詰めそう結論したのだった。
「しかしのぅ…100万人じゃぞ、航空機事故でも絶対助からないと言いつつも一人や二人は奇跡的に生き残ることがあろう、ましてや100万人ともなれば生存者皆無などは有りえぬじゃろう」
達也の父は誰に言うのでもなく歎くように呟いた。
「皆さん、例えばマグロなど貯蔵する大型冷凍庫はマイナス40~50度有りますが あの中だったら例え電気が止まったとしても2週間くらいなら外気温より低いはず、それと島北東部の小高い北斜面には洞穴が数多く有ると聞いています、もしその洞窟奥に避難していれば助かるのでは…」
哲也はふと浮かんだ思いつきを自信なさげに喋った。
「哲也君の言うとおり何らかの奇跡で生き残ってる住民はいるでしょう、でもそれは時間の問題です、ともかくあの遮蔽ドームを早期に消し去りオワフ島を元の環境に戻さければ助かる者も助かりません、皆さんその対策を急ぎましょう」達也は言うと全員の顔をもう一度見渡した。
「そうじゃの悲観に暮れていては事は進まぬ、ではこれよりその対策を打ち合わせるとしようか まずは儂の考えから聞いてくれぬか」達也の父は長老を自負してか最初に言葉を発した。
「達也が先程言っていた小型住居用ドームじゃが 多分それは遠い昔上級世界で使われていた旧式なトーチカ防護用の遮蔽ドームであろうよ、あれは小型じゃがそうとう強靱で10インチ砲弾でもびくともしないと以前聞いたことがある。
しかし今頃そのような骨董品などを持ち出すとは とても上級連邦政府の仕業とは思えぬが…。
まっそれはともかくとしてオワフ島を覆う遮蔽ドーム形成放射装置と発電機はドーム外にあると言うたな、彼らが何故それらをドーム外に設えたかはドーム形成のための放射出力が遮られるためか或いは発電機の放熱量が高すぎてドーム内に置けぬ為じゃろう。
じゃがそこが付け目よ、我々には爺様達が残してくれたバリヤ発生器が有る、あれで身を防護すればドーム外の放射装置と発電機には容易に近づくことができよう、なにせ彼らがそれを阻止しようにも70度を超える外に飛び出してくるとは思えんし、また飛び出したとしても灼熱下での戦闘は数分が限度であろうからのぅ。
それと攻撃を仕掛けられたとしてもあのバリアを打ち破る兵器は未だ上級世界には無いから安心よ。
と言う訳でオワフ島を覆う遮蔽ドームを取り除くことはすぐにでも実行できる、問題はここからよ 発電機を壊せばオワフ島を覆うドームも消えるが小型住居用ドームも消える、となれば彼らはどうするかだ…。
遮蔽ドームが消えれば彼らは灼熱地獄に放り出されることになろう、風の強い今なら外気温はすぐにも元へ戻るであろうが それでも一時間以上はかかろう、その間を耐え忍ぶとはとても思えぬ。
どうせ己らがつくった灼熱地獄に怯え 慌てふためいて上級世界へ逃げるであろう、それからよ…問題はその後彼らがどう出てくるかだ。
ここまでは皆も想像しておったと通り思う、じゃが納得出来んのは彼らはなぜオワフ住民を死滅させようとしたかだ、上級人であれば現世界に侵入し生活の基盤を築こうとも現世人類には彼らを見ることも触れることもかなわぬ、そんな次元からして違う下等極まる現世の民を邪魔者扱いに殺す必要はあるまい。
我々の如く現世に生まれ 長じて上級人類の認識を持った者は現世人類に姿を晒すことも消すことも出来るし現世人と同様に生活基盤を現世に求める欲求もある、しかし彼ら上級世界に生まれ上級世界で育った人類には現世人に姿を晒す術など持ち合わてはいないし また晒す必要も無い。
言い換えれば現世人類の存在など端っから眼中に無いと言うことよ。
つまり上級人類にしてみれば現世人類など蜻蛉のようなもの、居ようが居まいが意識さえしていないだろう、つまりあの遮蔽ドームで現世人類を蒸し殺すという企みなどは端っから無く、強いて言えば偶然ドーム内に蜻蛉がいたくらいにしか思ってないだろうよ。
ではなぜ彼らはオワフ島に遮蔽ドームを架けたかじゃ。
儂は全く異なる意味を持つと思えてならぬ、それは現世概念を逸脱する企みとしか今は言えぬが…この点 皆の意見を聞きたいのじゃがどうであろうのぅ」
話に聞き入り皆その慧眼に…そういう考え方もあるんだと感心した、そんな最中 急に意見を聞きたいと振られても返す意見などあるわけはない、みな口を閉ざし俯くしかなかった。
「意見は出ぬか…よし!こうなったら捕まえるしかないな、転位阻止チップは雄三君の親父さんの脳から外したものが有るし転位阻止バリアも上級世界から2台持ってきている、よし至急捕まえるか」
父は言ってソファの背もたれに体を預けた。
「父さん捕まえるって…誰を」達也は父の言ってることがさっぱり分からず目を丸くして聞いた。
「誰をって ドーム内に潜む上級人に決まっておろう」と事も無げに返す。
「彼らの一人を捕まえ自白させなきゃ彼らの真意は掴めぬだろう、対処はそれからよ」
皆呆然と父を見詰めるだけで返す声は出なかった。
「それって…また我々3人がやるのですか…」と哲也が震えを帯びた声で父に聞いた。
「当たり前じゃろう、それとも儂ら爺にやれとでも言うのかえ」
「いえ…そんなことは行ってませんが、でも3人じゃ…」
「信勝君と祥一君を付け足し…おい祥一君!そんな後ろに隠れとらんでここへ来い、どうよこの5人なら頼もしい限りじゃろう」父は哲也の目を見据えた。
「・・・・・・・・」
「よし決まった、では具体策に入ろうか」父は言いながらノートを取り出し白地の頁を開くと「達也よドームと放射装置それと発電機の配置をここに書いてくれぬか」とノートを達也の前に置いた。
その有無を言わせぬ声音に達也は一瞬父の目を見た、その眼光に達也は抗うことも出来ず仕方なくペン握ると白地の端から配置図を書き始めた。
途中信勝のことが気になりチラッ見した、しかし信勝は相変わらず沈んだ顔で俯いていた。
配置図を書き終え達也はノートを父の前へと返した、すると父は赤のボールペンを取り出しそこにマークやら矢印を記入し始める、みな暫くそれに見入っていた。
「さて説明するか」そう言うと父はペン先でマークを示しながら説明に入った。
「Aが雄三君よ 君は爆薬の知識があると聞いたから爆破係をしてくれ、ドーム形成放射装置と発電機の爆破担当よ、Bは達也お前じゃドーム内のこのテントの角に転位し待機する、Cは哲也君じゃ、君も同様に反対側のこの角に待機する、二人は行く前にスタンガンを購入し持参すること。
雄三君の仕掛けた爆破を合図に行動するのじゃが爆破と同時に小型住居用ドームは消失し彼らは灼熱の外気に晒され右往左往するじゃろう、この時彼らの一人をスタンガンで気絶させここへ連れてくるのじゃが、とにかく彼らが上級世界に転位する前に事は完結させねばならん」
ここまで言って父は5人の顔を一人一人見ていった。
「信勝君…君は先から何も言わず俯いてばかりおるが何か思うことでもあるのか」
父は無遠慮に信勝を見据えた。
「い、いえ…思うことなどは、ただ僕はオワフ行きから外れたい…そう思って、前にも言いましたが僕には闘争心の欠片もないというか、人と戦うことが恐怖なんです 多分子供の頃 散々虐めにあったトラウマが原因と思うのですが…こればかりは今でもどうにもならなくて、とにかく竦んでしまうんです 昨夜もオワフ行きを考えると一睡も出来なくて、我ながら本当に情けなくて…」
「そうか…そんなことなら致し方なし、君が行くことで皆の足手まといになったら捕まえるどころではのうなるでな、今回は外れよ 今後君の能力を生かす機会もあろう、もう気に病むでない」
信勝は己の不甲斐なさが悔しいのかそれとも相手にされないことが悔しいのか涙を零しまた俯いてしまった。
達也はそれを見て信勝のトラウマの深さを思い知った、しかし却ってそれで気が晴れた。
達也は彼の憂鬱はもっと別の深い意味を持つと考えていた…しかし聞いてその単純明快さに呆れた、もう今後彼に対し心配に思うことは無いだろうとこの時思った。
「父さん、やたら簡単に彼らを捕らえよと言いますが以前上級世界の官憲らに捕らえられたとき腕の骨にヒビが入るほど彼らの腕力は強く とても彼らに太刀打ちなど出来ないのでは…」
「達也よ その時はそうだったかもしれん、しかしあの世界に行った後 お前は己に力が漲る想いに驚いた経験はなかったか、ここにいる皆もお前と同様あの世界に行った後、現世人など指先一つで捻り殺せるほどの膂力を感じ、証拠に雄三君などはホノルルの屈強な米兵5人を相手に圧勝したと言う。
よって今のお前なら充分に彼らに太刀打ちできるはず、ましてや空手をやってたとあれば相手が上級人類であってもお前の方に分があると儂は思うんじゃよ」
達也は言われて思い出した、以前当たり屋との闘争の際 相手の首さえ引きちぎることが出来そうに思えたことを。
「あのう…僕は何をすれば」と伊藤祥一が遠慮げに聞いてきた。
「おお祥一君を忘れとった、そうさなぁ君はドームの外で3人が危うくなったら銃で応戦してくれるか」
「僕が銃で応戦…銃を持たせてもらえるんですか、分かりましたやりましょう」
一番年若い祥一は嬉しそうに銃を撃つ真似をし皆の笑いを誘った。
「さて細かい話しと今後の段取りを詰めようか」言うと父はノートに細かく段取りを書きだした。
翌日の午後3時、雄三・哲也・祥一の三人は達也の会社の社長室に転位してきた、皆それぞれに昨日と同様のリュックを背負い 何を勘違いしたのか祥一だけは迷彩服に編み上げの軍靴を履き腰には30cmもあろうかという巨大なサバイバルナイフを帯びていた。
みな祥一の出で立ちに苦笑するも その気概を逞しいと感じ惚れ惚れと見入った。
「そんなに見ないで下さいよぉ、何か僕だけが浮いてますよね」そう言うと祥一は顔を赤らめた。
社長室中央に置かれた応接机には達也が昨夜の内に用意した銃3丁とスタンガン2丁、それとバリア発生器4個に車用発煙筒3個が置かれてあった。
達也は皆に椅子に座るように促すと机上に置かれたバリア発生器の1本を手に持ち祥一に向かって機能説明に入った。
「このバリア発生器だがこのキャップの捻りは3段階あり、1クリック目が“軽”でバリア内温度及び酸素量の保持と熱線の軽減が可能になる、2クリック目が“中”で“軽”プラスα・β・γ放射線やレーザー及び銃弾等の外因防護を可能にする。
最後に3クリック目の“強”だがこれは全ての放射線及び砲弾クラスや超高熱にも耐える完全防護を可能にする、しかし全く光が入らぬことから外も見えなくなるゆえ使用時には充分注意すること。
それと私はこのスタンガンで奴等の一人を捕獲するから銃はかえって邪魔になる、だからライフル銃は祥一君、散弾銃は雄三君と哲也君が持参して下さい、。
雄三君はC-4爆薬と時限雷管を再度点検し安全を確認してからリュックに入れてね。
おい祥一君!銃口は危ないから上に向けてよ、それとこのセレクターレバーがSAFEに選択されているか常に確認してリュックに差し込むこと、いいね!」
達也は皆を点検しながらリュックにスタンガンと発煙筒を入れ肩に担ぐとバリア発生器を手に持った、皆もそれに倣って準備を整えていく。
「さぁ皆準備はいいかい、じゃ行くとしようか」言いながら達也は皆に目配せを送った、その合図とともに4人の実像は部屋から消えた。
再び現れたのはミニラニ・マウカラウナニバレーの西斜面奥のあの朽ちた大木の陰だった、4人は大木に身を寄せ辺りを覗った。
現地時間は午後8時、空は曇っているのか漆黒の背景に敵の小型住居用ドームだけが煌々とした明かりに揺れていた。
雄三はリュックを肩から下ろすと中から爆薬と雷管を取り出し手に抱えた、達也と哲也はスタンガンを取り出しテストを行ってから腰のバンドに挟み発煙筒はポケットに入れた。
祥一はといえばリュックからライフルを抜き出し弾倉を外して実弾を点検するまではよかったが再度の装填が出来ず首を捻っていた。
それを見かねた雄三が祥一からライフルを取り上げると弾倉を装填し「撃つ前にセレクターレバーを切り替えるのを忘れるな、それと弾は20発だからね」そう言うと突っ返すように祥一に返した。
(雄三君爆薬と雷管をセットするにはどれほど係る?)達也は思念で雄三に語りかける。
(んん放射装置と発電機の2箇所に仕掛けるから5~6分と言ったところかな、僕は装置の心臓部は分からないから達也さん仕掛ける際は位置を指示してくださいね)
(よし 今が8時10分だから20分丁度に爆破する、私は雄三君に仕掛け位置を指示したら爆破1分前にあのテントの角に転位する、哲也君はあの反対の角に2分前には転位して待機すること、皆バリアのクリックは“中”にセットされてるか再度確認してね、それと時計の針も。
祥一君はここで我々に何かあったら応戦すること、もしヤバイと感じたら皆を待たずに先程発った私の部屋へ逃げ込め、それと皆も同様に何かあったら人のことはかまわず自分の判断で私の部屋に逃げ込むこと、いいね!)
言うと達也は雄三を振り返り(行くぞ!)と合図し二人は立ち上がりざまにフッと消えた。
二人は放射装置と発電機の間へ転位した、ここなら小型住居用ドームからは死角となる。
(雄三君 発電機はここに…放射装置はここがいいかな、じゃぁすぐにセットして)
(達也さん仕掛けようにもバリアを解除しなくちゃ近づけないよ…外気は80度くらいあるのかなぁ)
(サウナは100度あっても10分くらいなら平気だろ、だったらサウナに入ったと思えばいいじゃない、じゃぁ頑張ってね)緊張をほぐすため笑いながら言うと達也は放射装置と小型住居用ドームの間に置かれた大型トランスの陰に身を潜ませドーム内を覗った。
幸いドーム内に人影は動いていない、多分敵はあのテント内で寛いでいるのだろう。
達也は時計を見た 爆破まであと5分、後方では雄三が袖で汗を拭きながら爆薬セットに大童である。
爆破2分前、振り返ると雄三がOKのサインを出していた、達也はそれを確認すると指先を転位前の大木に向けて指差し、戻れと合図を送った。
雄三が消えると達也は腰からスタンガンを引き抜きポケットから発煙筒を取り出した、そしてドーム内の移動ポイントに向け思念を集中し転位した。
転位するとすぐにテント角に身を潜ませ辺りを覗う、動く陰は周辺には見当たらなかった。
達也はそっと頭をテント通路側に出しその通路を見渡す、すると二つ目のテント向こう側に哲也が手を振っているのが見えた。
テント状のものは1辺が10m程の箱状を成し、ドーム内に4つが四角に配置されていた、達也は中の会話を聞き取ろうと思念を研ぎ澄ませた、潜むテント内には3人の思念が感じられ達也はどう戦うかを頭でシュミレーションしてみる。
その時ドームの地面が激しく揺れ 瞬間 明かりが消えた、達也は立ち上がるとバリアを解除し発煙筒に着火するとテント内へ投げ込んだ。
敵は相当驚いたのか転げ出るようにテント外に飛び出してきた、そして常温から急激に灼熱に晒されたことがショックだったのか頭を抱えその場で転がり始めたのだ。
達也は敵3人の内 最後に出てきた者の上にドカっと跨がると首筋にスタンガンを押し付けた、敵は一瞬震えすぐに弛緩していく。
その時床に転げていた二人は達也に気付くと眼を剥き怯えたように後ずさった、達也はすかさず飛び出すと右側の男の首へ渾身の回し蹴りを叩き込んだ、そして振り切った体の捻りをバネに今度は左の敵の喉元へ足刀を蹴り込む。
その間わずか3秒、崩れた敵が起き上がろうと藻掻く最中 達也は何を思ったのか腕を広げると口を大きく開き歯を剥きながら大音声で「ガオーッ!」と吼えたてた、その瞬間彼らは驚愕に顔を歪ませ逃げるように消えていった。
一人残され弛緩している男の両手を素早く後ろ手にインシュロックで縛ると達也は横を見た。
発煙筒の薄明かりに哲也の格闘シーンが浮き上がって見えた、敵は二人がかりで哲也に襲いかかっている、陰はもつれて拳の鈍い音が頻りに聞こえてくる、しかしどう見ても哲也の方が多く殴られているようだ。
哲也は発煙筒を投げ込んだ後 バリヤ発生器を機能させる余裕さえ無かったのだろう。
達也は敵の後方へ転位すると先程効果大であった大音声をふり絞った、その時振り返った敵の驚きようは滑稽なほどである まるで不意に熊にでも襲われたかのように驚愕すると顔を引き攣らせながら我がちに身を捻って消えた。
どうやら声帯が退化した上級人には生の音声は恐怖に値するのだろうか、達也は哲也を引き起こすと周囲を見渡した、他に敵は見当たらない、この灼熱に驚いて全員転位逃亡したのだろう。
その時祥一が駆けつけてきた。
(怪我はありませんか…)心配げに祥一がのぞき込んでくる。
哲也は顎を殴られたのか唇から血を滴らせていた。
(二人同時に飛びかかってくるもんだから技のかけようもなくて…くそぉ痛たた)
(達也さんもう誰もいません、全員逃げたようです)
雄三は奥のテントを見てきたのか息を切らしながら昂奮顔で報告してきた。
4人は周囲を注意深く窺いながら倒れている男の前まで歩いた、気付くとあの灼熱の外気温は肌を焦がすほどには感じられず 4人は思わず笑みを湛え見つめ合った。
(さて、一人捕まえたからもういいだろう、こいつが目を覚まさぬ内に急いで戻ろうか)
言うと達也は弛緩している男の上半身を引き起こし腕に抱いて3人に合図を送った。