第三話*研究者、副業は医師。
セルス・モドン視点
――王城医療班長官
「はああ? 子供の治療?」
王城の一角にある医療室でボクは声をあげた。室内にはボク以外に誰もいないが、その代わり小さな蝙蝠が羽ばたいている。
「なんでそんなことをしなくちゃいけないのさ。
そもそも"四、五歳の子供"って……キミに知り合いの子供なんて居なかっただろ?」
蝙蝠からくぐもった声が聞こえる。声の主は、騎士団の任務先にいるアデュールだ。
『つべこべ言うな、任務先で拾った子供なんだ。
応急処置はしたが意識が戻らない。近くの医者を探すよりも、城に連れ帰った方が早い。
今から帰るから準備しとけ。』
「なんで命令口調なのさ……。」
それに返答しているボクはセルス・モドンという。一応王城の医療チームのリーダーをやっている。
でもボクの本業は生物――主に人間――の研究だ。
「ボクぁヤダよ、そんなの。ボクがこんな仕事してるのは素晴らしい発見をするためなんだから。そんな面白くなさそうな依頼はごめんだ。」
『いや、お前が好奇心旺盛だというのは知ってるが――』
「キミもやっと理解してくれたようで嬉しいよ。」
『いや、ただの嫌味のつもりなんだが。』
アデュが何か言ってるがスルーだスルー。
「でもキミならもう分かってるだろ。怪我したただの子供なんて興味ないし。」
きっぱりと言い切るボクにアデュールは声色を変えた。
『……じゃあ、興味の出るようなことを教えてやろうか。』
「ん?」
『この子供、魔法が使えるようだ。』
「!?」
この世界では全ての人間が魔法の属性を持っていると言われている。ただし、それは使う素質があるというだけであって、使えるかどうかは別問題だ。一般人の中にも魔法が使える者はいるが、魔法で魔物や敵と戦う騎士団からすれば使ったうちには入らない。
訓練もしていないであろう四五歳の子供が、【先祖返り】のアデュールにそのようなセリフを吐かせるということには、確かに興味をそそられる。
『それに……。』
そしてボクは、続けられたアデュールの言葉に背中を押されて、依頼を受けたのだった。
「セルス、頼む!!」
「お、来た来た!」
医療室に一人の騎士が駆け込んできた。アデュールだ。
ボクは子供とやらを観察しようと嬉しそうに立ち上がるが、アデュールの抱える血だらけの子供を見て真剣な顔に――
「うわあ、すごい傷だあ。」
――なる訳がないじゃないか。
ボクは根っからの研究者だ。本人にとっては深刻な怪我や病気でも、ボクにとってはただの研究材料に過ぎない。この面倒くさい王城での医療なんてのを続けているのも、時折こういう発見や面白いブツに出会えるからだ。
それにしても、と僕は考える。
これは治し甲斐がありそうだ。肩に刃物が深く刺さっている。一応止血はしてあるみたいだが、ちゃんと処置しないと腕が動かなくなることだってあり得る。
もしこの子供に本当に魔法を使わせたいのなら、少し真剣にやろうかね。
「しっかし本当に銀髪なんてね。初めて見たよ。」
とはいえこれくらいの傷なら少しよそ見をしながらでも治せるので、治療しながらアデュールに訊いてみた。
「ああ、髪が真っ黒な俺が言うのもあれだが、確かに珍しい。」
「話を聞くだけだと薄い灰色なのかなと思ったんだけど。白銀っていうのかな、とても綺麗だ。」
「【オーティカル】みたいな感じか?」
「オーティカル……【神の子】?」
ボクはその単語に少し手を止め、ちらりとアデュールを見やった。
「珍しいね、キミがそんな言葉を使うなんて。」
それを聞いてアデュールが嫌そうに眉を顰めるのが視界の隅にうつる。
オーティカルとは古代語で神の子、光の子というような意味を持ち、持っている魔力のうちの殆どが光属性である者のことをいう。
そして、それと対になる闇属性を強く持つ者は【ヴァミラー】……「魔の子」と呼ばれる。どちらも貴重な存在なので特別視されているが、【ヴァミラー】のアデュールは偏見に満ちたこの言い方が大嫌いだったはずだ。
「別に差別用語として使った訳じゃない。すぐ思い浮かんだだけだ。」
「はいはい。」
ボクはそれを受け流し、先の質問に答えた。
「いや、この子は光属性じゃないよ。」
「そうか。俺が見たのは風の魔法だったが――」
「風でもない。」
「え?」
少し驚いたアデュールの様子を見て、ボクは少し面白くなった。くくっと笑いが喉から漏れる。
「火でも水でも土でも、ましてや闇でもない。」
「な……!?」
「この子は、無属性だ。」
その時のアデュールの顔はとても見ものだった。
遅くなり、本当に申し訳ありませんです。
全然話進んどらん……!!
ほんと、頑張らないと。。
2011/10/27
【神の子】⇒【オーティカル】
【魔の子】⇒【ヴァミラー】にしました。由来は一応あるにはあるけど、内緒です。
2011/11/29 改行の位置
「セリウス」⇒「セルス」を変更しました。
2012/1/1 セルス視点に直しました。そしたら彼のイカレ具合があまり伝わらなくなった……。また別の機会にそれが出せれば……。