第一話*初日
「ん……。」
太陽の光が眩しくて、遊坂 龍駆は目を覚ました。
……眩しくて?
そんなはずはない。龍駆が昨日寝た部屋は、光を完全にさえぎる密室だったのだ。
(ここ、どこ……?)
辺りを見回してみると、どうやら小川の畔に寝ていたらしい。
とりあえず、人のいる方に行こう、と思い立った龍駆は人のたくさんいる方――街に行くことにした。
龍駆はまだ六歳で、同年代の中でも小柄だ。
そして特徴的なのは、銀色の長い髪。彼は生粋の日本人なのだが、生まれつき色素が薄く、銀色あるいは白にも見える髪と灰色の瞳をもつ。
そんな珍しい容姿が災いしたのだろう、
「おい、そこの餓鬼。」
街に入ったとたん、厳つい五、六人の男が声を掛けてきた。全員赤茶や緑など、カラフルな髪だ。
「お、意外と綺麗なお顔してんじゃねえか。」
「ちょっと俺たちと一緒に遊ぼうぜえ。」
龍駆はついこの間、"大人"から聞いた話を思い出した。
――知らない大人に声を掛けられたら、周りの人に聞こえるように大きな声で叫ぶことが大事だ。いいか、子供が大人と喧嘩しても勝てない。そういう時は迷わず逃げろ。
試しに叫んでみようと思ったが、喉が張り付いて声が出ない。
(どうしよう……。)
じりじりと迫ってくる男たちが怖くて少しずつ後ろに下がるが、男の一人がナイフのようなものをとり出したのを見て、思い切って身を翻し、全速力で走り出した。
夢中で走っていると、人がたくさん集まる広場に着いた。その多さと、そこにいるほとんどが黒髪でないことに一瞬足を止めそうになるも、追いかけられていることを思い出してその中に飛び込んだ。
人混みの中を少し歩き、広場を半周くらいしたところで立ち止った。
後ろから誰かが追いかけてくるような感じはしない。
(もう大丈夫……かな。)
何回か深呼吸して息を整える。あんなに走ったのに不思議と苦しくはなかった。
「もうそろそろじゃないかい?」
「おうよ、あと五分ほどでいらっしゃると聞いたぜ。」
「いらっしゃるって誰がだ?」
「あんた、知らないでここにいたのかい? 戦から帰還なさった王子殿下だよ。なんでもまだお若いのに敵将の首を討ち取ったとか。」
周りの大人がざわざわと喋っているのが聞こえるが、龍駆には所々しか分からない。
(王子でんか……? いくさ、って戦争のことかな。)
すると広場の向こうの方から大声がした。
「王子殿下がご到着なさったぞおーーー!」
うおおおおおおお!!!!!
広場にいる人がみんな雄叫びをあげる。びっくりした龍駆は思わずよろけてしまい、後ろに立っていた男にぶつかった。
(あ……。)
龍駆は慌てて振り向いたが、次の瞬間硬直した。
「よお、また会ったな、嬢ちゃん。」
そこにいたのは先ほどの男たちのうちの一人、だった。
龍駆はまた人の間を縫って歩いていた。後ろから男が追いかけてくる。人が多すぎて走ることができない。しかし相手もそれは同じであり、体が小さい分こちらが有利であるともいえる。
しかしそれでも体力の差がありすぎたのか、はたまた人混みに慣れてないからなのか、とうとう男に捕まってしまった。
「くっくく……。もう鬼事は終わりなんだよ、嬢ちゃん。大人しく俺と一緒に来な。」
(い……や、だ!!)
心の中で思い切り叫ぶがうまく声を出すことができない。
それが更に恐怖心を煽り、力の限り男の手を振りほどく。不意のことに驚いたのか、相手はうめき声をあげて腕を庇った。
「てんめえ……。いい度胸してんじゃねえかァ!!!」
「きゃああああ!」
男はいきなりナイフを出して龍駆に向かって投げた。周りの誰かから悲鳴が聞こえた。こんな人混みの中避けられるはずもなく、ナイフは龍駆の肩を貫いた。
「っっ!!」
男がそのまま襲いかかってくる。周囲の人々は龍駆達から距離を無理やり取り始めていた。龍駆はその間に僅かな隙間を認め、半ば体をねじ込むように身を投じてまた必死で逃げ始めた。
「待て、この餓鬼がっ、待ちやがれ!」
男が喚いてる声が聞こえてきたが、無視だ。先ほどと違い、血を垂らしながら進む彼を見て、人々が次々と道をあける。龍駆はその間をひたすら走り続ける。
すると。
いきなり人垣がなくなった。広場の中央に出たようだ。龍駆は驚いたが勢いが止まらず、そのまま道の真ん中にひいてあった赤い絨毯に転がる。その拍子にナイフが深く肩に食い込んだ。あまりの痛さに龍駆は目をつぶり、そのまま深い闇に呑まれていった。
ええと……こんなペースでええんやろか……?
ムツカシイですね。
とりあえず、異世界や魔法について何も触れないまま一話目終了です。。
9/9 一部改正致しました。
9/16 人々の容姿について、描写を加えました。