依存依存
男はありとあらゆることに依存して生きてきた。アルコールも、ギャンブルも。借金も、親族も。安易に手に入り、容易に走れるものには、何でもその身を溺れさせた。
特に男の家族には財産があった。男が求める度に、金銭的にも社会的にもその甘えを許してしまった。
怠惰な生活。うろんな考え。自堕落な言動。成り立たない家計。暗澹たる将来。
依存することで男の人生は全てが狂った。
狂った人生を直視するのは辛い。その辛さがまた男を依存へとのめり込ませてる。
依存が現実を忘れさせてくれ、またその依存が男から現実を更に奪っていった。
待っていたのは勿論破滅だ。
だが男は好運だった。全てが破壊される前に、周囲の助けもあり入院することができた。
それでも男の悲惨な状況が急に変わる訳ではない。治療は過酷であり、男は孤独でもあったからだ。
男の入院に手を貸した人間達は、別に男の身を心配した訳ではなかった。これ以上男が己の近くにいることを嫌ったのだ。
男の金銭的負担が耐えられなかったこともある。だが何より財産のあった家族は、これ以上社会の風評に耐えられなかったのだ。
何せ男は全てに依存する。他人の助け。余所様の財布。無関係な人間の言論。
男は自分で物事を決めない。物事を変えようとしない。いつも他人の力が頼りだ。
そのくせ男は何か悪いことがあると、力を貸した他人のせいにする。
俺は悪くない。あいつの意見に従っただけだ。あの時あいつについていったからだ。あいつが俺にお金を貸したからだ。あいつが要らない助けをくれるからだ。だから俺は悪くない。
男は全てに依存する。己の人生の責任すら他人に依存する。
そんな男は最後には病院に隔離されたのだ。依存する相手から完全に突き放されたのだ。男は依存の治療に関して、評判の病院に入れさせられた。
男は悶え苦しんだ。
病院では勿論治療が行われた。だが男の依存はなかなか治らない。
急激な治療は危険と判断されたのか、男の依存はある程度入院してからも許されたからだ。
男は苦しみながらも最後は求めるものが与えられた。それは以前に比べれば少量だった。それでも男は依存できることに一時の、そして偽りの幸福を見つけ出す。勿論待っているのは中途半端な治療だ。
男は治療の最後の最後には許される依存に――依存した。
そう、男は求めるものを与えられた。それはお金すらそうだった。
だがそんな有様では依存が治るはずもない。
俺は悪くない。
男はやはり他人の責任に依存する。おそらく一生依存する。
男の家族が病院を訪れた。家族は見舞いもそこそこに医師に多額の現金を手渡した。
それは男が仮に入院していいなくても、家族にたかったであろう金額よりもかなり巨額のものだった。
その病院は依存の治療に関して評判の病院だった。特に裕福層にとって評判だった。
男はその現金の束に己の暗澹たる人生を悟る。
男は病院に依存し、病院は家族に依存にし、家族はお金に依存したのだ。
もう一生この病院を出ることはない。
そのことを男は悟る。
そして、俺は悪くない。あいつらが悪い。俺の治療をしない病院が悪い。そのことを望む家族が悪い。そんな言い訳に今の己の状況を依存する。
いや、俺が依存していることが、あいつらにとっても幸せなのだと、男は己に言い聞かせた。
今日も男は己の依存に依存して、病院のベッドの上で無為に生きていた。