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第八話 ゴーストレイトショー⑧

「くっそー、もう一度っす」


「ま~て待て待て。一緒、一緒だから何度やり直しても結果が」


 再度部屋のボタンを押そうとする後輩を三上が静止する。


「こういう時はとりあえず家の前まで行ってしまった方が、向こうも気まずくなって出て来やすいだろう」


「ど、どうするんすか……?」


 待つこと十五分。

 エコバッグからネギがのぞく女性がオートロックをカードで開けて中に入ろうとしていた。


「お、おにいちゃーん、今日も疲れたねー」


「あ、ああ。夕飯なんだろうなー」


「お母さんに聞いたらサバの味噌煮だって言ってたよ。お兄ちゃんの好物だねー、やったねー」


 少なくとも演劇部員にはなれなそうな棒読みっぷりで、二人は女性と一緒にマンション内に這入った。

 そのまま三文芝居を続けながら女性といっしょにエレベーターに乗り、八階で降りる。


「さてと、八◯五号室っすよね」


 ピンポーン……。


「出ないんすけど。もっかい押してみるっすね」


 ピンポーン……。


「こりゃあれだな、インターフォンのカメラ越しにこっち見ててさっきの俺等だって無視決め込んでるやつだな」


 ピンポーン…………ドゴンッ!!

 不意に四辻が渾身の蹴りをドアに見舞った。フロア中に衝撃音が響き渡る。


「西川さーん、作家の西川匠さーん? いるのは分かってるんで出てきてくれませんか~!! これ以上こじれるなら、こっちとしてももっと大声上げないといけないといけなくなるんですけど!?」


 ……ガチャ。


 少しの間をおいて鍵が開く音がした。

 ドアが薄く開き、中から涼子の部屋にあった写真そっくりの男が姿を現した。違いといえばコンタクトの代わりにメガネを掛けていることくらいだろう。


「一体何なんだね君たちは。警察を呼ばれたいのか?」


 インターフォン越しに聞いたのと同じ硬質な声で男は言った。

 三上がすかさず扉の隙間に革靴を突っ込み閉じられないようにする。


「警察でもマスコミでも好きなの呼べよ。あんたがニ年前にやり捨てた未成年の女のことで話がある」


「…………」


 しばしの沈黙の後、ドアが開かれた。

 西川が玄関の縁に立ってこちらを見下ろしている。


 リビングに通してくれるつもりは……無いようだ。もっとも三上としてもお茶をいただいて和やかに話す気分ではない。

 玄関は広く、間接照明になっているサイドのカウンターには小物が並べられていた。


「ニ年前? 何のことだか分からんね」


「あ~そう言うのいいっす。中村涼子さんの件っすよ」


「涼子? ああ、あいつか」


 目の前の男が自身の先輩のことを下の名前で呼ぶことが、これ程心を波立たせるとは。三上は内唇を噛んで男がペラペラと語る涼子との馴れ初めを聞いた。


「……その涼子さんからあなたへ贈り物です。どうぞ」


 これ以上話を聞いていられなくなり、三上はスクールバッグからマフラーを取り出した。


「何だそれは?」


「見ての通り、涼子さんが編んだマフラーです。遺言……という訳じゃないですが、あの人のメッセージでこれをあなたに、と」


 西川は少しの間差し出されたマフラーを眺めていたが、視線を切った。


「いらないな。持って帰ってくれ」


「いらないとかじゃなくて、中村さんがあんたにもらってくれって言ってたんっすよ」


 四辻のきつい言い方にもまるで堪えた様子がない。


「あなたが、そこまで涼子さんを突き放すのは……あの人の作品を盗作して捨てたからなんですか?」


 思わぬ発言だったのだろう。西川の眉が動いた。


「盗作? 涼子がそう言っていたのか? いや、ネットの書き込みを真に受けたのか。確かに付き合った女の作品からインスピレーションを得ることもあったが……涼子の書いた小説なぞ所詮高校生のお遊びレベルで到底プロで通用するレベルじゃなかったよ」


ペラペラと喋る口は止まらない。


「普段の言動もなあ。エキセントリックにエキセントリックにって自分を特別に見せたいのは分かるけど、結局子どもが『もっと私を見て』って言ってるに過ぎない。俺から見たらどこにでもいる普通の高校生だったよ」


「……それで、涼子さんを捨てたんですか」


「ああ。つまらない女だったからな」


「あの人が死んだことに関して責任は感じたりしないんですか?」


「俺が何を? 責任? 勝手に死んだ女にか?」


 ヒュオッ!

 四辻が西川の顔面を殴ろうとしたのを、ギリギリで三上が静止した。なおも暴れる四辻を羽交い締めのような形で止める。


「離せ! こいつはぶっ飛ばさないと気がすまない!」


「四辻! 待て、いい、いいんだ!」


「おいおい、暴力的だな。もう終わったことでよくもそう感情的になれる」


「感情的なのはあなたでしょう」


 四辻をなだめながら三上は言った。


「そうやってべらべら言葉を並べ続けているのが、あなた自身の焦りと後悔を如実に現している」


「……ふん、つまらないことを。さあ、もう帰ってくれ。今度このマンションの周りで見かけたら、本当に警察と学校に連絡するからな」


「ええそうします。こちらの用はもう、済みましたから」


 高校生二人はそう言葉を残し家を出ていった。

 エレベーターの中で四辻はジトッとした目で三上を見た。


「先輩、ドサクサに紛れてわたしの胸触ったっすよね?」


「触ってない。たまたま手がぶつかっただけだ」


「ほらやっぱ触ったじゃないっすか……大体もしわざとだったら、あやかパンチの上に部長に報告するっすよ。まあ、今回はわたしも予定よりちょっと張り切りすぎちゃったんで不問に付すっす」


「そりゃありがたい」


「それで、マフラーは?」


「ああ、きちんと西川のお宅に、お届けしておいた」


「さっすが。これでミッションはコンプリートっすね」


「長い一日だったな」


 エレベーターは一階に着くと、無愛想にドアを開けた。




 嫌な夜だった。

 西川匠はそう思った。


ご愛読ありがとうございます。


これからも本作をよろしくお願いします。


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