第四話 ゴーストレイトショー④
「そんな、死んだ人間と会わせるなんてことができるわけ──」
「分かりました。やりましょう」
四辻の言葉を三上が遮った。
「先輩……」
「いい返事だ。あの子の家の住所は……」
「知っています」
「だろうね。それじゃ私はここで待っているから頑張ってくれたまえ。期待してるよ」
図書館のドアを抜けると、また暑い日差しが二人に容赦なく降り注いだ。
ガリ、ガリ、バリン。
四辻が口の中で飴を噛み砕いた。
「何なんすか、あの女。偉そうにいちいち上から目線で話してきて。先輩も先輩っすよ。いいように使われちゃって。大体中村って人は誰っすか」
「一度にいろんなことを言うな。俺も混乱してる」
「とりあえず中村です、中村。あの話に出てきた。女っぽい感じでしたけど、誰っすか。先輩の知り合いっすか?」
「中村中村呼び捨てにするな。お前の先輩でもあったんだぞ」
空気が一度下がった気がした。
「あったってことは……」
三上が駅の方向へ向けて歩き出すと、四辻もすぐにその横に並んだ。
「中村涼子。俺が一年の時三年だった人で当時の図書委員長。俺も図書委員だったから、そこそこ親しかった。俺がオカ研入るきっかけになったのもあの人がホラー小説寄稿してたからだしな……で、その年の冬に亡くなった。自殺だった」
「そ、そうだったんすか……え、そんな人の家にこれから行ってマフラーくれって言わないといけないんすか」
「俺一人で行ってもいいんだぞ」
「だめっすよ」
四辻が三上を追い越して三歩進むと振り返った。ゆっくりと西に傾く太陽を彼女は背負っていた。
「先輩の問題、すなわちあたしの問題っす。それに……先輩、肝心なところで口下手じゃないっすか」
にやりと三上が笑った。
「それじゃあ、一緒に来てもらうとするか。アイスくらいは奢るぞ」
「やた。ところで、いきなり家に行って平気なんすか」
「大丈夫だ。涼子さんの弟のカッくんと友達だからな」
スマホを出し、カッくんの連絡先にメッセージを送る。
「また小学生っすか」
「去年中学生になった」
「はあ。それで?」
「それで?」
「『そこそこ親しかった』だけの関係の先輩がどうして中村さんの家の場所を知ってるんすか? それもカッくんに聞いたんすか?」
「ん? ああ、涼子さんは朝弱くてな。最初は俺がモーニングコールしてたんだけど、ダメそうな日は家まで迎えに行ってたんだ」
そこまでして『そこそこ親しい』? この人の交友関係の定義どうなってんだ。などと口の中で四辻がモゴモゴ言っていたが、とにかく二人は駅についた。
「俺たちが行く旨、親御さんには説明してくれたらしい」
三上が端末を見ながら言った。
「マフラーもカッちゃんが持ってきてくれるんすか?」
「いや、お姉ちゃんの話はあの家じゃタブーみたいになってるから、逆に部外者の俺等が話を振ってくれないときついって」
「チューボーの割に頭回るっすね」
「君だって去年までチューボーだったろ」
「今は花の女子高生っすから。三上先輩もこんな可愛い後輩と電車デートできて嬉しいっすよね? ね?」
「俺は年上派なんだ」
「え、嘘。じゃあやっぱりその中村さんが本命? それともまさか部長? あとは亮さんっすか?」
「二ツ目は俺と同じニ年だろ」
「でも先輩誕生日三月っすから、限りなく高い確率で亮さんのほうが年上じゃないっすか」
「そう言われてみれば、二ツ目も年上……なのか?」
「ゲッ、墓穴掘ったかも」
などと話しているうちに三上が足を止めた。
目の前にあるのは特に目立つところのない戸建ての一軒家。表札には『中村』と刻印がある。ニ階建てで、ルーフ付きのガレージは今は空いていた。
「家にいるのはお母さんだけだそうだ」
「カッちゃんはどうしたっすか?」
「カッくんは友達の家でゲームしてるって」
「つまりあたしたちで何とかするしかないってことか」
家の前で三上は一瞬立ち尽くしたが、すぐにベルを鳴らした。
「今回はやる気じゃないっすか」
「からかうな」
『……中村です』
すぐにインターフォンから返事がある。
「あ、えーとえーと、三上です。その、以前涼子さんにお世話になっていた。今日は、その、えーっとえーっと、グエッ」
四辻のひじ鉄を腹に受けて三上は横にころんだ。
「失礼しました。わたくし四辻と申します。今日はたまたま近くを通りまして。中村涼子先輩には大変にお世話になっていまして、もしよろしければお焼香させていただけたらと思い寄らせていただきました」
「……」
少しするとカチャリという音ともにドアがゆっくりと開き、中年の女性が姿を半ば現した。
涼子の葬式以来にその姿を見た三上は、痩せたなと思った。
「どうも、お久しぶりです」
三上が頭を下げるとつられたように涼子の母も軽く頭を下げた。
「勝彦から聞いています。あまりお構いも出来ませんが、どうぞ中へ」
家の中はきれいに片付いていた。
なにはともあれ仏間で焼香をあげる。
飾られている写真の中では、腰まである長い髪を一本の三つ編みにした制服姿の女がはにかんだ笑顔でこちらを見ていた。
冬服……高校一年かニ年の写真だな。慣れない手つきで線香の火を消しながら(作法は四辻に教わった)三上は思った。三上が記憶する限り、高校三年の冬には彼女が人前で笑うことは無くなっていた。自殺するその日まで。
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