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第三話 ゴーストレイトショー③

 三上はガラス戸に手をかけて、手前に引いた。鍵はかかっておらず、すいと開いた。外から見た印象の通り、中は薄暗い。木の匂いと古い紙の匂いが二人の鼻をつく。


「失礼します…」

 やや腰の引けた姿勢で二人は中にはいった。


「えーっと先輩、どうするっす? 奥に幽霊探しに行きます?」


 四辻が三上を見ると、三上は背筋を伸ばし大きく息を吸っていた。


「失礼します! 雨ヶ丘高校二年、三上悟です! 幽霊さんはいらっしゃいますか!?」


「わ、びっくりしたー。急に大声やめて欲しいっす。さっきまで暑かったから脳がやられたっすか?」


「ひどいことを言うな君は。無論違う。物の本によると、幽霊は人の元気な気持ちに弱いらしい。だから先手を打ってイニシアチブを取ろうかと思ってな」


「うわ、この人幽霊にマウント取ろうとしてるよ。それで幽霊の気が引けちゃって、出てきてくれなかったら困るのうちらっすよ」


「まあ、出てこなかったら仕方ない。もっかい駄菓子屋戻って釣り竿借りよう。今からだと夕まづめに間に合うからちょうどいいだろう」


「うーん、このビビリ。先輩ってインテリぶってるけど、案外ノープランっすよね」


「図書館では静かにって、小中高校のどこかで習わなかった?」


 三上と四辻は顔を見合わせたまま固まった。二人以外の誰かの声が、図書館の奥から聞こえてきた。

 埃っぽく薄暗い図書館の中で、空気がぴりりと張り詰めた気がした。


 三上は唾液を無理やり飲み込むと、できるだけ控えめな声を出した。


「も、申し訳ありません。俺……僕は、先程も言いましたとおり、雨ヶ丘高校の者です。図書館の幽霊さんで、いらっしゃいますか?」


「さあ。どうして私がそれに答えないといけないの? それよりあなたたちがここで騒いだ話がまだ終わっていないんだけど」


 図書館の奥、本棚がいくつも並ぶその間から発せられる声は、ごく控えめな大きさであったが、それでも刺すように二人の耳に届いた。

 四辻が出来得る限り小声で三上に耳打ちした。


「やばいっすよ。雲行き怪しい感じっす」 


「う、うむ。一応俺の後ろにいろ」


「さすが先輩、格好いいっす」


 四辻は光の速さで三上の後ろに回ると、左肩をひしっと掴んだ。


 カッ、カッ、カッ。


 硬質な靴の足音が薄暗い図書館にこだまする。


 ゴクリ。三上の耳にはすぐ後ろで四辻がつばを飲んだ音が聞こえた。

 そして暗闇からは……雨ヶ丘高校の制服に灰色のカーディガンを羽織った女が姿を現した。髪は艶のかかったロングでスカートは膝上。


「び、美人っすね……」


 四辻の言葉に三上は答えない。


「先輩?」


 三上は目を見開いて女を見ていた。


「バカな、そんなはずは……いや、でも……涼子さん?」


「だ、誰っすか? 先輩の知り合いっすか?」 


 くっくっくっ。


 女が楽しそうに笑った。


「そうか、君には私が涼子に見えたか」


 三上が瞬きをするとそこにいるのは、この暑いのにジーンズを履き革のジャケットを羽織った女だった。赤みがかったウルフカットに二重のパッチリした目。

 美人ではあったが、三上の知る中村涼子の姿とは似ても似つかない。


「あの子は死んだだろ、そろそろ一年になる」


「ええ……すみま、せん。どうやら見間違えだったようで」


「いいや、見間違えなんかしていない。君はね、見たんだよ。中村涼子の幽霊をね」


「そんな、バカなことは……だって、あの人は」


「あの人は?」


「…………」


 三上は言葉を口の中で飲み込んだように黙ってしまった。


「当ててあげようか」


 女は書籍貸出カウンターに直接腰掛けると長い脚を組んだ。


「あの人は、もしも幽霊になって出てくるとしても俺の前じゃない、だろ」


「…………」


 図星だったのだろう。三上の目が大きく見開かれた。そして、図星だったがゆえに彼は固まったまま次の言葉を探せずにいる。


「あの!」


 どうやら目の前の女は幽霊じゃないと判断したのだろう。四辻が三上の横に移動して大きな声を出した。


「さっきから偉そうに喋ってますけど、そもそもアナタ誰なんすか?」


 女はまるで今初めて四辻に気がついたと言う風に三上の後輩に視線を投げかけた。


「そういえば自己紹介していなかったね。私は御堂(みどう)アヤメ。仕事はいろいろさ。例えばこの廃図書館に悪ガキが肝試しに来ないように見回りをしたりね」


「う……」


 御堂の堂々とした佇まいに四辻がたじろいだようだった。その後輩の肩に三上が手を置いた。


「涼子さ……中村先輩のことを知っているようですが、ご友人だったのでしょうか?」


 この場で最年長の女は顎に手を当てて面白そうに二人を眺めている。


「どうかな、それを君に言う義理があるのかどうか今考えてる」


 不意に御堂はなにもないはずの右を見た。そして手を叩いて笑った。


「……あっはっは。それはいい考えかもしれない。よ~し三上少年、この便利屋御堂から君に一つ仕事を、いや宿題を出そう」


「宿題?」


「そう、今から中村涼子の家に行って、こう、首に巻く……あれ、なんて言ったっけ? 冬に使う……」


「マフラー?」


「そう! それだ。それを持ってきてくれ手段は問わないよ。交渉でも盗みでも好きにやると良い」

 

「それをしたら、どうなるというのですか」


「中村涼子と会わせてやる」


 御堂はきっぱりと言いきった。

ご愛読ありがとうございます。


これからも本作をよろしくお願いします。


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