第十三話 十三階段の鏡④
翌日。五限の授業をフケった三上は、届けられた三雲学園のジャージに身を通した。
「ジャージか……趣味じゃないが、女装よりはずっとましだな」
まずは四辻の家だ。
娘の身を案じ青ざめた顔をした母親を説得し、四辻の部屋に通してもらう。
彼女の部屋をノックするが返事がない。仕方ないので勝手にドアを開けて中に入った。
こんな状況であっても女子の部屋に踏み入るのはいつも緊張するな。三上は思った。
ベッドの上で掛け布団が盛り上がってる。
「四辻……あやか、起きてるか?」
三上の問いかけに布団がモゾリと動いて返事をした。
「なんとか出来る目処がたった。三雲学園のオカ研の人たちも協力してくれる。あやかは行けそうか?」
掛け布団の隙間から手が伸びた。
「また、あの鏡の前に行くっすか」
「そうだ」
三上は差し出された手を握った。
「怖いけど……最後まで一緒にいてもらえるっすか?」
「当たり前だ。先輩だぞ」
モゾモゾと元気なく布団がめくられると、シワの付いた三雲学園の制服を着た四辻が姿を現した。昨日あのまま寝てしまったんだろう。目元が赤く泣きはれていた。
変わらず視線を合わせようとはしないが、それでも彼女の意思は明確だった。
「じゃあ、行くっす」
「ああ」
足元に視線を固定した四辻を誘導するのは楽ではなかったが、それでも前日の帰り道よりは気分的にも道のり的にもずっと力が抜けたものになった。
「今日はスカートじゃないんっすね」
「あんなもんいつまでも着ていられるかよ」
「似合ってたのに、残念っす」
「やめてくれ」
会話している間に三雲学園の校門に着いた。昨日と同じように東野が立っていたが、それだけじゃなく他に数名学園の生徒たちが待っている。
「みどり子、そちらは?」
「うちのオカルトサークルのメンバーです。三上さんが鏡の謎を解いたと聞いて招集しました。演劇部の大道具係から工具も借りてますから、いつでもいけますよ」
彼女の声に応えるように他の生徒達が脚立や電動ドライバーを掲げて見せる。
「ありがとう……それじゃ行こうか。鏡の答え合わせだ」
前日と同様に帰宅する生徒たちの流れに逆らう形で校舎端の階段までたどり着く。
そこは昨日に増して色とりどりのビニールテープがめぐらされ、幾重にも「立入禁止!」の紙が貼られていた。
おそらく昨日のうちに『生徒が十三階段の鏡を見て発狂した』と話が職員室に伝わり、厳重に警戒しているのだろう。
憔悴している四辻はそれでも学生カバンからカッターを取り出し、俺に渡した。
ザクッ、ザクッ、シュパッ。
「「おお~!」」
苦労してテープを切ると、三雲学園の生徒たちから控えめな歓声があがる。
「……毎回これやるの恥ずかしいな」
三上たちは十三階段を上った。
「鏡の覆いが戻ってるな。先生たちが? それともみどり子が?」
「私です。被害が拡散しないよう昨日のうちに友人に手伝ってもらって」
サークルのメンバーと言わなかったし彼氏かな、と三上は思ったが場の緊張感を削ぐし本題とずれるのであえて指摘はしなかった。
「まずは覆いを外そう」
三上の言葉にザワッとオカルトサークルの生徒たちが浮足立つ。
「大丈夫だ、脚立があるし俺がやる」
「私が脚立、支えますね」
「助かる」
その時、階下から足音が聞こえた。
「お前たち、なにをやってる! 昨日も今日も。そこは立入禁止だと書いてあったろ!」
昨日の教師だった。
「やばっ」
東野が小さく口にする。
「なんだ、脚立まで持ち出して。ひとまず全員ここまで降りてこい」
教師は目を三角に釣り上げ怒りをあらわにしていた。
まあ彼の言う通り昨日の今日だしな。
登りかけていた脚立を降りながら、三上はどこか他人事にそう思った。
雨ヶ丘高校オカルト研究部ニ年の男は、他校のジャージを着て踊り場に膝をついた。
「新藤先生」
「な、なんだ」
続いて床に両手をつき、深々と頭を下げる。
「この鏡にまつわる異変、必ず解決してみせます。だからどうか、見逃して下さい」
まさか土下座をするとは思わなかったのだろう。教師がたじろぐのが気配で分かった。
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