第十一話 十三階段の鏡②
三人は広い学園の中を校舎端に向けて歩いている。
「スカートってのを考えたのは誰なんだ一体。下着が外気に触れて不安になるだろう」
「男子用のスラックスじゃ可愛くないじゃないっすか。女子高生にとって可愛いは何より重要なんっすよ」
「そうか。女子も苦労してるんだな」
「今は三上さんも苦労なさってますけどね」と東野。
「本当だよ」
三上が相槌を返したところで問題の校舎端にたどり着いた。
途中何人もの下校や部活に行く生徒たちとすれ違ったが、見慣れない学生を不審がる視線はなかった。
「ここか」
三上が言ったその場所は、薄いビニール製のテープが何重にも巻かれたうえで『危険、立入禁止』と張り紙がされていた。
「十三段、あるっすかね」
「今からわかるさ。四辻」
「はいっす」
四辻が自身の学生カバンからカッターを取り出して三上に渡した。
プツプツプツプツ。
女装した三上は躊躇なくビニールテープを切り去った。白いテープの残骸が道を開けるように階段の左右に散らばる。張り紙がひらひらと宙を漂い、三上の足元に落ちた。
「おおっ」
「どうした、みどり子?」
「い、いえ。十三階段の話は三雲のオカサーでも半ばタブーになってまして。それを一気に……さすが雨ヶ丘高校さんは一味違いますね」
雨ヶ丘高校のオカルト研究部は異変に貪欲だ。それは伝統的にそうなのだが、現状は一ノ瀬花子部長の圧と来週に迫った締切が怖いから、という部分もあると思った三上は曖昧にうなづいた。
「それじゃ鏡を見に行くか」
三上を先頭に一行は踊り場へ続く十三段を上った。
踊り場に着いて左を向くと、大きな白い布が壁にかけてあった。
「これが例の鏡の覆い?」
「はい。私たちの代になってこの布を外した者はいません」
「手は……ちょっと届かないか」
身長百七十センチの三上がつま先立ちになっても届かない。
「しょうがないな」
三上が四つん這いになる。
「四辻、俺の背中に乗って布を取ってくれ」
「……先輩」
「なんだ?」
「その格好だとトランクス見えちゃうっすね」
「まあ!」
東野が両手を口に当てる。
「見るなバカども」
「よいしょっと」
上履きを脱いだ四辻が危なっかしく三上の背中に乗る。
「……ふう」
慣れないことをして三上が息を吐いたのを、後輩は目ざとく見とがめた。
「ちなみに、体重について言及したり上見たりしたら、先輩の腰が壊れるまでタップダンス踊ったうえに部長と二ツ目先輩にチクるっす」
「分かった分かった。どっちもやらないから早くしてくれ」
後輩の足裏の感触を背中に感じながら三上は言った。
「任せて下さいっす。ガムテで布固定してるだけだから、ほっ、よゆう……よ、ゆ……うわ、わわわ」
「お、おい!」
バリバリバリ、ドターン!
体勢を崩した四辻は厚手の布を持ったまま、三上の背から転げ落ちた。
「四辻さん!」
間一髪、三上が身体を投げ出した上に落ちたので、四辻は無傷で済んだ。
「びっくりした~。先輩、まじ感謝っす」
「肘が背中に当たってすげえ痛い……。まあ無事だったんならよかったよ……とりあえず降りてくれ」
三上の背中から体を起こした四辻、その手には白い厚手の布の端が握られていた。
「あ、鏡が……」
東野が言った通り、布が取り剥がされ、隠されていた大鏡があらわとなった。
繊細な金細工に縁取られた鏡は全長が一メートルほど。踊り場の壁に配置されているため、そこを通るものなら誰もが自分の顔を見ることとなったであろう。
磨き抜かれた鏡面は、倒れ込んだ三上と立ち上がろうとする四辻、そして両手で口を覆った東野を写していた。
「これが三雲学園の十三階段の鏡か……。確かに古い感じはするけど、なんていうか、普通だな」
三人が生まれる遥か以前に作られた大鏡は、コンクリートの壁にボルトで固定された木の板に貼り付けるようにして留められていた。
「……ですね。鏡面が波打っていたり、意匠が明らかにおかしかったりを想像していたんですが」
「そうっすか? わたしはどうもさっきから変な感じがするというか、背筋がゾクゾクすると言うか」
三上と東野が四辻の方を見る。
彼女は不安そうに自身の胸に手を当てていた。
「嫌なもやもやが胸に広がる気がしません? わたしだけ?」
「こら、何をしているんだ!」
階段に響く大声が階下から響いた。
「やば、先生だ」
「おい」
教師が何かをいいかけた時、三上のすぐ隣で四辻が大声を上げた。
「い、いやぁあああああああああああああ!!」
「やば、先生だ」
東野の声が四辻にはどこか遠く聞こえた。
それは、鏡に写った他校の新しい友人の姿を認識したくなかったからかもしれない。
気のせいだ。
そう思って階下からこちらを見上げる三雲学園の教師に視線を移す。
そこにいたのは化け物だった。
二つの目、鼻があるべき場所に唇が付いており、本来の口と合わせて四つの口が顔面にへばりついてそれぞれが喋ったり呼吸したりしている。
『おい』
右目の口が開き、飛び散る唾液とともに音を発した。
それを聞いた瞬間、四辻は信じられない音量の悲鳴が自分の口から出るのを意識した。一呼吸入れて異変を先輩に伝えようとする
「顔、顔が……」
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