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第6話:優勝と云う選択肢

「優勝を諦めよう」


 その弱気な発言に、プリンの頭は急沸した。


「何を、弱気な!」


「でも、優勝した上に攫われるのを回避するのは、難しいよ?」


「……そう」


 プリンは、懐からブドウ糖の欠片を取り出した。


「あなたにはもう少し休憩が必要なのね」


 ジェリーが止める間もなく、プリンは口の中にそのブドウ糖の欠片を放り込んで──


 二人は、眠りから目を覚ました。


「……プリン」


「今のあなたが油断せずに本気出したら、優勝した上に私の誘拐を防ぐこともできるでしょう?」


 どうやら、謝罪の気持ちは無いようだ。


 ジェリーは、四周の後に睡眠時間を一度確保し、更に七周の後に双方優勝の上、宿までプリンの誘拐から身を守ることに成功した。


 尚、余りの過酷さに、双方泣きそうになりながらも、プリンは『これだけ繰り返したなら』と、二人の優勝から妥協することをしなかった。


 宿では警戒の為、窓を含む入り口全てに罠を仕掛け、何事もなく朝を迎えると、二人は早朝の内から朝食も早々に済ませ、王都を去り、次の目的地──プリンが「海が見たい」と言った──に向けて、旅立った。


 尚、プリンのお腹は既に十分に膨らんでいて、外目にも妊娠していることは明らかだった。


 そして、海を一目見たら、『森の国』に直帰するところまでは、二人の予定は詰まっていた。


 これ以上の用事は入れられない。何せ、フェアリーは七週間で出産するのだから。


 それを分かっていてプリンの我儘で海を見に行くのは、フェアリーの出産は命懸けであることがその我儘を通す理由になっているのだった。


 ただの我儘ではない。プリンは、自分の人生を賭けて、やりたいことをやり尽くす為に、日程的に無理のない範囲で、旅の予定を決めているのであった。


 それに関しては、ジェリーもプリンを妊娠させた責任があり、プリンの主張を出来る範囲で叶えることは、ジェリーは半ば義務だと割り切っていた。


 幸い、海に面した街までは、王都から馬車で半日で着く。


 一泊して海の幸をご馳走になって、二人はまた馬車で王都へと戻り、そこから『森の国』に帰るのだった。


 難関は、未だ終わっていない。スプーンによる追走と、ヨーグに因る待ち伏せとが待っている可能性が高い。


 ジェリーには立ち回りに充分な体捌きを大会で得ていたし、又、イザとなったら、『刻の繰り返し』がある。


 『切り札』があるのは、いいことだ。その『切り札』の切り方を間違えなければ、絶対的な効果を発揮する。


 ただ、それと同時に、敵にも『切り札』がある可能性は否めない。


 少なくとも、王都でのプリン攫いがスプーンの手に因るものなら、スプーンは『切り札』を切ってプリンの居場所を察知した可能性がある。


 プリンに確認を求めるものの、攫った犯人が誰かまでは判明していなかったようだ。


 そうなると、スプーンは再度『切り札』を切って、『森の国』まで追跡してくる可能性はあり得る。


 その事実を前に、油断などする隙は無い。


 でもまぁ、『刻の繰り返し』の条件さえバレなければ、何度でも『刻の繰り返し』を行なえるのだ。『刻の繰り返し』により、消費した筈の空砲の弾や、ブドウ糖も過去に戻って補給されているのだから。


 実のところ、二人共が諦めない限り、何度でも繰り返して回避の努力は出来るのだ。


 その事実を前に、ジェリーは兎も角、プリンは一切諦めるつもりは無かった。


 最悪、敵の『切り札』が判明すれば、それに対策を練ることだって出来る。


 事実上の二対二だが、スプーンにとっては、ヨーグも獲物だ。捕らえられたのを分かって、見捨てるのは『女王候補』失格だ。故に、ヨーグすら見捨てられない。


 ただ、実際問題として、スプーンへの対応策であるジェリー自身も、スプーンにとっては獲物である可能性は見過ごせない。


 エルフとて、闇市では結構な値段のする商品になり得るのだ。だが、恐らくはスプーンは単独犯だ。協力者の可能性は、頭の片隅に置いておけば、然程の問題となり得ない事実が立ち塞がっている。


 現状で一番の問題は、ひょっとしたら、ヨーグがスプーンの獲物と云う認識を持っていないかも知れないと云う事実に他ならなかったのかも知れなかった。


 だが、ジェリーの方針は変わらない。『最善を尽くす』。この一点に限る。


 なので、ジェリーは秘密の方法で、伝書鳩を入手し、『森の国』にいる『ヨーグ・ルート』に対して手紙を送った。スプーンが狙っていると云う警告文をだ。


 これで、ヨーグも警戒してくれる筈だ。ヨーグが無警戒と云う状態が、現状、一番危うい。


 だから対策を打ったのだ。


 正直、ヨーグの『吹き矢』と云う手口は、魔法の練度の増したプリンの脅威では無い。物理的にもある程度の効力を持つ『結界魔法』で身を守れば、『毒の吹き矢』と云う手段は通用しない。


 と、同時に、スプーンから素手で捕まえられると云う事も脅威ではない。網で結界ごと丸々捕らえられたら敵わないが、結界内で安全に『刻の繰り返し』をすることができる。


「だからって、大規模魔法には対抗できないのよぉ~!」


 そう、吹き矢が通用しないことを悟ったヨーグは、大規模魔法でジェリーごと、プリンを始末することを実行した。


 7時間前に遡った二人は、対策を練るのであった。

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