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第3話:訓練の繰り返し

 ヒューマンの国の一つ、その王都に二人はようやく辿り着いた。着いたその足で、宿の予約だけして、各大会への出場申し込みを済ませ、二人は久し振りにゆっくりとした夜を過ごした。


 そこで、問題が一つ発生した。


 早朝、ジェリーが目覚めると、プリンがいなかったのだ。


 三十分ほど待っても、プリンは戻って来なかった。


 ジェリーは、引き金を引いた。


 すると、7時間遡って、睡眠中の時間になり、起きてすぐ、プリンが居ないという事態がまた起きた。


 ジェリーは、必死になって、7時間遡り、気合で熟睡中に起き上がろうとした。


 だが、意識も無いのに、熟睡中に無理やり起き上がるなんて、早々出来る筈が無かった。


 繰り返すこと、十数回。


 遂にジェリーは、プリンが居る時に目覚めることに成功した。


 そして、何事か無いか、周囲の様子を窺う。


 すると、プリンが起き上がった。


「もう!何ともないのに、どうして何度も繰り返すのよ!


 私はお花摘みに行ってからシャワーを浴びるだけ!


 もう繰り返さないでね!」


 プリンは急いでいる様子で、それだけ言うと部屋を出ていった。


 ジェリーは共用のトイレを見守り、プリンがシャワー室──水浴び場に汚れ物を持って向かうのを確認した。


 三十分ほど待って、プリンが水浴び場から出て来るのを確認すると、ジェリーはホッとする。


 だが、プリンは責めるような視線でジェリーを睨んでいた。


「こ、今後は、余程疲れた時以外、7時間以上眠らないようにしようか」


「そうね。それなら繰り返しは一度で済むものね」


 責める態度を改めると、プリンはドッと疲れが出たようで、へたり込む。


「全く。こんな下らないことの為に『刻の繰り返し』を多用するとは思わなかったわ」


「ゴメン……でも、プリンの身が心配だったんだ」


「それは分かるから、今回は許すわ。


 でも、二度とないようにね」


 どうやら『刻の加護』は、ある意味、一種の呪いでもあるのだと、二人は今回の件で気がついた。


「『武闘大会』と『魔闘大会』、本当に二人とも優勝するまで繰り返す?」


「もう訓練は始めているのだもの。狙えるなら、狙わない手は無いわ」


「プリンは無茶しちゃダメだよ?


 第一に、安全に子供を産むことが前提だからね?」


「なら、私は優勝を狙えないかもね」


 何故、プリン限定で言ったのか、意味が分からずジェリーはそれを声にする。


「どうしてプリンだけ?」


「魔法は優劣があったら、絶対に勝てない相手は出てくる。


 でも、武術は流れさえ読めれば、ある程度の実力差があっても勝てるでしょう?」


「うーん……。でも、優勝に手が届くほどの地力を持てるだけの訓練をする時間は無いよ?」


「なら、訓練する時間を繰り返せばいいじゃない。──あ!今日はダメよ!早くても、七時間後からでお願いするわ」


 ジェリーは首を傾げた。


「訓練する時間を巻き戻しても、肉体は鍛えられないのだけれど……」


「うーん……その辺の因果律はどうなっているのかしら?」


 因果律次第では、肉体の訓練も引き継ぐことができる。二人は相談し、よし、やってみよう!と云う事になった。


 結果としては、肉体の訓練も引き継ぐことができると判明した。それは、休憩を挟んでも同じことが言えた。


 即ち、筋肉痛になった時には、繰り返しても筋肉痛なのだ。当然、回復の為の時間──特に食事と睡眠が必要となり、本番までに鍛えられる余地はある程度限られてしまった。


 それでも、百回以上は繰り返し、訓練の時間を確保した。


 コレで足りなかったら、本番で絶対に勝てない相手と当たってしまった場合、『刻の繰り返し』を何度も繰り返し、訓練の時間をより多く重ねる必要が出てくるのだが、それが如何な苦行になるかを知らないプリンは、「もう百回でも繰り返す!」と思っていたのだが、ジェリーは「心が折れるレベルの相手に当たったら、諦めよう」と思っていた。


 その温度差は、如何ともし難い。元々、ジェリーはべつに剣の達人と云う訳でもなかったのだ。


 武術の達人ばかりが集う大会。その意味が分かっているジェリーは、三回戦くらい勝てれば充分だろうと云う程度のモチベーションであったのである。


 三回戦と云えば、予選突破にも一つ届かない目標であった。


 プリンは、まさかジェリーがその程度のモチベーションで訓練しているとは夢にも思わない。なのに、自分は三回戦も突破できれば充分だろうと思っていた。


 だが、熟練の魔法使いばかりが集うその大会で、三回戦を突破するのが、如何に困難なのかを知らないプリンは、そこを『絶対に妥協できないライン』だと勝手に定めていた。


 思えば、このプリンの立てた目標こそが、二人を更なる苦難の道へと導くことに、二人とも知るはずもなかった。

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