第2話:王都目指して
早朝に宿を出て、目的の街へと旅立った二人。
だが、意外なことで『刻のやり直し』をする事態になった。──ヨーグがスプーンに捕らえられたのだ。
ここで見捨てては、プリンは女王失格。仕方なしに、何度か『刻』をやり直して、ヨーグに妖精攫いの情報を流して、様子を見守った。
結果、丸一日近く『刻』を巻き戻したのだけれど、プリンもヨーグもスプーンの魔の手から逃れられた。
そうしてから、ようやく目的の街へと旅立てる。
目指す街が『王都』と知ったのは、旅して三日ほど経った時のことだった。
妖精とエルフの住む、『森の国』とは違い、華やかな街であるそうだ。
「でも、実際問題、武闘大会と魔闘大会が終わったら、即座に帰国しないとならないね」
「安心して子供を産む為だ。仕方ない」
ジェリーとしては、プリンが身重の身で旅立つのは反対の意見だったのだが、プリンが強硬に旅に出ることを固持したのだ。
ならば、女王がプリンを旅立たせるのはプリン可愛さ故の判断だった。可愛い子には旅をさせよ、と云う訳である。
ヨーグによる暗殺と、スプーンに因る捕縛の両方から回避する上に、スプーンに因るヨーグの捕縛も阻まねばならない。
実際、一日一回は『刻のやり直し』を行なったのだけれども、それだけで、一週間の旅路は体感一ヵ月の旅となった。
特に、スプーンに因るヨーグの捕縛を阻むのが、大変で面倒で更に、ヨーグそのものも脅威なのだ。
殺意と云う点に於いては、ヨーグが最も脅威なのだ。スプーンの場合、一度捕らえられても、逃げ出せれば『刻のやり直し』をしなくても済む。現実問題、逃げ出せる保証はないので『刻のやり直し』に頼っているが。
一方で、休憩時間の一部を割いて、ジェリーは剣の修行を、プリンは魔法の修行を行なっていた。特にプリンは、虫網程度なら、焼き払って脱出する程度の、火魔法と魔法の結界の体得に成功した。だが、恐らく一度しか通用しない手段だろうと、それらの魔法は熟練度を上げる為に修行しているが、その存在を隠匿していた。
そして、その結界を張る事で、ヨーグに因る暗殺を防げることも判明した。タイミングさえ分かっていれば、一回の『刻のやり直し』で防げるようになっていた。
その一方で、ヨーグは吹き矢以外の暗殺方法を考えるようになっていた。
ヨーグは、恐るべき手段を思いついた。『将を射んとする者はまず馬を射よ』と云う言葉に倣い、ジェリーの命をも狙うようになったのだ。
より強い毒を、と求める中で、一度、ヨーグが毒の取り扱いを間違えて自身の死を招いた。プリンは妖精のシンパシーでヨーグの死を知り、その時は、原因が原因だけに、ジェリーとプリンには意味が分からず、十度以上も『刻』をやり直した。
自業自得と思わないでもないが、プリンが女王になる為には、救える範囲内の妖精は救わなければ、女王失格と云うのだから、タチが悪い。
別に、望んで女王になりたい訳では無かったが、『女王失格』の烙印を押されると云う恥をこそ、プリンは恐れていた。
だが、ヨーグの死因が判った時、二人は毒の取り扱いを気をつけるよう、ヨーグに助言をしただけで、対策を特にしなかった。
フェアリーの身長は、約十二センチ。一方のジェリーは百八十センチ。ジェリーを死に至らしめる毒は、匂いだけでヨーグには致死量として充分だった。ただそれだけの話である。
結果、原因が判明してから三度に渡る強い警告をしたことで、ヨーグはその手段を断念してくれた。
今回、『刻の繰り返し』から逃れたのは、それが原因であったのだった。