第二十三章 ③デート
横浜デートが始まった。
イレーズは凛花の手を取る。
……グンッ!
空高く上昇した。
空上には。
透明結界が張り巡らされていた。
まずは。
『横浜三塔』を巡る。
三塔とは。
横浜県庁(キングの塔)。
横浜税関(クイーンの塔)。
横浜開港記念館(ジャックの塔)。
この三塔を一日で巡れば願いが叶う。
カップルは結ばれる。
そんな『都市伝説』があるのだ。
イレーズは肩をすぼめる。
「ま、こんな迷信……。
普段なら信じないんだけどね?
だけど凛花となら……。
一緒に巡ってみたいって思えたんだ」
「はいっ!
ご一緒できて嬉しいです。
楽しみです」
「ん。
だけどさ? このデートプラン……。
あまりに俺らしくないみたいでさ?
『イレーズの恋人は只者ではない!
これは大事件だ!』って……。
仲間たちが面白がって揶揄うんだよ。
やたらに冷やかされて参ったよ……」
凛花は目を丸くする。
「仲間って……。
『魔導師』の方々ですか?
イレーズさんを揶揄うなんて……。
本当に仲良しなのですね!」
「うーん……。
まあ、そうだね。
俺にとって三人は……。
頼れる兄貴みたいなものかな。
みんな『未來王』と家族なんだ。
そしてそれぞれに。
王との特別な『絆』があるんだ」
「わあっ……!
深い信頼の絆……。
素敵です!」
ふたりは空中散歩する。
瀟洒な三塔を見下ろす。
各所の地面に『隠れ目印』がある。
探して見つけて楽しんだ。
『大さん橋』に移動する。
強い風に吹かれて景色を見晴らす。
「キング、クイーン、ジャックなんて……。
命名が洒落てますよね」
「そうだね。
昭和初期に外国船員がさ?
トランプカードに見立てて呼称したらしいね。
三塔は戦争をくぐり抜けた貴重な建造物だ。
それに航海の安全を守る象徴とも言われているんだ。
三塔は船員たちの『拠り所』だったのかも知れないね」
「きっとそうです。
私、歴史的建造物とか。
煉瓦造りの建物が大好きなんです。
だから住まいも一目惚れして決めました」
「確か……。
所沢市……、だったよね?」
「はい! ノアと二人暮らしです。
コン太は週六、七回、夕食を食べに来ます。
イレーズさんも今度遊びにいらしてください」
「ん、行くよ。
(ノアが嫌がりそうだけど)」
「あっ!
モンテローザの『横浜三塔スティックケーキ』買っていいですか?
お土産にしたいので」
「じゃあ、ついでにさ?
アイスクリーム……、食べていい?
一度食べてみたくてさ」
凛花は驚く。
「ええっ?
もしかして……、
アイスクリーム……、食べたことないの?」
「うん。
冷たいお菓子、らしいね?」
「きっと……。
美味しすぎてビックリしますよ?」
……ストンッ、
ふたりは地上に降りた。
そうして。
『できたて横濱馬車道アイス』の行列に並んだ。
明治二年。
馬車道に日本初『房蔵氷水店』が開業した。
しかしながら。
高価な『あいすくりん』はあまり売れなかった。
そんな折。
伊勢山皇大神宮の遷座祭にて。
見物客たちが甘くて冷たい『あいすくりん』を買い求める。
それが美味だと評判を呼んだ。
それから鹿鳴館で食される。
東京の洋菓子店でもアイスクリームが販売される。
そうして日本中に広まったのだ。
「わ、冷たい。
あ、ヤバい……。
これ、かなり美味しいかも……」
イレーズが無邪気に笑った。
その姿はちょっとだけ子供っぽく見えた。
凛花は密かに萌える……!
……わあっ!
イレーズさん……!
かわいいっ!
……スチャッ!
目の前に。
ド派手な金ぴか巨大猿が現れた。
それはマウンテンゴリラよりも大きい金獅子猿だった。
金獅子猿は畏敬して跪く。
イレーズの足元にひれ伏した。
「あ、マサル……。
何か用?
急にどうしたの?」
「ウキッ!
ウキキキキッ!」
金獅子猿『マサル』。
身振り手振りでアピールする。
どうやら。
『背中に乗れ!』と言っているようだ。
イレーズはため息をつく。
「うーん……。
じゃあさ?
凛花も一緒に行くよ?」
「ウッキッキッ!」
マサルは満足げに笑う。
大げさに頷いた。
スッ、
イレーズは凛花の手を取る。
ぴょん、
金獅子猿・マサルの背に乗った。
ピュン…………ッ!
どこかへ瞬間移動した。




