第二十三章 ②待ち合わせ
熊野市木本町・鬼ヶ城。
春寒の早朝。
ノアと凛花は鬼ヶ城の浜辺に立っていた。
東天から出ずる朝陽を拝した。
是・契約者は『誉』を手中にした。
任務を終えた。
凛花はノアの背に乗る。
これから所沢に帰宅する。
数十秒でワープする。
「あっ、待って待って!
ちょっと待って!」
飛び立とうとしたその瞬間。
遠くから呼び止められた。
魅惑的なハスキーボイスが聞こえてきた。
スウウッ……!
龍神界のセクシー王子。
至極龍神雷紋が現れた。
「やあやあ、おふたりさん。
こうして対面するのは神在月以来だね?
元気そうで何よりだ」
「あっ、雷紋っ!
いつも任務に協力してくれてありがとうっ。
今日もまた早起きさせちゃって……。
三日連続、ごめんなさい……」
「ん? ああ!
アハハッ!
もしかして気にしてた?
いえいえそんな!
こちらこそありがとう」
凛花は久々の対面を喜ぶ。
その一方。
ノアは怪訝顔をした。
「あら、雷紋……。
声を掛けてくるなんて珍しいわね。
どうしたの? 何か急用?
まさか……?
悲報ではないわよね?」
「え? いやいや、悲報ではないよ!
実はさ。
イレーズから伝言を預かっているんだよ」
ドキンッ!
凛花の鼓動が高鳴った。
「そういえば!
コン太から聞いたよ?
イレーズと交際しているんだってね?
おめでとう!」
「はっ、あっ……、
ありがとうございます……」
「アハッ!
耳まで赤くなって……。
まったく可愛いなあ!」
ノアは呆れて憤慨する。
「もうっ、雷紋ったら!
揶揄っていないで用件を伝えなさいよ!
イレーズからの伝言……! 早くっ!」
「ああ、ハイハイ(怖い怖い)。
『今日の午後二時。
皇大神宮、ふれあい広場。
凛花ひとりで来てくれ……』
だってさ?」
「横浜……、ですか?」
「そうだね。
たぶんデートのお誘いだと思うけど?
(なんでコン太に頼まなかったのか分からないけど)
まあとにかく! 我は伝えたからね?」
「あっ、はいっ。
伝言、賜りました!
必ず行きます。
ありがとう……」
「凛花はデート、楽しんで!
ノア……、また会おう!
それじゃあまたねっ」
パチンッ、
雷紋は艶っぽくウインクした。
フェロモンを(無駄に)振り撒いた。
スウゥ……、消えた。
熊野灘の棲み処に帰っていった。
横浜市西区宮崎町。
凛花は電車を乗り継ぐ。
約束の場所へと早足で歩く。
実のところ……。
今日のデート、大層気合いが入っている。
……イレーズさんに会うのは今日が三度目だ。
過去二度(出雲と三峯)は不意打ちだった。
すっぴん顔の寝癖頭だった……。
だからこそ!
今日は寝ぐせ直しに抜かりはない。
ベースメイクをして色付きリップを塗った。
服装はロング丈のワンピースをチョイスした。
靴もアウターも新品なのだ。(バーゲン品)
出発前。
「凛花っ、とってもかわいいわ!
これでイレーズもメロメロよ!」
甘々ノアは手放しで褒めてくれた……。
桜木町駅を下車した。
十分ほど歩く。
急な坂道を上る。
皇大神宮に到着した。
横濱総鎮守・伊勢山皇大神宮。
御祭神は天照大御神だ。
『横浜の守り神・関東のお伊勢さま』と親しまれている。
当時の武蔵の国の国司。
勅令によって勧請したと伝えられている。
スー、ハー……、
凛花は呼吸を整える。
待ち合わせ場所。
『ふれあい広場』の隅っこに立つ。
……キラリッ!
空が光った。
ストンッ……!
イレーズが現れた。
キラキラキラ……、
輝いている。
宇宙一と称される圧倒的美男子の参上だ。
白いゴシック調の服装。
ロングブーツを履いている。
三峯神社と同様の『洋装』だった。
「お待たせ。
あれ? 今日の凛花……。
可愛いね?
いつも可愛いけど……。
いつも以上に、ね?」
「えっ?
あわ、わわわわ…………、
あ、あ、りがと、ござ、ます」
凛花は動揺して言葉がおかしくなった。
イレーズは麗しく微笑んだ。
「フッ……、
まずはお詣り……、しようか?」
作法に則り手水を済ませる。
そして神々に感謝の祈りを捧げた。
(神様、いつもありがとうございます。
今日はいつも以上にとっても幸せです。
これからもっと成長できるよう頑張ります……)
参拝を終えた。
『古木クスノキ』前に移動する。
スッ、
イレーズは凛花の手を取る。
「じゃあこれから『横浜デート』だよ?
楽しみだね?」
「はいっ!」




