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第二十二章 ④凛花の告白

 三峯の丘の上。


 そよそよ……、

 たわやかな風が吹く。


 イレーズは穏やかに語る。


 「未來王……、本来の御姿はさ?

 この世のものとは思えぬほど美しいんだ。

 だけど化身するときは敢えてユーモラスにする。

 容貌や振る舞いを崩すことで本性を探るんだ」


 「そういうことでしたか! 

 まん丸お爺さん、ゴン子さん。

 クレバーな太郎さんとあまりに違い過ぎて……。

 ギャップが凄まじいと感じていました」


 「ククッ! 確かに」


 「ですが……。

 とても愛らしいです」


 「うん。

 未來王は眷属神(けんぞくしん)はもちろんのこと。

 (あら)ゆる神々から溺愛(できあい)されている。

 八百万の神々、女神、天人天衆、神霊獣。

 悪魔、堕天使、魔神、悪鬼人、幻妖霊獣。

 そこに天界と魔界の(さかい)はないんだ」


 「何となくですが……。

 愛される理由、わかる気がします。

 まるで青葉を吹き抜ける風のようだと感じました」


 「青嵐(せいらん)、か……。

 そうかもね?

 王は感情を押し付けない。

 ()いることをしない。

 それぞれの人格、文化、価値観……。

 尊重して歩み寄ってくださる。

 だから冥界(インフェルノ)も掬われたんだ……」


 「私も掬われた者のひとりです。

 生きる意味と意義を与えられました。

 未來王より(たまわ)りし龍使いの聖業……。

 改めて(ほこ)りに思います」


 イレーズは頷く。

 本音を吐露(とろ)する。


 「凛花の瑞光オーラってさ?

 なぜか温かいんだ。

 そして淡く柔らかな光を放っている。

 すっごく綺麗だよ?」


 「そうなのですか?

 自分では見えないので……」


 「うん、そうだね。

 オーラは自分自身で認識できない。

 凛花はさ。

 宇和島の家族に愛されて宝のように育てられてきた。

 心を(ゆが)ませない努力をしてきた。

 だから心根に(よど)みがない。

 その純粋さがオーラと共鳴しているんだと思う。

 『簡素な(ぬく)もり』を(そな)えているんだ」


 「わあ……っ!

 どんな褒め言葉よりも嬉しいです。

 イレーズさんのオーラは白金色(ホワイトゴールド)ですね。

 キラキラ煌めいて美しいです。

 美しすぎて恐れ多いです」


 「美しい……、か。

 全然そんなことないけどね?

 俺は感情が欠落した冷たい男だ。

 冷酷無比(れいこくむひ)だと恐れられている……」


 「そんな……」

 

 「簡素な温もり……。

 それは俺が渇望(かつぼう)して欲するものだ。

 俺と凛花は対極にある。

 だからどうにか(あきら)めようと…………」


 イレーズは言葉を詰まらせた。


 凛花の瞳はみるみる(うる)み出す。

 心奥から猛省(もうせい)した。

 

 ……違う。

 イレーズさんは冷たい人間ではない。

 とても繊細で正直な人だ。

 そんな彼を。

 知らぬ間に傷つけていた……。


 たとえ悪気が無かったとしても。

 たとえ正論だったとしても……。

 配慮に欠けた行動や言動によって。

 誰かを傷つけることがある。

 傷口をえぐることがある。


 私はイレーズさんに嘘をつきたくない。

 真っ直ぐに向き合いたい。

 だから今!

 誠意をもって伝える……!


 どどんっ!


 凛花はゴン子を真似て仁王立ちする。

 イレーズの真正面に向き合った。


 「宣言しますっ!

 私はイレーズさんをお(した)いしております!

 それも少しだけではありません。

 困ってしまうくらい大好きですっ。

 えっと……、

 それで、あの……っ。

 もっ、もしも可能でしたら! 

 恋人に……、していただけないでしょうかっ?」


 ガクガクガク……、

 凛花の両足は震えている。


 「ん。

 それじゃあさ?

 もう『友達』はやめよう……。

 今から『恋人』ってことでいい?」


 「……はいっ!

 よろしくお願いしますっ」


 フッ……、

 イレーズは笑みをこぼす。

 それから無邪気に笑った。


 「ああ、それにしても驚いた……。

 この俺が恋に落ちるなんてさ?

 夢にも思ってなかったよ」


 「私もです。

 恋をすることは一生ないと思っていました」


 「俺は魔導師(ウィザード)だからさ?

 あらゆるものを見透かすことができる。

 だけど想い人(ディアー)の恋愛的心情だけは読みとれないんだ。

 だから苦しかった……」


 凛花は驚く。

 想いを言葉にする。


 「私の今の心情は……。

 天にも昇る心地です。

 とてもとても幸せです。

 私の初恋はイレーズさんです」


 「やばい……。

 嬉しすぎる……。

 だけど、ごめん。

 俺の初恋はゴン子なんだ」


 「ふふ。

 私もゴン子さんが大好きです! 

 それに私にとって『太郎さん』は……。

 ずっと『特別な存在』であり続けます」


 「ん、確かに……。

 それはそうだね」


 ふたりは見つめ合う。

 頬と耳が火照って熱くなる。

 寒いのにポカポカだ。


 「あのっ! 

 『味噌おでん』と『いも田楽(でんがく)

 買いに行ってもいいですか?

 美味しそうだなぁ、って。

 朝から気になっていて……。

 お腹が空いてしまいました」


 「重箱弁当、コン太が持って帰ったからね?

 じゃあ俺も。

 試しに(しょく)してみようかな?」


 「わあっ、本当に? 

 大丈夫?」


 「うーん、たぶん? 

 凛花と一緒だと味を感じるんだ。

 だからこれからはさ。

 美味しいもの、教えてくれる?」


 「はいっ!

 それなら得意分野です! 

 (まか)せてくださいっ」


 「クククッ!

 それじゃあ……、売店に行こうか?」


 スッ、

 イレーズは右手を差し出した。

 凛花はそっと左手を添えた。

 ふたりは手を繋いで歩き出した。

 

 所沢市緑町。

 赤煉瓦ベル。


 ソワソワ、ワクワク、ウズウズ……。

 とにもかくにも落ち着かない。

 コン太とノアは首を長くして待ち構えていた。


 ぶわ……っ! 


 無数の藍方(らんぽう)(ちょう)が舞った。

 凛花が帰宅したのだ。


 ピュンッ!

 すっ飛んで出迎える。

 (ただ)ちに質問攻めにする。


 「おっかえりい! 

 待ちくたびれたよ! 

 それでそれで? どうなったんだい?

 ほれほれ! 結果発表しておくれよ!」


 「もう! 照れてないで教えて?

 お願いっ、()らさないで!

 早く早くっ」


 凛花は親友に報告する。


 「えっと……。

 あのね…………」


 …………! 


 龍神カップルは涙を流す。

 手を取り合って小躍りする。

 親友の初恋成就(じょうじゅ)を喜んだ。


 凛花とイレーズ。

 ふたりの純愛は実った。

 時空世界(じくう)を超越した恋人同士になったのだ。





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