第十三章 ④凛花の直感(ハンチ)
所沢市・緑町。
赤煉瓦ベル。
「うーん…………、うーん……。
うっ?
うう、うーーーーん…………」
コン太は複雑な心境だ。
腕組みして苦悶する。
口を尖らせて唸る。
難題への対策を練っている。
つい先日。
凛花と約束をした。
それは。
カリスマ神霊獣使いに会わせるというものだ。
……だがしかし!
この任務は簡単ではない。
非常に危険な案件なのである。
おいらの親友・カリスマ神霊獣使いとは。
未來王の四大弟子である。
魔導師四人衆のひとりである。
彼らは超ウルトラハイスペック天上人である。
それゆえ!
たとえ神という立場にあっても。
滅多にお目にかかれない。
おいらでさえ。
四人のうち、ひとりしか見たことがない。
噂によるが。
魔導師四人衆。
飛びぬけた天才集団らしい。
その個体能力値。
尋常ではないらしい。
さらにはルックス最高!
スタイル抜群!
レベル違いのイケメン集団なのだという。
当然ながら。
親友のカリスマ神霊獣使い。
キラッキラ!
スペシャル美青年だ。
さらにさらに。
キチガイレベルの天才だ。
眉目秀麗!
完全無欠!
まさに非の打ち所のないパーフェクト男だ。
しかし!
カリスマ神霊獣使いに気安く近づくことは不可能だ。
なぜなら。
あいつは凄まじく冷たい。
嘘みたいに素っ気ない。
基本の平素普段。
無表情・無感情・不愛想。
冷淡非情のつれない性格だ。
極めつけに!
人間という生命体を心の奥底から嫌悪軽蔑している。
スーパー偏屈男なのである。
うーん、ヤバいぞ?
一抹の不安がよぎる。
大いなる危機感が襲ってくる。
【神霊獣使いのふたりを出会わせてください。
そして友人にしてください……】
……これこそが!
未來王の下命である。
サラーッ、
気軽に仰った。
だがしかし!
この任務は簡単ではない。
無謀極まる難題である。
アップアップ!
苦しみながら思案熟考する。
このふたりの共通項を探す。
わずかでも意気投合する可能性はあるだろうか?
奇しくも気が合って打ち解ける!
な~んて?
そんな『奇跡』が起こり得るだろうか……?
…………。
うむむむむむっ……(汗)。
いやいやいやいや?
ほのぼの和気あいあいの光景。
まったくもって想像できないぞ?
やっぱり無理なのかい……?
あっ、そうだ!
ふたりには『神霊獣を司る者』という共通点がある!
そして独特な『命名センス』の持ち主だ。
よし! とりあえず。
極々わずかな確率に賭けてみる。
とにかくおいらは。
この任務を粛々と遂行する。
それでも結果が伴わなかったとしたら!
……残念無念。
ミッションは失敗に終わるのだ。
ノアは不安げに眉をひそめる。
ふうっ……、
大きなため息を漏らす。
「ねえ、コン太……。
凛花に逃げ道はないの?
カリスマ神霊獣使いに会わせないと駄目なの?」
コン太は首を傾げる。
「うーん、そうだねえ……。
会わせるしかないよねえ?
そもそも龍神は神霊獣だからねえ?
つまり凛花は神霊獣使いだからねえ?
あいつの弟子でもあるよねえ?」
ノアは声を荒らげる。
「だけどっ!
本当に会わせて大丈夫なの?
きっと嫌な思いをさせられるわよ?」
コン太は天を仰ぐ。
「うーん……、確かにねえ?」
「きっと蔑まれて。
暴言を吐かれて。
冷罵されるわ!
ズタズタに傷つけられて……。
泣かされてしまうわよ!
冷たく無視されて……。
凍りついてしまうかも知れないわ!」
「うーん……、
否定、できないねえ?
そうかも知れない、ねえ?」
ノアは落ち着かない。
「相手は無敵の魔導師ですもの。
誰ひとりとして太刀打ち出来ない。
だけどそれでも!
何らかの打開策を考えないと……」
「うーん……、おいらさ。
いっぱい悩んで考えてみたんだけどさ。
結局なんにも解決策が見つからなかったんだよ。
だけどさ。
なんとなくだけどさ。
何とかなるような気がするんだよ。
おそらくきっとたぶん、だけどさ」
「おそらくって……、無責任ね!
あの冷血漢よ?
氷の男よ?
笑った顔なんて一度も見たことないのよ?
何とかなるわけないじゃない!」
「うーん……。
まあどちらにせよ。
未來王の下命だしねえ?
指示どおりに進めないとだからさ」
「ええ、そうね、そうよね……。
凛花は未來王にお仕えしているのだから!
木っ端微塵にされはしないだろうけど……」
「うーん……。
とは言えさ。
念のため『最悪の事態』。
想定しておかないとだよねえ?」
「ああっ、どうしましょう!
不安だわ!
もはや不安しかないわ!
凛花っ、怖がらないで?
いざとなったら!
私とコン太が命懸けで守るからっ!」
凛花はほんの少し不安になる。
飛び交う会話は物騒だ。
冷静沈着なノアが珍しく心を乱している。
コン太の表情は曇ったままだ。
……命懸けって?
カリスマ神霊獣使いは危険人物?
短気で怒りっぽいのかな?
攻撃的で凶暴なのかな?
気難しい仙人みたいなお爺さんかも?
凛花は勝手にイメージを膨らませる。
しかしそこに恐怖心はない。
実のところ。
尊敬し、憧れを抱いていたのだ。
……コン太の愛称の名付け親に会ってみたい。
コン太の憎めない属性を理解している。
コン太に対する信頼と愛情を感じる。
命名センス、最高だ。
間違いなく凄い人だ。
きっと只者ではない!
密かに。
天に向かって祈っていた。
……カリスマ神霊獣使いに会いたい。
龍使いとしての心得を学びたい。
できれば。
基礎知識を教導してもらいたい!
たとえそれが無理だとしても。
一目でいいから。
遠くからでもいいから。
ご尊顔を拝したい……!
その願いが天に届いた!
凛花は胸を躍らせる。
もうすぐ。
憧れのカリスマ神霊獣使いに会えるのだっ!
遥か天空の彼方。
或る貴き人物が人間界を見澄ましていた。
玉座に腰掛け頬杖をついている。
彼の視線の先。
そこには心弾ませる龍使いの姿があった。
愉快そうに口角を上げる。
柔らかな微笑みを浮かべる。
それは貴きアルカイックスマイルだった。
龍神物語は次のステージに突入する。
新時代へと舵を切る。
『カミハカリの演算』によって。
凛花の運命が動き始めている。
さあ、出発だ。
いざ!
出雲大社へ!




