第十三章 ② 凛花の質問
人間はふたつの潜在リズムを保有している。
ひとつは『グラビリズム』。運を引き寄せる力。
もうひとつは『モアレリズム』。運を広げる力。
是・契約者に選出される条件として。
どちらかのリズムが最大値でなければならない。
龍神界と契約が成立すれば。
お墨付きの証『誉』が与えられる。
そうして圧倒的成功者へと導かれていく。
しかし。
リズムを最大値まで引き上げられる人間は一割程度。
さらに。
リズム最大値をキープできるのは五百日前後。
そのタイミングに。
『龍使い』と出会わなければならない。
その確率は限りなくゼロに等しい。
自らが有する稀有なる才能に気づけぬ者。
努力が及ばずリズムを最大値に引き上げられない者。
その他、経済的事由。
出生地の事情など。
環境不遇による才能開花の困難者が多く存在している。
それこそが歯がゆく嘆かわしい現実である。
大抵の人間は『誉』と無縁のまま生涯を終える。
是・契約者が如何に幸運であるかを思い知る。
赤煉瓦ベル。
最強コンビは和気あいあい。
ほのぼのティータイムの真っ最中だ。
コン太はしみじみ語り出す。
「人生ってさ。
最大限の『努力』と空前絶後の『運』が必要なんだよ。
だけどさ。
是・契約者だからって良い奴ばかりとは限らないだろう?
いつの間にか高飛車になって。
姑息で意地汚くなって。
自分は特別だと勘違いして。
『エラー人間』に変じてしまう。
人間の心は動くし変わる。
だから良い状態を持続して保つことが難しい。
つくづく虚しい生き物だよな」
ノアは首肯する。
「嘘や裏切り。
誤魔化しや言い訳。
詐欺や搾取……。
自利に塗れた人間ばかり。
ときどき吐き気がするわ」
ふたりはしかめっ面をする。
人間に対する嫌悪感を露わにした。
凛花は問う。
「だけど。
龍神は大嫌いなはずの人間のために働いている。
護り、叶えている。
それはどうして?」
ニカーッ!
コン太は笑顔で答える。
「未來王だよ!
未來王から与えられた貴き使命だからさ」
「そういえば。
トールパパと乱波五大龍神も『未來王』って言っていた。
もの凄い御方なのね?」
「そうさ!
喩えようがないほどの貴き御方なんだ」
ノアが説明する。
「瑞光オーラは龍神界から。
フィールリズムは未來王から賜っているの。
どちらも甚深崇高なるエネルギーよ」
コン太は高速で頷く。
「そもそも凛花を龍使いに取り立てたのは未來王だ。
つまり要するに!
凛花は未來王の弟子のひとりってわけ!」
「そうだったんだ!
いつか直接お会いして、お礼を言いたいなあ」
コン太は持論を展開する。
「是・契約者はさ。
陰の努力家で負けず嫌い。
そして『揺るがぬ決意』を持っている。
頑張り屋の類型が多い。
彼ら(彼女ら)は夢を叶えるために。
必死になって踏ん張っているんだ!
もともと人間に備わっている能力に大差はない。
辿る経過によって。
相違が生じているだけなんだ(と思う)」
ノアが補足する。
「確かにそうね。
頭が柔らかくて先進的な人間が多いわね。
周囲と違った視点で物事を捉える力があるの。
是・契約者を目指すなら。
胆力は強く、視野は広くするの。
そうすると。
『絶対的引力』に当たる確率が高まると思うわ」
コン太がまとめる。
「そうして。
絶対的引力に当たったら超ラッキー!
必然的に善なる未來に導かれて行くってわけさ」
ティータイムを終えた。
凛花が問いかける。
「もしも……。
もしもだけどね……?
龍使いが『是契約者』と再会したらどうなるの?」
思いがけない質問だった。
コン太は眉をひそめた。
ノアが返答する。
「それはね、良い結果にならないからよ?
是・契約者が龍使いと再会することは危険なの。
欲望が過剰増幅して破裂してしまう……。
そう云われている。
だけど実証されていないから。
真実は分からないのよ」
凛花は一刹那、絶句した。
「…………。
そっか……、わかった。
変な質問してごめんね?」
コン太とノアは怪訝に顔を見合わせる。
凛花は平静を装っている。
しかし明らかに意気消沈していた。
ふたりは凛花を励ます。
「おいらたち『最強コンビ』の役割は『応援』さ!
ひとりでも多くの人間が『誉』を手中にできるように!
頑張れ、頑張れ! ってさ」
「是・契約者には共通点があると思うの。
まずは卑屈と傲慢から脱却する。
そしてあと一歩の壁(殻)を破るために必死に足掻く。
そんなタイミングに。
龍使いと出会っている気がするの。
これからも夢を叶える応援をしたいわね」
「そうさ!
凛花は今まで通りでいい。
飾らない心で任務を遂行する。
それだけでノープロブレム!」
「そっか……、そうだよね!
元気に任務を頑張らないとだねっ!」
コン太が思いつく。
「ああそうだ、良いことを教えてやる。
その名は『本物縁』!
龍使いも『本物』とだけ。
ご縁を結ぶことが許されているんだ」
凛花は驚く。
前のめりになる。
「この先に。
新たな縁があるってこと?」
「そっ!
もの凄く希少で限定的だけどさ」
「出会うとわかるものなの?」
「たぶん圧倒的引力で魅せられて惹かれるはずさ。
何しろ『本物』だからねえ?
日々に感性を磨いて視野と思考を広くする。
そうすると。
『本物縁』に出会う確率が高まるんだ」
「わあ、そうなんだ!
もし出会えたら親友になれるかな?」
「うっ?
ううーん…………。
たぶんそれは。
天文学的確率だと思うけど、ねえ?」
「でもっ、それでもっ!
確率ゼロじゃないんだよね?
新たな友達ができるかも知れないんだよね?」
ノアは微笑む。
「ええ、もちろんよ。
生きている限り『本物』に出会える可能性はあるわ。
おばあちゃんになったって、ね?」
「イヒヒッ!
もしも『本物』に出会えたならさ?
そのときは勇気をふり絞って『友達』になってもらえばいい。
おいらはこの先の未來が楽しみで堪らない。
ゾクゾクワクワクして震えるほどだよ!
だからこれからも一緒に遊ぼうねえ?」
凛花は笑顔で頷く。
「私ね、命尽きるまで龍使いの使命を全うする。
そして大切な家族と一緒に生きていく。
ずっとずっと一緒に遊ぼうね!」
凛花は確信していた。
神秘的直観を得ていた。
……きっともうすぐ。
新たな友人ができる……!




