↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
42/143

第十一章 ③コン太の動向(アクション・行動)

 飯能市(はんのうし)・八幡(はちまん)町(ちょう)。

 武蔵野うどん・古久(こく)や。


 午前十一時半。

 レンジは小民家風(こみんかふう)うどん屋に到着した。

 店舗脇の駐車場に愛車・アルファードを停めた。


 ここを訪れたのは二十三年ぶり。

 女子中学生をレイプしたあの日以来だ。

 つい最近まで。

 飯能・所沢のエリアに近づくことを忌避(きひ)していた。

 後ろ暗い過去があるからこそ。

 露骨に避けていた。

 

 昨晩。

 輝章(きしょう)監督から業務(ビジネス)メールが届いた。


 【明日の撮影前に。

 ランチミーティングをお願いします。

 指定場所の地図を添付(てんぷ)します。

 午前十一時半。

 現地集合でお願いします】


 その指定場所こそが『古久(こく)や』だった。

 ここは開店から閉店まで行列の絶えない人気店だ。

 それなのに不思議だ。

 違和感を覚えるほど空(す)いている。

 もしや定休日……? 


 入口から店内をそっと覗(のぞ)く。

 座敷の奥に輝章監督が座っているのが見えた。

 慌(あわ)てて駆け寄る。


 「お待たせして申し訳ありませんっ」


 輝章が笑顔を向ける。


 「ああ、レンジさん!

 ご足労(そくろう)いただいて申し訳ありません。

 どうぞお座りください」


 「途中、道路が混んでいまして……。

 ……あれ?

 羽衣(うい)っ!」


 羽衣は悪戯(いたずら)っ子のように笑った。


 「うふふっ、ビックリした?

 監督がミーティングに誘ってくださったの。

 実家から飯能まで電車で三十分くらいなの。

 レンジさんを驚かそうと思って来ちゃった!」


 「はは、そうか。

 まさか羽衣が来ているとは……、驚いた」


 「嬉しい?」


 「ああ! もちろん嬉しいよ」


 レンジは顔をほころばせた。


 「イヒヒ……、

 レンジさん。はじめましてえ?」


 …………? 


 会話を遮(さえぎ)られた。

 羽衣の横に若い男が座っている。

 誰だ? 

 新人俳優だろうか……? 


 「おいらの名は呂色九頭在狼(ろいろくずあるろう)!

 輝章くんの遠い親戚の、

 従兄弟(いとこ)の甥っ子の……、

 その友達の友達の弟の知り合い……、

 だったかな? 

 まあそんな感じで~す」


 「あっ、ああ! 

 輝章監督のご親戚でしたか。

 初めまして、レンジです」


 「イヒヒッ! 

 超大物人気俳優・レンジさん! 

 どーぞ、よろしく……、ねえ……?」


 「ああ、よろ、し、く……?」


 レンジはたとえようのない恐怖を感じて寒気だつ。

 この男、目が笑っていない……!

 向けられる視線は冷たくて闇(やみ)深い。

 偽善の心を見透かされ嘲(あざけ)られている気がした。

 不意に目を逸らしてしまった。


 古久(こく)やの座敷に四人が向かい合う。

 レンジはソワソワして落ち着かない。


 羽衣は懐(なつ)こく話しかける。


 「ねえねえ、在狼(あるろう)くん! 

 スタイル良いしかっこいいね! 

 スカウトされたこと何度もあるでしょ?

 俳優とかモデルとか?

 芸能界に興味ないの?」


 「んん? おいらが芸能界? 

 ないないないないっ、興味ないっ!

 歌も演技もからっきしだからねえ?」


 「そうなの? 

 絶対人気者になりそうなのに……」


 「今日はさ。

 輝章くんに誘われて映画撮影の見学に来ただけ」


 「そっか、残念っ」


 「だけどおいら。

 大スター・レンジを尊敬するよ! 

 別人格を演じ切るんだからさ」


 羽衣は共感する。


 「そうなのっ! レンジさんはすごいの! 

 『憑依(ひょうい)型(がた)』っていってね?

 役が入り込んでくるらしいよ?」


 「へええっ?」


 「羽衣はね!

 レンジさんに演技指導(アドバイス)してもらっているの」


 「ふーん……。

 それじゃあ却々(なかなか)の女優になれるかもねえ?」


 「わあっ、そうかな?

 そうだったら嬉しいな」


 「だけど俳優レンジの指導となると! 

 周囲は丸め込まれて。

 惑(まど)わされちゃうかも知れないよねえ……?」


 「ええ? 

 それって、どういう意味?」

 羽衣は首を傾(かし)げた。


 「イヒヒッ! まぁそんなことより! 

 肉つゆうどん、楽しみだねえ?」


 輝章は笑顔で頷く。


 「すでに注文は済ませてあります。

 さあ、今のうちに。

 打ち合わせを済ませましょう!」

 

 ランチミーティングが終わった。

 レンジは腑(ふ)に落ちないでいた。


 ……どういうことだ?

 打ち合わせは十分程度で終了した。

 内容も単簡だった。

 この程度なら。

 撮影現場で十分(じゅうぶん)に事足(ことた)りたはず。

 なぜわざわざ?

 飯能(古久や)まで来(こ)させたのか……。

 

 「お待たせしました」 


 丁度(タイミング)良くお膳が運ばれてきた。

 あの日と同じ『肉つゆうどん』だ。


 「わあ! 美味しそうっ!」


 「イヒヒッ! いっただきまーすっ」


 羽衣は嬉しそうにうどんをすする。

 在狼(あるろう)は大盛りを平(たい)らげた。


 食事のさなか。

 輝章に問われた。


 「肉つゆうどん、とても美味(おい)しいですね?

 レンジさん……、

 あの日と変わらぬ味、ですか?」


 「え…………?」

 

 食事が終わると輝章が会計を済ませた。

 その途端。

 怒涛(どとう)の如く客が押し寄せた。

 静かだった店内はあっという間に満席だ。

 外には長い行列ができている。


 「ではこれから午後の撮影に向かいましょう。

 あ、レンジさんはお車ですか? 

 もしも迷惑でなければ。

 撮影現場まで同乗させていただけませんか?

 できれば羽衣さんと。

 在狼(あるろう)くんも一緒に……」


 レンジに断る理由はなかった。


 「もちろんいいですよ! 

 どうぞどうぞ!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。