そしてスピンオフ 出雲ゆかりの地
表龍王・龍蛇神王燦紋、
その妻、貝紫色龍神ユウイ、
埼玉の奥秩父に飛来した。
秩父市寺尾。
実はここ、
出雲ゆかりの地である。
しかし残念なことに、
地元の人すら、それを知らない。
恐らくこの事実、
遠くない未來に消てしまうだろう。
龍蛇神王、
まずは竜胆色龍神宇音と合流した。
「燦紋さま! ユウイさま!
奥秩父・寺尾村にようこそ!
はるばるお越しいただき光栄です。
心より歓迎の意、表します」
ユウイはほころぶ。
「懐かしいですわ。
寺尾村に飛来したのは……、
もう、だいぶ昔ですわ」
燦紋は目を細める。
「確かに久々だな……。
おっと、まずは!
凛花との約束を果たさねばな。
札所二十番に案内してくれ。
ビー玉交換、させてもらおう」
ぽわん、
燦紋とユウイ、
人間の姿に変化した。
座敷童・ウオン、先導する。
表龍王夫妻と連れ立つ。
札所二十番を参詣する。
コロン、コロン……、
ふたりは黄色いビー玉を取り出した。
「実はね?
わたくし、秘蔵のビー玉を持参しましたの。
恵利原の禊瀧の水で浄めましたのよ?」
「雷紋が禊祓の真っ最中ゆえな。
久々に顔を見たが……、
イキイキしておった」
「うふふっ、
きっと百年後の未來、
楽しみで仕方ないのでしょう」
「うむうむ、
それは儂も同様だっ!
さあさあ!
ビー玉交換しよう」
参詣を終えた。
燦紋、ユウイ、ウオン、
三尊は飛び立つ。
秩父ミューズパーク上空に移動した。
そうして昔を懐かしむ。
三尊は語り合う。
燦紋、
「この秩父谷……、
そのほとんど、
武蔵忍藩の藩領だったなぁ」
宇音、
「その通りです。
黒谷村、大野原村、皆野村、影森村、浦山村、
別所村、白久村、日野村などなど……、
二十二村が忍藩の藩領でした」
「だがしかし、たったひとつ、
寺尾村だけは幕府領だったな」
「はい。
鳥取藩の飛び地でした。
藩主は池田家です。
最後の藩主は徳川慶喜の兄、慶徳です。
徳川家との姻戚関係が強いため、
家紋には揚羽蝶のほか、三つ葉葵も使用されました」
「うむ。
因幡鳥取藩……、
出雲とのゆかりは深いな」
「因幡の白兎伝説……、
ですね?」
「どうだね?
出雲との所縁があること、
寺尾の在住者、知っているのかな?」
「ああ、それは……、
残念ですが……、
知る人は皆無かと……」
「昔は光正寺という大きい寺があった。
だがしかし、光正寺は武田家に焼き討ちされた。
そして今、小さな檀家寺のようだな。
寂しいな……」
ユウイ、
「仕方ありませんわ。
歴史は薄らいで曖昧になるものです。
地元の方々が正しく継承しない限り、
消えて無くなりますわ」
「そうだな……。
それでは我々は!
忘れぬよう、また来よう。
今度はもっと大勢でな?」
「ええ。
黄金龍王トール、
緋色龍神ミュウズ、
誘って参りましょう」
「それがいい!
そうしてまた、ビー玉交換しよう」
ウオンは嬉々とする。
「はいっ、お待ちしております!
近々、龍使い・凛花が来る予定になっています。
富士の乱波五大龍神と一緒だと……」
「おお、凛花!
相変わらずの龍たらしだ。
次の神在月での再会が楽しみだ」
「ええ、本当に……」
「では宇音、またな」
シュッ……!
龍蛇神王燦紋、貝紫色龍神ユウイ、
空の彼方に飛び立った。
キラリッ!
消えた。
竜胆色龍神宇音、
ふわり、
空上静止する。
『寺尾村』を眺める。
そうして、
ぽつり、呟く。
「さっきの龍雲……、見えましたか?
我らの存在……、気づいた人は居られますか?
この大空は出雲と繋がっています。
そして、天界と…………」




