そして、スピンオフ 箱根芦ノ湖
元箱根・芦ノ湖。
凛花とノア。
今日はコン太と待ち合わせ。
箱根神社に到着した。
平日の朝なのに、すでに賑わっている。
外国人観光客、大勢訪れている。
中でも水中鳥居は大人気だ。
撮影の順番待ちが発生している。
大行列ができている。
制限時間は三分間、
写真撮影を楽しむ。
箱根神社の水中鳥居……、
平和の鳥居とも呼ばれている。
待ち合わせ時刻、それは朝八時。
只今の時刻……、八時五十分。
呂色九頭龍神在狼・コン太……、
遅刻確定だ。
(おそらく寝坊)
回想中。
↓↓↓↓↓↓
それは昨晩……、
夕食後のひとコマ。
所沢市・緑町。
赤煉瓦ベル。
ピンッ!
コン太は閃いた。
身を乗り出して提案する。
「なあ凛花っ、
明日なんだけどさ?
三人で出掛けないかい?
おいらの地元、芦ノ湖に来ておくれよ!
まずは、箱根神社をお詣りする。
それから駒ケ岳の山頂の『元宮』を目指すんだ。
そこは別名・天空の社殿さっ」
凛花は洗い物の手を止める。
「元宮……?
天空の社殿……?」
「そうそうっ!
元宮にはロープウェーで昇るんだ。
そしてそして!
そこから見える景色がさ……、
激レアなんだよ!
だから見せてあげたくってさ」
「ロープウェーかあ……。
不思議とワクワクするよね!
激レア景色って……?
富士山?」
「イヒヒッ!
まあ普通大抵そう思うよねえ?
だけど、ブッブブーッ!
残念ながら不正解っ!
おいらが見せたい景色……、
それは富士の山じゃないんだよ」
凛花は首をひねる。
「うーん……、
じゃあどこだろう?
激レア景色……、すっごく気になる。
ノア、行ってみたいっ」
ノアは微笑む。
「ふふっ、決まりね。
だけどこれはコン太の要望なの。
だから私の背に乗って……、ね?」
「うんっ、
じゃあお言葉に甘えるね!
わあ、楽しみっ」
ニカーッ、
コン太はご機嫌だ。
「よしっ! 決まりだな。
じゃあ明日の朝八時!
箱根神社・水上鳥居前に集合だ。
ロープウェーの始発は朝九時なんだ。
だから遅刻は厳禁だよ?
夜更かしで寝坊しないでねえ?」
ノアは釘をさす。
「そういうコン太こそ!
寝坊しないでよ?」
回想終了。
………………。
もう待ちきれない!
凛花とノア、参詣に向かうことにした。
箱根神社と九頭龍神社、
作法に則りご挨拶する。
……この先の未來に向けて頑張ります。
今日も幸せです。
いつもありがとうございます!
九頭龍神社ではペットボトルに水をくむ。
この水、自宅に持ち帰る。
プランターの野菜たち、観葉植物にあげるのだ。
シュッ、
ふたりは移動する。
駒ケ岳ロープウェー乗り場に到着した。
イライラ、
ノアは痺れを切らす。
コン太に波動メッセージを送る。
……ピュンッ!
コン太が現れた。
必死に謝る。
「うへええっ! ごめんよお!
おいら、寝坊しちゃったよっ」
ノアは不機嫌顔で問う。
「まったくもうっ!
自分から誘ったのに……。
どうして寝坊しちゃたの?」
コン太は弁明する。
「それが実はさ……、
今朝方まで漫画を読んでたんだ。
『孔雀王』……、
面白くって、止まんなくってさ」
凛花は問う。
「孔雀王……?
それって、どんなお話?
奥深い?」
コン太は頷く。
ざっくり説明する。
「それは荻野真先生の大作だ。
その内容は!
こしょこしょこしょ……、
闇の力によって世界征服をもくろむ……、
インチキ密教集団がいてさ……?
こしょこしょこしょ……、
謎の宗教教団の生臭教主がさ……、
こしょこしょこしょ……、
最悪なんだよ。
こしょこしょこしょ……、
その汚い野望を砕くため、
主人公・孔雀が立ち上がるんだ!
そして壮絶な闘いが……!
てな感じのストーリーなんだよ」
「わあ、なんだか面白そう!
今度、読んでみようかな」
「孔雀王の敵!
それはまさに!
イレーズたちが心底嫌悪する類型なんだよ。
おいら、一気に全巻読破しちゃったんだ。
それでうっかり……、(しょんぼり)
寝坊しちゃったってわけ。
とにかく! ごめんよお……っ」
ノアと凛花、
顔を見合わせる。
ぷぷっ、吹き出して笑う。
相変わらず、
コン太は憎めない……。
ノアはロープウェーを指さす。
「ねえ? そろそろ山頂に行きましょう?
混んできちゃうわよ」
…………!
ノアの機嫌が直った!
コン太は嬉々とする。
スリスリ、
頬ずりして甘える。
「イヒヒヒッ!
それじゃあ、しゅっぱ~つ!」
箱根駒ケ岳・芦ノソラ。
山頂までロープウェーで空中散歩、約七分。
山頂駅舎に到着した。
まずは元宮を参拝する。
ぐるり、
草原を一周する。
それから展望デッキに立つ。
天気が良ければ眺望は最高だ。
芦ノ湖や富士山はもちろんのこと、
相模湾、駿河湾、東京スカイツリーまで見渡せる。
ビシッ!
コン太が一点を指差した。
「凛花、見えるかい?
あそこが駿河湾だ。
その先っぽ……、陸続きの島がある。
突き出して見えるだろう?」
「あっ、ほんとだ!
海に突き出してる!」
「楽器の琵琶に似ているから、
別名・琵琶島とも呼ばれているんだ」
「なるほど……。
だけどここから見ると、
なんだか龍の頭みたい……」
「おっ! さすがに勘がいいな。
あの場所こそ、伊豆七不思議のひとつ!
神池だよ」
凛花は目を丸くする。
「わわっ……?
神池って……、
もしかして、あの……?」
「ご名答!
まさに! あの場所で!
年に一度!
『神池の掬い』が……」
……ストンッ!
イレーズが現れた。
「うわああっ!
イッ、イッ、イレーズゥッ……!」
「やだっ、イレーズ!」
「あっ、イレーズさんっ」
三人は驚愕する。
イレーズは肩をすぼめる。
「コン太……、口が軽いな。
この先は、シークレットだよ?
ああ、ノア……、
悪いけどさ?
凛花を借りるよ?
後で赤煉瓦ベルに送るからさ?」
コクコクッ、コクコクコクッ、
コン太とノア、
ふたりは高速で頷いた。
「じゃあ凛花、
これからデートしよう」
「はいっ」
凛花とイレーズ。
ふたりは手を繋いだ。
そしてどこかへワープした。
………………。
コン太とノア、顔を見合わせる。
どうやら、置いてけぼりだ。
コン太はノアの手を握る。
「それじゃあ……、
おいらたちも……?
デートしよっか?」
「ふふっ、そうね」
「よーしっ、決まりだ!
ラブラブ♡デート、しゅっぱ~つっ」
シュッ!
二尊の龍神、
天高く飛び立った。
箱根芦ノ湖の上空。
白と黒、ふたつの龍雲が現れた。
その龍神雲……、
仲良く寄り添っている。
ひらひらひら……、
蒼蝶が舞った。
キラリッ!
芦ノ湖の湖上、
七色の虹が架けられた。




