第三十章 ④もしもの実正話
出雲大社・結界上。
くるり、
ゲイルは主旨転換する。
「では凛花よ。
ここからは万が一ではなく。
実正の談義をしてみよう」
「はい!
お願いいたしますっ」
イレーズが前振りする。
「新時代では。
すべてを一旦平坦にした。
俺たち四人衆は過去に遡って再調査を開始した。
それはまさに隅々まで。
万遍なくメスを入れた。
長きに渡って座視看過されていた罪……。
尊属殺人にもメスを入れた。
それこそ。
逃げ得だった輩は血の気が引いて青褪めた。
許しを請うて泣き叫んだ。
まさに阿鼻叫喚だよ」
ゲイルが頷く。
「我らの調査に区別はない。
支配権力者、平民凡夫。
神仏悪鬼、天使堕天使。
森羅万象のすべてが対象である。
再ジャッジにおいて。
『厳罰対象者』には制裁が下される。
まずは。
鬼神(神将)と神霊獣(天将)が完膚なきまでに叩きのめす。
それから霊界地獄へと転送する。
その後、改悛すれば黄泉界に転送する。
掬いようのない極悪人に関しては。
魔導師と魔王が粛々と処理をする」
凛花が問う。
「再審による厳罰対象者……。
大勢居られるのですか?」
イレーズが応える。
「うん。
残念なことに物凄い数なんだ。
歴史上において。
理不尽が隠蔽されてきた。
ひたすら積み上げられてきた。
それらの遺恨がようやく矯正是正された。
数値データに基づいての適正分別が始まったんだ」
凛花はさらに問う。
「死没後。
正当なるジャッジが下されているのは嬉しいです。
けれども存命中。
善人には懲らしめ処罰があるのに。
悪人には殆ど無い……。
それがどうしても不公平に思えてなりません」
「うーん……。
まあ、正論だし?
不公平に感じるかもね?
だけど凶徒暴徒とか。
匪賊姦賊の類型はさ?
自己愛が強すぎるんだ。
だから反省とか遠慮とか謙譲とか……、
まったくできないんだよ。
それになぜだかわかんないけど。
自分は誰よりも優れていて。
完璧な人格者で。
神をも超越した特別だと思い込んでいるんだ。
おめでたい異常者なんだよね」
「一年前……。
太郎さんが仰っていました。
高慢驕慢の勘違い人間には。
反省や理解ができないのだと……」
「その通り。
貧汚生物の誤認識……、
残念過ぎて笑えるよ。
そんな輩の劇甚処罰はさ?
彼岸でじっくり……、ね?」
「死後処罰というのは……、
止むを得ず。致し方なく。
なのですね」
「そ。
つまり存命中の処罰とは。
反省と改悛の余地を有する者に対してなんだ。
いわば修正チャンスでもあるんだよ。
その好機を生かすも殺すも本人次第だけどね?
人間は兜率天と同じ『欲界』に属しているんだからさ?
もう少し頑張ってほしいよね」
「雲泥の差です。
魔導師は粗悪異常者と対峙しておられる……。
凄惨過酷な任務です」
「んー?
そうでもないよ?
指先ひとつ、だからさ。
ま、不快でムカつくけどね。
だけどそこはさ?
以心伝心の図抜けた仲間たちと協力してさ?
どうにかこうにか頑張っているよ」
ゲイルが爽やかな笑顔を向ける。
「最悪の末路を招かぬための進言をしよう!
それは各々の心ひとつである。
卑屈(愚痴)と傲慢(自尊)。
マイナスに支配されないことだ。
両者は一見して真逆のように見える。
しかし紙一重の似た者同士。
隣り合わせの同類種である」
クロスがおどける。
「オエェッ!
嫌だねェ?
下世話な悪口に噂話。
つまんねえ自慢話からのマウント合戦。
お涙頂戴の身の上話。
そうして悲劇のヒロインかァ?
アーアッ!
承認欲求丸出しで虫唾が走るぜ!
自惚れやとか?
姑息陰険とか?
最悪の嫌忌類型だヨ」
ゲイルが同意する。
「そうだ。
嫌忌類型の増殖こそ!
破滅の始まり。
カタストロフィの道を引き寄せる。
そして反吐が出るほど忌々しいのは!
『善人を装った悪党』である」
シップがまとめる。
「まさに今。
相応世界の実現に向かっている。
ジャッジ・処罰・転生を駆使している。
六世界一丸となって大変革の真っ只中なのだよ」
イレーズはおどける。
「ま、ときどき。
王はゲンナリしちゃってさ。
遠くを見つめて溜め息ついているけどね?」
凛花は思わず笑みをこぼす。
「ふふっ……。(想像できちゃう)
過去の理不尽が修正されている今。
これから先の未來は悪くない!
そんな気持ちが芽生えます。
未來王の大変革……、
面白そうです!」
四人衆は顔を見合わせて笑う。
「ククッ……、確かに。
そうかも、ね?」




