第三十章 ①魔導師四人衆
出雲大社・御本殿上空。
ピカアアァッ……!
キラリッ! ピカッピカッピカッ……!
キラキラキラッ、ピカァァッ……!
眩しい。
センセーショナルに空が光った。
無数の閃光が煌めいて明滅する。
天使の梯子の光芒がふんだんに降り注ぐ。
ひらりっ……!
ひらっひらっひらっ、ひらり、ひらひらひら……!
ドバーンッ!
季節外れの桜の花びらが大放出された。
花吹雪は舞い上がって地上に舞い降る。
ビュウウウゥーッ、
ビュウウウゥッ……!
クルクルクルクルッ……!
瑠璃色の風が吹き抜けた。
強風が渦を巻いて竜巻になる。
風は巨大なクラッカーの形になる。
光芒と花びらを巻き込んだ。
パンパーンッ!
パンパカパパーンッ!
ドッカーンッ……!
クラッカーが盛大に弾けた。
フェスティバルさながらの慶祝気分だ。
出雲大社はド派手な祝賀ムードに包まれた。
シン……………………
一転して。
水を打ったような静寂に包まれた。
凛花はイレーズの腕の中。
目をパチクリさせている。
目の前には。
三人の男性が並び立っている。
神々しい光背後光を放っている。
それは未來王の四大弟子だ。
極等級・魔導師が勢ぞろいしていたのだ。
魔導師四人衆。
凄まじい威圧感である。
彼らの容貌年齢は三十歳くらいだろうか。
スラリ、
モデルのようなスタイルだ。
洗練されたルックスは圧巻だ。
美しすぎて、もはや凶器だ。
まさに前代未聞の一大事である。
八百万の神々は驚嘆して腰を抜かした。
龍神たちは呼吸が止まった。
コン太は吃驚仰天!
瞠目して呟いた。
「魔導師四人衆……、実在していたんだな。
うへえぇっ!
全員がイレーズレベルの容姿所有……。
ヤバ過ぎだよっ!
まさかまさかっ?
婚約祝いに降りて来たのかい?」
神々は心を鎮める。
スーゥゥ、ハーァァ……、
深呼吸する。
必死に状況をのみ込んだ。
ギロリ、
魔導師の三人は凛花を凝視した。
直ちに緻密分析を開始する。
……十秒後。
顔を見合わせ頷き合う。
三人衆は柔和に笑った。
物腰柔らかな和装姿の魔導師。
閑やかに祝意を述べる。
「この度は婚約おめでとう。
私の名は『雨間シップ』。
四人衆の中では一番の年長者である。
凛花よ……、
貴女は龍神界から提示された好条件の駆け引きを拒否した。
有望人間との縁を提示されても迷わなかった。
龍使いの任務継続を即座に選択した。
妙妙たるセレクト!
実にエクセレントである!
その不屈なる決意の成果として。
新たな縁が提示された。
それこそが!
魔導師・イレーズとの極上縁だった。
これからふたりは無限の時間を共有する。
従って。
我らの仲間として認めよう……」
シップは和装姿。
結城紬の着物を雅やかに着こなしている。
足元は厚底のハーフブーツ。
髪は後ろにひとつ、ゆるく束ねている。
右手に畳まれた扇子を握っている。
うっとりするような端正な顔立ち。
しなやかな立ち居振る舞い。
まごうことなき極上の男前美男子だ。
漆黒の瞳からは奥深い慈悲を感じる。
典雅優艶なる人格者という印象だ。
シップの隣に立つ魔導師。
キリリ、精悍な顔立ちだ。
爽やかな笑顔で言葉を発する。
「この度は婚約おめでとう!
私の名は『疾風ゲイル』である。
四人衆の中では中堅の次男坊、といったところだな。
凛花よ、君は龍神界から信頼を得ている。
そして聡く、あたたかい人間だ。
イレーズの凍てついた心を溶かした。
安らぎを与え、笑顔を引き出してくれた。
イレーズは宇宙一の直感力を有している。
ゆえに選択や回答を間違うことはない。
君はまさしく『相応しき者』である。
我ら一同!
ふたりの未來を祝福し、仲間として歓迎する!」
ゲイルは中世ヨーロッパを想起させるロココ調の装いだ。
ウエストコートとブリーチズを着用している。
それは繊細な刺繍が施されている。
艶やかな長髪を束ねている。
切れ長の瞳は涼し気で凛々しい。
有象無象の悉くを魅了して虜にしてしまう。
そんな正統派の美男子だ。
おとぎの国から抜け出てきた王子様のようだ。
ゲイルの隣に立つ魔導師。
見上げるほどの長身の大男だ。(二メートル十五センチ)
ニヤリ、笑う。
低い声で告げる。
「クッ、ククッ、クッ……!
実に目出たいねェ?
コングラチュレーション!
俺の名は『垂氷クロス』。
四人衆の中ではゲイルと同期の三男坊だヨ!
凛花ァ?
どうやらお前は只者ではないようだ。
なぜなら。
宇宙一の天才に見初められた。
宇宙一の極上男のディアーになった。
さらには!
同値の関係を築き上げ、婚約を成立させた。
『恒久使命』を賜る特権を得た。
死没後、凛花には『判別魔眼』が授けられる。
俺たちと共に。
未來に尽くす一員となるだろう…………」
クロスは全身モノクロームの装いだ。
黒のゴシック調のレザーロングコートを羽織っている。
足元はいかついエンジニアブーツを履いている。
強いくせ毛の髪は後ろにひとつにまとめている。
ミケランジェロ彫刻のような完璧なスタイル。
悪魔的魅力を有した超絶美形だ。
屈強な体格と重低音ボイスには凄みがある。
だけどどこか茶目っ気があって憎めない。
やんちゃ悪童といった印象だ。
凛花は深々と頭を下げる。
恐縮しつつも挨拶する。
「はじめまして。
凛花と申します。
この上ない至福を頂戴いたしました。
イレーズさんと喜悦や苦痛も分かち合って。
心穏やかに安らげる関係継続に努めてまいります。
そして無限の時間を……。
大切に重ねていけたらと念願しております」
シップは穏やかに微笑む。
「イレーズは私たちの無二なる仲間である。
家族であり、可愛い末っ子でもある。
そして今日より!
凛花は我らの仲間であり家族だということだ。
皆で仲良くしようではないか!
以後、よろしく頼むぞ」
ゲイルは告げる。
「イレーズは宇宙一の極上男だ。
そして我ら自慢の弟だ。
後に。
藍方星に迎えられた暁には!
共に任務に励もう。
君は頭脳レベルが高く心根が美しい。
期待しているぞ!」
クロスはニヤリ、口角を上げる。
「クッ、ククッ……。
お前は物好きだ。
此岸・彼岸。
延々に働き続ける未來を選択した。
つまり!
今日から俺たちは仲間であり家族ってわけだ。
凛花ァ! ドーゾ、よろしくなァ?」
凛花の瞳は潤みだす。
「あっ、ありがとうございます!
イレーズさんの大切なご家族に受け入れていただけて……!
嬉しいです!
とてもとてもっ、嬉しいですっ…………」
イレーズは無造作に髪を掻きむしる。
ボソリ、
呟く。
「あの、さ……?
その……、
なんていうかさ?
……あ、り、がと」
三人衆は目を瞠る。
思わず顔を見合わせる。
……オイオイオイッ!
イレーズがはにかんでいるぞ!
耳と首を赤くしているぞ!
まさか……? 照れているのか?
ワァオッ! ブヒるッ! 萌えるっ!
ファンタスティックッ!
ゆらり……、ゆらり……、ゆらり……、
三人衆がイレーズを囲み込む。
ニヤーッ……、
由ありげに笑う。
イレーズは不吉な何かを察知する。
……ヤバいッ!
この場から逃げ出したい!
ああ……、
もう手遅れだ……。
がばっ!
がしっ!
むぎゅうっっ……!
三人衆はイレーズに抱きついた。
ぶちゅう!
ぶちゅうっ!
ぶっちゅうっっ……!
額と頬にキスをする。
寄って集ってキスをする。
「ちょっ……! やめてよっ!
ふざけんなっ、……調子に乗るなっ」
イレーズは拒否る。
不機嫌顔をして抵抗する。
しかし。
三人衆はゲラゲラ笑ってお構いなしだ。
イレーズの伽羅色のサラサラ髪。
わっしゃわっしゃと搔き回す。
「もうっ、なんだよっ!
しつこいよっ!
……クッ、クククッ、
……あははっ!」
兄貴たちからのハートフルな祝福だ。
イレーズはつられて笑い出した。
神々は驚きすぎて目が点だ。
夢のような光景……。
目の当たりにしてしまった……。
未來王の四大弟子・魔導師四人衆とは。
聡明叡智なるスペシャリスト集団だ。
彼らは非常に気難しいくラディカルな性質だ。
そんな彼らが!
公衆の面前で大笑いして。
じゃれ合って。
大はしゃぎするなど……。
珍奇なまでに嬉しい椿事であった。




