第二十九章 ③神々の願い(ウィッシュカムトゥルー)
出雲大社・御本殿上空。
白雲の上。
凛花はイレーズの腕の中。
すっぽり、
包み込まれて抱きしめられている。
イレーズは叫ぶ。
八百万の神々に高らかに宣言する。
「皆っ! よく聞けっ!
今より『龍使い・凛花』は!
魔導師イレーズの婚約者だっ!
俺のっ! 婚約者だああっ!」
ううおおおおおおおおおお…………っ!
天地が鳴動した。
大歓声が沸き起こった。
龍蛇神王燦紋は破顔する。
「めでたいっ、実にめでたい!
見てくれっ。
イレーズの嬉しそうな顔をっ!
あの無邪気な笑顔をっ……」
黄金龍王トールは感慨にひたる。
「ああ、まさしく佳日だ……。
今になって追想すれば。
ノアと凛花の出会いは偶然ではなかった。
貴き導きの縁由だった」
「うむっ、それはまちがいないっ。
そうして。
千載一遇の極上縁が生まれたのだなっ」
「龍使い凛花が宿す『フィールリズム』……。
その柔らかな温もりが。
氷河期男・イレーズを変えた。
凍てついた心を溶かしたのでしょう……」
「うむっ!
どうやら出雲の御利益は『無限』だな。
人間と人間。
龍神と龍神。
そして人間と龍神の間にも!
絆が生まれるのだからなあ……」
「そして時には……。
時空を超えた出会いまでも……!」
「ふははっ!
まったく、そのとおりだっ」
緋色龍神ミュウズと貝紫色龍神ユウイ。
手を取り合って感涙する。
「ああっ! 感無量よ!
幼児期の悲しみを乗り越えて……。
極大の幸せを掴んだのねっ」
「ええっ!
極大なる慶事に遭遇させていただきました。
至上の喜びを感じ入りますわっ」
至極色龍神雷紋は独り言ちる。
「それにしても極上縁は格別だ。
極大の感喜波動が伝わってくる。
互いを敬い合う……。
甚深に愛し愛される……。
きっとそれは。
万感胸に迫る心情なのだろう」
ほろり……、
涙を落とす。
「あれ? なんで涙が?
我は何故泣いている……?
泣くのなど、赤子以来か……。
もしや我は?
一夫一妻に羨望を……?
憧憬の念を抱いているのか……?」
刹那に。
ノアを見つめる。
「本物縁……。
我には無縁の代物だ。
表龍王家の嫡男には。
龍神界繁栄の責務がある。
なのに我知らず……。
不覚にも感銘を受けてしまった。
本物縁を欲してしまった。
嗚呼……、この行き場のない恋着。
そろそろ捨て去らねばならないな……。
ノアには想い人が居る。
深い愛で結ばれたコン太が居るのだから……」
神々は畏れていた。
……カリスマ神霊獣使いイレーズ。
未來王の四大弟子だ。
極等級を有した魔導師だ。
気高きカリスマ神霊獣使いだ。
同時に。
素っ気ないサイボーグだ。
冷酷無情のネオヒューマンだ。
天才ゆえに。
汚い本性を瞬時に暴いて見透かしてしまう。
森羅万象悉くくの機微。
細部まで読み取れてしまう。
だからこそ。
有機体生物を侮蔑して嫌忌する。
神々は憂いていた。
……終わることのない時間軸。
彼はたったひとりで突き進むのか?
冷たい心に支配されたまま。
聖なる恒久使命を全うしていくのか?
愛という感情を知らぬまま。
無限の時間を消耗し続けるのか?
神々は祈願した。
……イレーズの冷え切った心に。
優しい光が差し込みますように……
凍てついた心が。
溶かされ癒されますように……
そうしていつの日か!
温かな幸せを感じ得ますように……
屈託ない無邪気な笑顔が見られますように…………
そうして。
本年本日。
神々の大願は成就されたのだ。




