第二十九章 ②マイディアー
出雲大社・白雲の上。
凛花は問いかける。
「もしも『イエス』とお応えしたら……。
私にも恒久使命をいただけるのですか?
共に未來世界に尽くしていけるのですか?」
「うん。
そうだよ」
「長い長い無限の時間。
私だけを一途に愛してくださるのですか?」
「うん。
もちろん」
「愛する人と無限の時間を共有して。
未來に尽くして行ける……。
もしそうだとしたら!
これほど極大の幸せはありません」
「俺はさ?
君の存在自体に真価を見出している。
すべてに好感を抱いている。
奥二重の瞳も。
小さな唇も。
声質も。
たまらなく愛しいと感じている。
たぶん……。
初めて出会った一年前のあの日から。
すさまじい愛の引力によって惹かれていたんだと思う」
「わ、私は……っ!
今日が、待ち遠しかった。
イレーズさんの声が聞きたくて……。
笑顔が見たくて……。
会いたくてっ……!
日々に想いが募って……。
溢れてしまって……。
これ以上好きになったらどうなってしまうのかっ……!
怖かった…………」
イレーズは改まって告げる。
「俺の正式名……。
『雪華イレーズ』だ。
未來の時間軸ではさ?
『雪華凛花』になってくれる?」
凛花は即座に諾う。
「はいっ!
プロ―ポーズ、謹んでお受けいたします。
あなたと無限の時間を共有させてください。
ずっとずっと!
お傍にいさせてください」
イレーズは小首を傾げる。
再確認に問いかける。
「もう撤回できなけど?
本当にいいの?」
「イレーズさんこそっ!
もう撤回できませんよ?」
「ククッ、もちろん。
いつか訪れる死出の旅路……。
俺が必ず迎えに行く。
そして俺のいる場所へと連れて行く。
俺が愛するのは永遠に君だけ……。
誓うよ」
「私もあなただけを永遠に愛し続けます。
不束者ではありますが……。
幾久しくよろしくお願いいたします」
「うん。
共に分かち合って。
心を通わせて。
永遠に仲良しでいようね?」
凛花は泣きじゃくる。
「ううっ、うううっ……、
どうしよう……、嬉しいっ!
出雲の御利益ってすごいっ」
「ほんとにね?
ずーっと、大好きだよ」
「私だって!
ずーーっと、大好きですっ」
凛花の頬を涙が伝う。
イレーズが指で拭った。
「……オーケー?」
「はいっ!
オーケーですっ」
チュッ……!
イレーズは凛花の唇にキスをした。
この瞬間。
『兜率天界法』の掟に則り。
ふたりの婚約が成立した。
「あっ、あのっ!
イレーズさんっ」
「ん?」
イレーズは腰をかがめて覗き込む。
なぜか凛花は悪戯っ子の表情だ。
がばっ!
首元に両腕を巻きつける。
ぴょん!
ジャンプした。
チュッ!
イレーズは驚きに目を瞠る。
凛花からキスされた……?
慌てて天を仰ぐ。
瞼の奥に込み上げてくる熱い涙珠……。
零さぬように堪えた。
「ああ……、困ったな……。
すでに死んでいるのに……。
嬉しくて死にそうだよ……」
「私もです。
幸せすぎて死んじゃいそうです」
「あ、それはダメだよ?
俺が迎えに行くまでは死なないで?」
「ふふっ、はいっ!
頑張って長生きして……。
龍使いの任務を全うします」
「ククッ、そうだね。
……いい子だ」
「大好き、です…………」
イレーズは微笑む。
凛花を包み込んで抱きしめた。
そして
耳元に囁いた。
「マイディアー……、マイラブ……」




