表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/142

第二十八章 ③邂逅(エンカウンター)

 稲佐の浜・結界上。


 「あっ、そういえば! 

 『八大万能龍神』が集結するのですよね?

 実はずっと、八尊目が気になっていて……」


 「ん。

 あとで紹介してあげるよ。

 じゃあそろそろ……、

 みんなのところにに向かおうか?」


 稲佐の浜からワープする。

 出雲大社(おおやしろ)に降り立った。

 第二鳥居・精溜(せいだまり)をくぐる。

 まずは『祓社(はらえのやしろ)』だ。

 二礼四拍手一礼、作法に(のっと)(けが)れを払う。

 今年は一緒に参詣(さんけい)することができた。

 

 御本殿(ごほんでん)・上空。

 すでに各地の神々が集結し始めている。


 表龍王一族がふたりを歓迎する。

 龍蛇神王(りゅうじゃしんおう)はえびす顔だ。


 「おおっ、凛花よ……。

 (ひさ)しいのう。

 仲睦まじいふたりに会えて嬉しいよ」


 凛花は満面の笑みで挨拶(あいさつ)する。

 

 「燦紋(さんもん)さま! ユウイさま! 

 雷紋っ!

 今年もこうして邂逅(かいこう)できました。

 大変嬉しく光栄に存じます」


 燦紋の妻・貝紫色(かいむらさきいろ)龍神ユウイは微笑む。


 「あらっ?

 凛花とイレーズとデート中ですのね? 

 仲良しですわねっ」


 燦紋の息子・至極色(しごくいろ)龍神雷紋は冷やかす。


 「おやおや? 

 イレーズ大好きっ、久々に会えて嬉しい、って。

 顔に書いてあるよ? 

 ほらほらっ、凛花の頬っぺたに!」


 凛花は焦る。

 両手で顔を(おお)い隠す。

 

 「ええっ、うそっ? 

 ホントに? 顔に書いてある? 

 雷紋には見えちゃってるの? 

 わわっ、どうしようっ」

 

 「……プッ! アハハッ! 冗談だよ、冗談っ! 

 まったく可愛いなあ……。

 それにしても。

 難攻不落(なんこうふらく)の極上男を恋人にするなんて……。

 流石(さすが)は凛花だ」


 そこへ(うら)龍王夫妻が合流する。

 黄金(おうごん)龍王トールと緋色(ひいろ)龍神ミュウズである。


 「こらっ、雷紋(らいもん)! 

 揶揄(からか)いすぎだぞ」


 「そうよっ!

 凛花は私たちにとって娘のようなもの。

 ノアの妹で遊ばないでちょうだい」


 凛花は笑顔になる。

 ふたりに駆け寄ってハグをする。


 「トールパパ! ミュウズママ! 

 今年もノアと一緒に来てしまいました」


 「ははっ、可愛い凛花……。

 いつも(ノア)と仲良くしてくれてありがとう」


 「凛花は龍神界の宝……。

 そして大切な家族よ……」


 「私がこうして生きているのはノアのお陰です。

 助けられて導かれて……。

 優しい龍神たちと家族になれました。

 ありがとうございますっ」


 トールとミュウズは目を細める。

 凛花をそっと抱きしめた。

 

 そこへ低い声が響きわたる。


 「おーーいっ! 

 凛花アァっ! 

 おーーいっ」


 ぐるり、

 ()()の龍神に取り囲まれた。

 それは富士の乱波(らっぱ)五大龍神。

 それから薄紫色の龍神だった。


 凛花は瞳を輝かす。


 「わあ! 

 モトロン、サイロン、ショウロン、カワロン、ヤマロン! 

 それと……。

 ああっ、もしかして! 宇音(ウオン)さん?」


 「はいっ、正解です! 

 竜胆色(りんどういろ)龍神宇音(うおん)です。

 本年のカミハカリは龍神の姿で出席いたします」


 「座敷童(わらし)姿はあどけなくて可愛かったですが……。

 龍神姿は勇壮(ゆうそう)なのですね! 

 竜胆色(りんどういろ)(はだえ)と瞳……。

 とっても綺麗です!」


 ポポッ、

 ウオンは少し照れた。


 「あっ、そうだ!

 内田家当主の了承(りょうしょう)を得まして。

 秩父札所二十番では『ビー玉(龍玉)交換』が始まりました。

 多くの方に楽しんで頂けたら(さいわ)いです」


 「本当に? ビー玉交換できるのですね!

 やったあ! 近いうちに(うかが)いますっ」

 

 ソワソワッ! ウズウズッ! 

 もう一秒たりとも待ちきれないっ! 


 「凛花アっ! 久しぶりっ」

 「凛花アァ! 会いたかったよ」

 「凛花っ、凛花っ、凛花ァァっ!」


 強面(こわもて)屈強(くっきょう)乱波(らっぱ)五大龍神。

 大好きな龍使いに甘えてすり寄った。

 凛花は五体の龍頭(りゅうず)()でる。

 首元の龍宝珠(ドラゴンジュエル)に向けてご挨拶する。


 「奥様方(おくさまがた)、こんにちは! 

 またお会いできて嬉しいですっ」


 乱波の妻龍神、一斉に喋り出す。


 「凛花っ、久しぶりねっ」

 「元気そうで良かったわ」

 「なんだか綺麗になったわねっ」

 「それは恋をしたからねっ」

 「イレーズが優しくなったわ! ありがとうっ」


 「ふふっ、また所沢にいらしてくださいねっ。

 寒くなってきたから鍋パーティがいいかなあ……」


 乱波(らっぱ)五大龍神は激しく同意する。


 「うんうんっ! 

 いいね、いいねっ! 

 鍋パーティだっ! 

 すきやき? 水炊き? 

 それとも、みかん鍋?」


 「ふふっ、じゃあ次は!

 南瓜(かぼちゃ)入りの『ほうとう鍋』にしようっ」


 「よおしっ、決まりだな! 

 楽しみだ! がははははっ!」


 そこへノアとコン太が合流した。

 凛花は大好きな龍神たちに囲まれた。

 笑顔がはじける。

 

 少し離れた場所から。

 ミュウズとユウイは(ささや)き合う。


 「まあ、凛花ったら……。

 相変わらずの龍たらしねっ」


 「本当に……。

 なんて純真で屈託(くったく)ない龍使いなのでしょう」


 「それにしても雷紋ったら!

 いつも凛花を揶揄(からか)って……。

 まったく悪ノリ王子(プリンス)ねっ」


 「初心(うぶ)な凛花が可愛くて。

 つい(かま)ってしまうのでしょう……。

 ですが、冷やかしも度が過ぎてはいけませんわね」


 「あっ、ほらほら見て? 雷紋ったら!

 もう独身()龍神(りゅうじん)に取り囲まれているわ。

 さすがはナンバーワンのモテ王子よねっ」


 「そう、ですわね……」


 「あら? ユウイは嬉しくないの? 

 雷紋は龍神界繁栄の役割を(にな)っている。

 責任を果たしてくれている。

 まさに『大黒様』。

 立派で(ほこ)らしいわ」


 「本来ならば……。

 (よろこ)ぶべきことかもしれません。

 ですが母としては……。

 (むな)しい心地なのです」


 「(むな)しい?」


 「雷紋は表王家の嫡男(ちゃくなん)です。

 複数愛者(ポリアモリー)として生きる使命が課せられています。

 当然、複数の妻と子が()ります。

 側妻(そばめ)(側室)の申し出も(あと)()ちません。

 ですが。

 雷紋の瞳は輝いていません。

 (おのれ)の人生を()ややかに傍観(ぼうかん)して……。

 (あらが)えぬ運命を(のろ)っているように感じます」


 「確かに……。

 一途(モノアモリー)のコン太とは対照的よね」


 「幼き日を思い起こせば。

 雷紋の初恋はノアでした。

 ですが王家の掟上(おきてじょう)

 必定的(ひつじょうてき)に叶わぬ恋でした。

 雷紋は()がれる想いを胸の奥底にしまい込みました。

 熱い恋着(れんちゃく)を押し殺しました。

 求愛することすら(かな)わなかったのです」


 「今でも……、

 ノアを想っているのかしら?」


 「さあ、どうでしょうか? 

 周囲に(さと)られぬよう造作(ぞうさ)なく振舞っておりますから。

 ですが荒ぶる情熱を秘めているように思います。

 そしてノアに向ける眼差(まなざ)しは……。

 特別に優しいと感じます」


 「そうかも知れないわね」


 「恐らく。

 どれほど多くの女龍神(めりゅうじん)から愛されたとしても。

 虚無(きょむ)なのでしょう。

 強く切望した恋だけは実らなかったのですから……」


 「いつの日か。

 雷紋にも本物縁(えにし)』がいただけるといいわね」


 「息子(らいもん)にも『本物縁あい』を!

 などと……。

 そんな(たわむ)れを願ってしまいます。

 親のエゴですわね」


 「親なんて……。

 子供に対してはエゴの(かたまり)よ? 

 だけどそうね。

 我が子の幸せを心から願えばこそ!

 我慾(エゴ)は改めなければならないのよね」


 「ほんとうに……。

 それにしても!

 今日はソワソワして落ち着かない心地ですわね?」


 「そうね! 

 ノアとコン太も朝から興奮していたわ。

 私もワクワクしているの」


 ミュウズとユウイは(うなず)き合った。

 

 一方。

 カリスマ神霊獣使いイレーズの前には行列ができていた。

 八百万(やおよろず)の神々が長蛇(ちょうだ)(れつ)をなす。

 『ご挨拶』に並んでいるのだ。


 以前のイレーズであれば。

 不機嫌顔をして完全無視だった。

 しかし今は違う。

 神々の辞宜(じぎ)目礼(もくれい)(こた)えてくれる。

 さらには時折。

 わずかに口角を上げることさえある。


 神々は絶美(ぜつび)見惚(みと)れて嘆息(たんそく)する。


 ……氷河期男(アイスマン)・イレーズは変わった。

 それもこれも!

 『龍使い・凛花』のお陰にほかならない。

 

 表裏(ひょうり)龍王は肩を並べて(ささや)き合う。


 「のう、トール。

 なんだか今日は良い予感がするぞ?

 特別に()き日になりそうだなあ?」


 「奇遇(きぐう)だな?

 燦紋(さんもん)もそう感じるか? 

 祝日にしたいくらいだよ」


 「ふはっ、ふはははっ! 

 (まい)った! 

 (わし)まで動悸(どうき)がしてきたぞっ」


 「ああ、確かに。

 緊張が伝わってくるよ…………」

 

 神在月の出雲(いずも)大社(おおやしろ)

 カミハカリの演算は終局だ。

 大団円(だいだんえん)を迎えようとしていた……。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ