第二十八章 ②未來王時代(ネオフューチャー)
稲佐の浜・結界上。
イレーズはわずかに負い目を感じていた。
近況を伝える。
「実はさ……。
新たに『法制化』が必要な項目ができたんだ。
それで改革任務が立て込んでしまってさ?
少し、忙しかったんだ……」
「立法と改革ですか?
天界にも法律があるのですね?」
「もちろん。
規則規定は数多に存在する。
兜率天界法はさ?
恐ろしいほど峻厳な掟なんだ。
根源的に不公平は禁令だ。
相互利益関係か。
相応でなくてはならないんだ」
「理想的です。
権力者や独裁者だけが得をする……。
そんな旧態依然は浅ましく感じます」
「ん。
すでに認識済みだと思うけど……。
未來王は柔軟雲上人だ。
封建的、排他的、奴隷的。
それらの古臭い精神思想を嫌悪している。
そして。
不均衡な不平等世界。
せめて適正化したいと願われている。
『完全数値化』はさ?
未來王肝いりの大改革なんだ」
「公平に、平等に……。
未來王のもと。
相応世界の実現に近づいているのですね」
「とは言え、さ?
故意に捻じ曲げ歪められた歴史認識……。
それらを完全修正するのは不可能だ。
そもそも歴史なんて確証がない。
権威者が『過誤なる正義』を利己的に監修した。
それらを教育によって刷り込んだ。
さらには世論を利用して定着させたものだからね?」
「恐ろしいです。
学生時代、度々違和感を覚えていました。
例えば古墳飛鳥時代。
帰化氏族豪族の物語……。
どうしても納得できませんでした」
「ククッ!
滑稽だし? 過剰演出だし?
ネーミングに悪意を感じるよね」
「改革は……。
簡単ではありませんね」
「そうだね。
悪事に尤もらしい大義名分を付加してさ?
教唆して丸め込ば世俗を容易く操縦できる。
まさに洗脳と同義だよ。
残念ながら。
この世は不遜な自惚れやが仕切っている」
「そんな不完全な欠落人間が……。
心を宿す人間を操縦できるのですか?」
「奴らは狡猾で計算高い。
綺語を並べて『徹底的な善人』を演じきる。
その自己陶酔した迷演技に大衆は騙される。
惑わされて好感を抱く。
そうして世俗の共感を勝ち得る。
それから餌食にするんだ。
金づる、下僕、兵卒要員……。
捨て駒として利用する」
「姑息でずる賢い人間が世を仕切る。
好意や人情を利用して捕食する。
そんな不条理な愚かしさが……。
今もなお繰り返されているのですね。
同類種をカモにするなんて最悪です」
イレーズの目に力がこもる。
「そして昨今……。
理不尽に晒された者たちの怒りが爆発した。
その憤懣は怒髪天を突き抜けた。
六世界は激しく揺らいで歪みが生じた。
亀裂は広がって猥雑混沌とした。
そしてついに。
神々の連携が崩れて機能不全に陥った。
このままでは天界が消滅してしまう……。
大宇宙は破滅の道筋まっしぐらだった」
「嗚呼…………」
「天界は存続の危機を迎えていた。
もはや風前の灯火だった。
残存余力は減衰していた。
壊滅の瀬戸際まで追い詰められていた。
さらには。
破滅の予見予兆を感知した。
君主交代論が席巻するのは必然だった」
「限界を超えて極限値となり。
さらには不穏な前知予期を感知した。
そのため気運が高まり。
世代交代が早まった、ということですか?」
「もはやそれ以外に選択肢は無かった。
時代は移ろい、革新的デジタル社会に変貌を遂げていた。
その変遷速度に『旧体制』は追いつけなかった。
完全に手に負えなくなっていた。
さすれば!
六世界を統制制御できる才覚者を立てるより術はない。
そしてそれは。
『たったひとり』しか居られなかった。
最後の切り札である最終カード。
『チェンジ』が行使された」
「そして破滅寸前に!
『未來王』が君臨されたのですね!
遂に!
新時代が到来したのですね!」
「そう。
泣きつかれて丸投げされたってこと!
渋々、『新体制』に移行したんだよ」
「丸投げ……。
そうでしたか……」
「そして刻下。
大改革の真っ只中なんだ。
未來王と図抜けた仲間たちが協力してさ。
天地がひっくり返るほどの……、ね?」
「わわっ?
天地がひっくり返る?」
くすり、
イレーズは笑みをこぼす。
「だけど……。
その物語はさ?
またの機会に。
別枠にて……、ね?」




