第二十六章 ④ニンマリ・ニンマリ
所沢市・緑町。
赤煉瓦ベル。
最強コンビは仲睦まじい。
友情ハグの真っ最中だ。
三人はそのまま会話する。
「イレーズとはいつ会えるんだい?
次の神在月の神議かい?」
「うん……。
たぶん……」
「超絶ウルトラ遠距離恋愛だからねえ?
寂しいねえ?」
「うん……」
「そうよね。
遠くて簡単に会えないから……。
だけど声くらいは聴けるのでしょう?
連絡はとり合ってるの?」
「イヒヒッ!
おいらにはわかるよ?
イレーズが魔術を行使しているのさ!
凛花が心の奥で念じれば応えてくれる。
離れていても会話ができるってわけさ」
「あっ!
そういえばときどき……。
部屋の隅っこで独り言を喋っているわ!」
「へええ? なるほどねえ?
それは恐らく!
感応デート中……、だねえ?
いいねえっ!」
「うふふ……、
次に会うのが待ち遠しいでしょう?」
「イレーズに会いたいかい?」
凛花は照れながら頷く。
「うんっ!
今すぐにでも会いたいよっ」
……ストンッ!
「…………?
なにやってるの?
もしかして……、
おしくらまんじゅう?」
……!
一瞬だけ呼吸が停止した。
三人はシンクロして叫んだ。
「え? ええっ?
イッ、イッ……!
イレーズッ(さん)!」
突如として。
予告なしに。
イレーズがやって来た。
サアッ……!
コン太は青ざめる。
戦慄して慌てふためく。
「うっ、うわあああっ!
あわわわわっ!
もしやもしやっ!
未來王が怒っているのかい?
勝手な行動したおいらに審判が下されるのかい?
これからイレーズにお仕置きされてしまうのかい?
つまり今日が……!
おいらの『命日』ってことなのかい?」
ノアは焦る。
イレーズを制止する。
「嫌あっ!
イレーズッ!
やめてっ!
コン太を殺さないでっ」
「…………(無言)」
いつもは冷静沈着なノアが取り乱す。
涙を流して懇願する。
「コン太は凛花のことを大切に想っているの!
だから少し暴走しちゃっただけなの!
もしもお仕置きするなら!
命だけは助けて? お願いよっ」
「…………(無言)」
「ねえ? イレーズ……。
お願いよ……。
コン太を殺さないで?
コン太がいなくなるなんて……。
そんなの耐えられないっ……!
私からコン太を奪わないで?
コン太とずっと一緒に居たいの……。
だからどうかお願いっ!
お願いよっ……!」
凛花も泣き出す。
涙ながらに切願する。
「イレーズさん!
私からもお願いします!
どうかコン太を許してあげてくださいっ!
もともとの原因は私にあります……。
だから!
お仕置きするなら私だけをっ……!」
イレーズは目を丸くする。
呆れ顔で肩をすぼめる。
ぼそり、
呟く。
「あの、さ……?
この間、横浜でさ?
所沢に遊びに来て……、って。
凛花に誘われたからさ……?
だから来たんだけど?
迷惑だった?」
「…………?
わわあっ! そうでしたか!
もちろん大歓迎ですっ!
嬉しいですっ」
「ん。
それじゃあ……、
お邪魔……、します?」
はぱあっ!
凛花は笑顔になる。
ノアは心底安堵する。
コン太は命拾いした。
いつもの威勢を取り戻した。
「イヒヒッ!
それじゃあさあ!
四人でタコパ(たこ焼きパーティー)やろうよ!
おいらタコ、買ってくるからさ!
今すぐ角上魚類・所沢店に行ってくるよ」
「あらっ、いいわねっ!
イレーズがたこ焼き食べている姿……。
ちょっと見てみたいわあっ」
タコパが始まった。
イレーズはわずかに戸惑う。
眉間にしわを寄せる。
「たこ焼き、ってさ……?
この焦げた丸いやつ?」
「そうです!
はい、どうぞっ」
「…………。
熱っ……!
あれ……?
意外とおいしいかも!」
「ふふっ……、(可愛いっ)
いっぱい食べてくださいね!
あ、そうだ!
今度『カフェ・豆うさぎ』に行きませんか?
先週ノアと食事に行ったんですけど。
『そば粉ガレット』がとってもおいしかったの」
「へえ?
近くなの?」
「はい! 歩いてすぐです。
デザートもおいしいの!」
「ククッ……!
じゃあ次は……。
ガレットとデザート、だね?」
「はいっ」
ほわほわ……
ノアとコン太はほのぼのする。
嬉しくてたまらない。
「ねえ見て?
凛花の顔……。
幸せそうね……」
「おいらも驚きだよ!
あのイレーズが!
ニッコニコの甘々だよ!」
「うふふっ!
見ているこっちまで幸せな気分になるわね」
「おいらも幸せだよ!
ノアがどれだけおいらのことを……!
うへへっ!
思い出すだけで胸がいっぱいだよ!
嬉しくって泣きそうさ」
「あら?
私……、何か言ったかしら?」
「イヒヒッ!
どうやら所沢は……。
ハッピーッ!
……みたいだねえ?」
スマホに速報ニュースが流れた。
おしどり夫妻と称されていたレンジとサユミ……。
電撃離婚が報じられた。




