第二十六章 ②控室にて・and……
控え室にて。
レンジは襟を正す。
改まって詫びる。
「輝章監督!
この度は……、
あの、何と言ったらいいか……」
輝章は笑う。
「あれ?
なんでしたっけ?
みかんが酸っぱすぎて忘れてしまいました」
羽衣も同調する。
「もうっ! 本当にっ!
酸っぱすぎてビックリしちゃったっ!
だけど凛花さんが言ってたとおり……。
お料理とかお菓子に使うと美味しいかもっ」
「うん、確かに……。
いろいろな料理に合いそうだよね?
和歌山から取り寄せてみようかな……。
自宅で試作してみるよ」
「じゃっ、じゃあ!
そのときには羽衣も誘ってください!
こう見えて。
お料理もお菓子作りも得意なんですっ!
ご迷惑じゃなければ……」
「…………。」
輝章は羽衣を見つめる。
恥じらいながらも勇気を振り絞っている。
その切実さがいじらしい……。
無性に可憐に思えた。
「そう……、だね……。
それじゃあ。
邪払みかん料理を作るとき……。
手伝ってもらおうかな?」
「はいっ!
わあっ、どうしよう!
嬉しいっ」
羽衣は笑顔になる。
飛び跳ねて喜んだ。
レンジの心中は忙しい。
処理しきれないほどの感情が去来する。
しかしなぜだか。
気分は清々しく晴れやかだ。
三人は心を通わせ打ち解けた。
and……。
映画館の上空。
雲を突き抜けた遥か天空に。
巨大不死鳥が空上静止していた。
赤い炎を全身に纏ったフェニックス。
その背には。
スラリとした若い男性が立ち乗りしていた。
その両脇には。
龍蛇神王燦紋。
黄金龍王トール。
表裏龍王の姿があった。
二尊は恭しく首を垂れる。
畏敬してひれ伏した。
「この度は……。
寛容たる『|恩赦《おんしゃ』を賜りまして……!
誠にありがとうございます……」
「未來王の『天赦』に……!
心より敬意を表します……」
未來王は微笑む。
「ハハ……、大げさです。
まあこのあとは?
人間の秘めた潜在能力に淡く期待でもしてみましょうかね?
燦紋、トール。
あれこれ指示を出してしまって申し訳ありませんでした。
ご協力、ありがとうございました」
「とっ!
とんでもございません……!」
「はっ!
恐悦至極に存じますっ」
未來王は呆れて肩をすぼめる。
ため息を漏らす。
「もういい加減……。
敬語はやめてくださいませんか?
古臭いのも。
堅苦しいのも。
あまり好きではありません」
「ああ……、は、はあ……、
しかし…………」
(相変わらず困った御人だ……)
「ははっ……、
はい……」
(御身は丁寧語なのに……)
「さあ、いよいよ次のステージです。
今年の神在月が楽しみですね。
今から心が弾みます」
「はっ!」
「ははっ!」
ふわり、
金風が吹き抜けた。
未來王は新時代を見澄ましていた。
その清冽な眼差し……。
それは出雲に向かっていた。
カミハカリの演算が躍動している。
ついに龍神界にも。
新時代が到来する。
未來王は穏やかに微笑む。
それは貴きアルカイックスマイルだった。
神在月が待ち遠しい…………




