第二十五章 ④審判(処罰・パニッシュメント)
映画館・ステージ上。
ふと。
レンジは目を覚ます。
意識を取り戻した。
「ん、んん……。 あれ……?
在狼くん? どこだ?
あれ? 九頭龍神は……?」
龍使い・凛花。
真珠色龍神ノアの背に乗っている。
レンジの問いに返答する。
「龍神たちは帰りました。
私たちも失礼します」
「いっ、いや?
ま、待ってくれ! まだ帰らないでくれ!
お咎め無しなんて有り得ない。
どうかお願いだ!
処罰をお与えくださいっ!
このままでは罪悪感に押しつぶされてしまう……。
きっとすぐに死にたくなってしまう……」
輝章が叫ぶ。
「凛花さん!
どうか僕にも処罰をください!
僕は陰険な人間です!
ムカつく嫌な奴です!
レンジさんと羽衣さん……。
不純な関係だと決めつけていました。
軽蔑して最悪な対応を取っていました。
勝手な思い込みで、嫌悪していました。
それに……。
契約違反だと分かっていながら……。
龍使いを慕い続けていました……」
羽衣は涙声で同調する。
「羽衣にも処罰をお願いしますっ!
凛花さんがいっぱい傷ついているのに……。
それなのにっ!
レンジさんを赦してって……!
家族みんなで幸せになりたいって……!
羽衣はわがままなの!
嫌な女なのっ!
ごめんなさいっ」
三人の気迫は凄まじかった。
凛花は観念した。
「わかりました。
それでは処罰を差し上げます。
皆さんの足元に……。
『邪払みかん』を置いて帰ります」
「じゃばら?」
「みかん?」
「ジャバラ……、みかん?」
レンジ、輝章、羽衣。
三人は声を揃えた。
「じゃばらみかんは和歌山県北山村の特産物です。
邪気を払う縁起ものの果物です。
酸味と苦みが特徴です。
お菓子にしたり。
ジュースにしたり。
お料理のアクセントとして使うのもおススメです。
爽やかでとても美味しいです。
ですが……。
そのまま食べると強烈に酸っぱいです!
ですから皆さんは。
じゃばらみかんをそのまま食べてください。
それこそが。
私からの『処罰』です」
真珠色龍神ノアがアイコンタクトする。
そろそろお別れの時間だ。
凛花は頷く。
最後にメッセージを伝える。
「輝章さん!
『リレーション・縁』。
必ず拝聴します。
映画館で最低三回は観ます。
ハンカチを何枚も持参して準備万端で向かいます。
是非とも。
これからも素敵な作品を世に送り出してください。
そして多くの方々にチャンスを与えてください。
作品ファンのひとりとして。
そっと応援しています……」
「レンジさん!
勇気を出して『大切な方々』に会いに行ってください。
率直に向き合ってください。
飾らず繕わず本音をぶつけてください。
もしも目の前に『真心』を差し出されたら。
ぎゅうっ!
強く握って心を通わせてください。
あなたの偽物だった『善の心』……。
本物に変わりました。
幸せになってください。
『本物の幸せ』を掴んでください」
「そして羽衣さん!
どうかどうか! 幸せになってください!
愛にあふれた正真正銘の『家族』に出会える瞬間……。
きっともう間もなく訪れます。
羽衣さんの幼い頃からの願い……。
きっと全部、叶えていただけますっ」
羽衣が叫ぶ。
「凛花さんっ!
レンジさんが酷いことしてごめんなさいっ!
本当にごめんなさいっ!
だけどっ……!
赦してくれてありがとうっ……」
「はいっ!
羽衣さん、皆さん!
さようなら…………」
ぶわっ…………!
無数の蒼蝶が渦を巻く。
キラキラキラ……、
輝いて舞い踊る。
そうして。
消えた…………。




