表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/142

第二十四章 ④制裁(中断・インターラプション)

 映画館・ステージ上。


 ピカァァッ! 

 (くら)むような閃光(せんこう)が差し込んだ。

 ガシッ!

 コン太の動きは封じられた。

 

 「コン太! 

 待ちなさいっ」


 「そうですわ。

 お待ちになってっ」


 立ちはだかるは二尊の女龍神……。

 緋色(ひいろ)龍神ミュウズ。

 貝紫色(かいむらさきいろ)龍神ユウイ。

 表裏(ひょうり)龍王の妻だった。


 コン太は瞬時に察する。

 ……ヤバいっ!

 このふたり、怒っている……。


 制裁は一時中断だ。

 ゴリ押しできないと判断する。

 サッ! 

 竜爪(りゅうそう)をひっ込めた。


 「あれれえ? 

 どうしてママンとユウイが居るんだい?

 一体(いったい)どうしたんだい?」


 ミュウズとユウイは呆れ顔をする。

 大げさに嘆息(たんそく)する。

 おどけるコン太を叱りつける。


 「コン太ッ! 

 こんなところで何しているの?

 レンジは『()・契約者』ではないでしょう? 

 (いな)の制裁指令は出ていないはずよ?

 はあぁっ、まったく! 

 頭が固い男って、嫌よねっ」


 「わたくしも同意見です。

 勝手な行動はいけません。

 それに……。

 心がお狭いですわ」


 「ちょっ、ちょっと待ってくれよ!

 ママンもユウイも知っているだろう?

 こいつは龍神界の敵だ。

 空蝉(うつせみ)の烙印を焼き付けられた指名手配者だ。

 だったら!

 万能龍神のおいらが制裁したって問題ないはずだ。

 何で邪魔をするんだい?」


 「それは誤断(ごだん)よ?

 たとえ彼がエラー人間だとしても。

 (さば)きには天上界の承認が不可欠よ?」


 「そうですわ! 

 未來王の承認をいただいたのですか?」


 「うっ、うぐぐぐっ……。

 確かに未來王の承認はまだだけどさ?

 事後報告するつもりでいたさ!

 それにさ?

 ママンもユウイも凛花の味方のはずだろう? 

 レンジを殺したいほど憎いはずだ。

 それにこれは『同値の愛』範囲内のはずだ!」


 コン太は言い負かされる。

 必死に言い訳する。 


 ……ピュンッ! 


 目の前を()()が横切った。

 それは真珠色龍神ノアだった。

 ギロリ、

 眼光鋭く睨みつける。

 コン太は慌てふためく。


 「え? え? 

 ノア……ッ? 

 まさか! 秘密行動していたことを怒っているのかい? 

 もしや! おいらに愛想を尽かしたのかい?

 うっ、うへえぇっ?

 お願いだよっ! 嫌わないでおくれよ!

 後生(ごしょう)だよおっ」

 

 するり、

 ミュウズとユウイは移動した。

 輝章(きしょう)と羽衣の耳元に(ささや)く。


 「あなたたち()・契約者ね? 

 『(ほまれ)』を手中にしてるわね?

 悪いけど。

 この『頭巾(ずきん)』を(かぶ)ってちょうだい。

 今からこの場所に。

 龍使い・凛花が来るわ」


 「瑞光(ずいこう)オーラに再度触れることは危険です。

 是・契約者には『目隠し』が必要となります。

 これは契約者を守るための措置(そち)です。

 (わたくし)たちに(したが)ってくださいませ」


 輝章と羽衣は顔を見合わせる。

 状況を察する。

 貝紫色龍神から白い頭巾(ずきん)を受け取った。

 それは龍神界の秘宝のひとつ。

 帚木(ははきぎ)の織物で作られた遮光頭巾だった。


 ふたりは指示に従う。

 すっぽり、頭から(かぶ)る。

 すると顎下(あごした)まで(おお)い隠された。

 こうして。

 契約者(ふたり)の視界は完全に遮断された。


 一方。

 レンジの視界はそのままだ。

 訳が分からず狼狽(うろた)える。

 しかし考え及ぶゆとりがない。


 ……どういうことだ? 

 夢か(うつつ)(まぼろし)か?

 にわかに信じ(がた)い不可思議な光景だ。

 目の前に。

 数体の龍神が集結している。

 人間の言葉を喋っている……。


 即物的結論に至る。

 どうやら龍神は架空生物ではない。

 この世に存在する。

 それも数多(あまた)に生息しているらしい……。


 ふわり、

 そよ風が吹き抜けた。

 真珠色龍神は空上に静止した。

 ステージ上方から透き通る声が響き渡る。


 「お願いがあります!

 輝章さん、羽衣さん!

 決して、遮光頭巾(ずきん)を外さないでください!

 是・契約者は瑞光オーラを再び目にしてはいけないの!

 それからコン太……。

 レンジさんと距離をとってくれるかな?」


 声の主。

 それは、凛花だった。


 「うっ……、

 うぬぬぬう……」


 コン太は凛花に弱かった。

 懇願(こんがん)されると反抗できない。

 数歩、引き下がった。


 ドキッ!

 輝章の鼓動が高鳴る。

 情愛で胸が締め付けられた。


 羽衣は確信する。

 小さく叫ぶ。


 「う、……わあっ! 

 この声……。

 ほんとに凛花さんだあ……」


 レンジは頭上を見上げる。

 視線の先に真珠色龍神の姿を捉えた。

 その背には若い女性が乗っている。

 

 ……ストン、 


 若い女性が龍神の背から降りた。

 なぜかレンジの正面に立つ。

 視線が重なる。

 女性は小さくお辞儀した。


 「こんにちは。

 凛花(りんか)と申します」


 「……? 

 りんか……、さん……?」


 レンジは怪訝(けげん)顔をする。

 首を傾げて凝視(ぎょうし)する。

 

 ……誰だ? 

 俺の知り合いか? 

 しかし見覚えはない。 

 まったく見当がつかない……。


 「お久しぶりです。

 私はあの日の子供です。

 十五年前。

 みかん山に居た『宇和島の幼女』です」


 「え…………?」


 レンジは瞠目(どうもく)する。

 震撼(しんかん)して震え出す。


 ……いや? 嘘だろう? 

 まさか……?

 ……ア? 嗚呼(ああ)ッ! 

 なんてことだっ! 

 目の前に立つこの女性……!

 『宇和島の幼女』だ! 

 あの日の無垢な天使だ!

 愛くるしい面影、ありありと残っている!

 間違いない……。

 

 ヒュー……、

 体温が急降下する。

 呼吸を忘れて蕩揺(とうよう)する。

 ぐらんぐらん……、

 立っていられない。

 ドサリ……、

 (ひざ)から崩れ落ちた。


 「あ、あ、あ、あ、(あやま)りたい……。

 つ、つ、つ、(つぐな)いたい……。

 い、いや……? 

 あ、あの? あれ……?」


 支離滅裂(しりめつれつ)だ。

 もがもがと口ごもる。

 落ち着こうと胸を叩く。

 必死に呼吸を整える。


 ゆらり、

 立ち上がる。

 (かす)れ声を絞り出す。


 「十五年前のあの日。

 俺は罪を犯した。

 みかん畑で無垢な天使に襲い掛かった。

 欲望を剥き出しにして散々(もてあそ)んだ。

 我に返って血の気が引いた……。

 幼女は血まみれのボロ人形に変わり果てていた。

 すでに息絶えて、死んでいるかのようだった。

 俺は迷わず決断した。

 どちらにせよ。

 この幼女は長くはもたない。

 築き上げた俳優生命を失いたくない。

 だから一目散(いちもくさん)に逃げ出した……」

 

 凛花は小さく頷く。

 静かに耳を傾ける。

 レンジは続ける。


 「数日後。

 依頼した弁護士から『示談成立』の連絡が入った。

 取りあえず幼女は無事だった。

 しかも慰謝料は不要だという。

 不遜な俺は円満解決を喜んだ。

 心の底から安堵した。反省すらしなかった。

 (こと)の重大さを理解できたのはつい最近だ。

 そしてようやく気がついた。

 俺は生きている価値のない男だと……。

 だから夢に出てくる九頭龍神に依頼した。

 俺を殺してくれ……! 切に願った……」

 

 コン太は大げさに頷く。

 会話に割り込む。


 「そうだよねえ? 

 願ったよねえ?」


 「はい。間違いありません。

 過去の俺は……。

 異常心理者ロリータコンプレックスだった。

 (いや)しくて粗暴な鬼畜だった。

 ずる賢くて欲深い下衆(げす)男だった。

 八つ裂きでも生ぬるいでしょう……」


 「イヒヒッ!

 確かにそうだねえ? 

 生ぬるいねえ?」


 「ああ、そうだっ! もしも可能なら!

 被害者である貴女が俺を殺してくれないか? 

 そうしてもらえたら本望(ほんもう)です」


 コン太は呆れ果てる。

 侮蔑(ぶべつ)して言い放つ。


 「ケッ! 

 あんたってさあ?

 どこまでも身勝手なお馬鹿さんだよねえ? 

 常識的に考えてみなよ。

 被害者を人殺しにするつもりかい? 

 心の傷を増やすつもりかい?

 鬼畜男・レンジめ!

 金輪際(こんりんざい)! 

 凛花を傷つけることは許さないっ」


 「あっ、ああ……! 

 確かにそうだ。

 在狼(あるろう)くんの言うとおりだ。

 俺の性根(しょうね)は腐っている。

 狡猾(こうかつ)な性分……。

 骨の(ずい)まで染みついてしまっている。

 情けなくて恥ずかしい……」


 「まさしくそうだねえ?

 自覚できて良かったねえ?

 ということで!

 おいらが制裁してあげるねえ?

 覚悟は定まったかい?

 もういいかい?」


 レンジは承服する。

 深く(うべな)った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ