学園の守護者 ぶおう
私がいる学園は隣国との国境沿いにあった。
高い城壁に囲まれ近隣の村や集落の者たちの避難場所でもある。
隣国とは犬猿の仲であり当然の事ながら、数年から十数年毎に国境紛争が起こり数十年毎に戦争が勃発するのが、数千年前から続く。
その隣国が性懲りも無く我が国に戦争を仕掛けて来た。
学園は十数万の敵に包囲される。
敵には学園を何が何でも落とさねばならない因縁があったからだ。
さて、その因縁の元を起こすとするか。
学園には正規軍の将兵が200人程と学園の授業に組み込まれた軍事訓練を受けている子供たち、それに近隣から逃げ込んできた国民皆兵で一応戦闘に従事出来る国民で満ちてはいるが、いかんせん相手は学園を蹂躙する為に編成された正規軍の精鋭部隊。
学園を包囲した敵は四方八方から学園に突撃して来て、学園内部に入り込もうと城壁に梯子を掛けて敵兵が続々と登って来る。
学園側も押し寄せる敵兵目掛けてバリスタや弓で矢を射掛け、投石機で大きな石を投げつけ、魔術師が魔法を叩きつけた。
だが多勢に無勢で敵兵の数に比べてそれらの防御兵器の数は少なく、正規軍の魔術師はともかく民間の魔術師では威力が乏しく、突撃して城壁に登ろうとする敵兵を援護している敵の弓兵の矢や魔術師たちの魔法に撃ちすくめられる。
液体が満ちたカプセルから身長が2メートル程の筋骨逞しい男を引っ張り出し、完全に覚醒させる為にシャワー室に叩き込んで冷たい水で浸かっていた液体を洗い流させてから温風で乾かす。
「目は覚めたか?」
男は首を上下に数度振りながら頷く。
頷いた男に戦闘服を着せその上から全身を覆う鎧兜を身に着けさせる。
鎧兜を身に着けた男に2メートル近いロングソードと8メートル程の長さの鞭を手渡してから、転送機に押し込んだ。
城壁の上では次々と梯子を登って来た敵兵との白兵戦が始まっている。
転送機のスイッチを入れると男は学園の上空に姿を現した。
眩い光と共に現れた男を見て学園側の者たちは歓声を上げ口々に叫ぶ。
「「「ぶおう様だ!!!」」」
敵兵の者たちも叫ぶ。
「「「ぶおうが現れたぞ、皆、油断するな!!!」」」
学園の上空に転送されたぶおうは城壁に飛び降り、敵兵を右手に持ったロングソードで撫で斬りにしながら左回りに城壁の上を駆ける。
偶に城壁から身を乗り出して左手に持つ鞭を振り、敵兵もろとも梯子を粉砕して城壁に登って来る敵兵を叩き落とす。
また、鞭を振るって自分に向けて放たれる魔法を払い除け、敵兵が放った弓を十数本空中で纏めて敵兵に向けて投げつけた。
城壁の上で敵兵と白兵戦を行っていた学園側の者たちは、ぶおう様の戦いの妨げにならないよう敵兵と距離をおこうとし、逆に敵兵は学園側の者たちと混じり合えばぶおうに殺られる確率が減ると距離をおかせまいとする。
城壁の上を駆けながら敵兵を蹂躙していたぶおうが突然立ち止まり、敵国との国境がある数キロ先を見据えた。
立ち止まり何かを見据えたぶおうは敵兵か所持していた3メートル程の槍を敵兵の手からもぎ取り、鎧兜の上からも分かるほど全身の筋肉を盛り上がらせて槍を投擲する。
槍を投擲したぶおうは槍の向かった先を見ようともせず、敵兵の撫で斬りを再開。
槍が投擲されて数分後、数キロ先から槍が着弾したらしいドスン! という音が響いて来た。
その十数分後、城壁の上で戦う敵味方の者たちの耳に国境の方から打ち鳴らされる太鼓の音が届く。
それは敵が撤退するように指示している音。
敵兵が慌てふためいて撤退を開始。
敵国の国境がある側から攻め寄せていた敵兵はまだ良かったが、反対側の我が国の領土が広がる側で戦っていた敵兵たちは自力で動けない負傷兵を見捨てて遁走した。
学園の其処彼処で「ぶおう様!」「ぶおう様!」「ぶおう様!」と声が上がり、ぶおうの下に学園の生徒が逃げ込んで来ていた国民が正規兵の面々が駆け寄って行く。
ぶおうが手を兜に掛け脱ごうとしたその瞬間、ぶおうを此の部屋に転送する。
何故だ? って顔のぶおうの兜を引っ剥がし、その首筋に即効性の睡眠薬と筋弛緩剤の混合液を注入、直ぐふらつき始めたぶおうを液体で満ちたカプセルに叩き込む。
ぶおうの顔は絶対に皆に見せないようにと私の主人である、学園長であり我が国最高の魔導師に言いつけられている。
因みに我が国最高の魔導師なのにこんな辺鄙なところに何故いるかって言うと、マッドサイエンティストな考えがヤバ過ぎて国の中枢には置いておけないとの考えかららしい。
そう言われる程にぶおうの顔は、アンドロイドの私でさえ直視したく無い程の醜男。
ぶおうって名前も、本人には武王から付けたと言ってはいるが本当は醜男から付けられた名前なのだ。
此の男の悲劇は1000年程昔、美形で知られる森の人の中でも特に長命な種族出身の学園長に、「この顔を何とかしたい」と訴えた事に発する。
学園長は暫し考えてから男に「今の魔術ではどうしようも無い、だから出来るようになるまで時を待ちなさい」と言ってから、身体を改造してカプセルの中にぶち込んだのだ。
ご主人様に以前聞いた事がある。
「何時かはこの男の顔を美形にできるのですか?」
「美形にはしたく無い、美形が許されるのは私のように天然物だけだよ」
「それじゃ何故?」
「数千、数万の時が経てば、美醜逆転でこういう顔がモテるようなるカモ知れないからね」
「そうなる可能性は?」
「サァ。
ただ、私は数千年の時を生きているがそうなった事は一度も無い。
そしてそうなったら、そんな世界からおサバラするだけさ」
だった。
可哀想なぶおうよ何時か、何時か、美醜逆転の世界が来るまで学園の守護者として頑張ってくれ。