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転生敏腕マッサージ師、どん底から返り咲く  作者: 藤井


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41/42

41.好き

 翌朝。


 目を開けるも、眠すぎて瞼が落ちそうになる。

 ウトウトとしていると、ノックの音で目が覚めた。


「ソフィ?」


 この声はニコラさんだ。

 そう気づいた瞬間、はっきりと目が覚めた。


「こ、腰が痛い」


 椅子に座ったまま眠っていたのだから、腰が痛くなって当然だ。トントン叩いて痛みを逃がしながら立ちあがる。


「ソフィ、起きているか?」


 突如、昨日、マッサージ中にオーリー殿下が眠ってしまった記憶が蘇る。

 ベッドを振り返ると、オーリー殿下は、昨夜と変わらずスヤスヤと眠っていた。


 咄嗟に、この状況を見られたら誤解されるのではという考えが頭に浮かぶ。


「は、はい、起きていますよ」


 ドア越しに叫びながら、どうすべきか考える。


「ソフィ、入っていいか?」

「え、いや、だめです、寝起きで、その、まだ、裸同然ですので」

「プッ!」


 後ろから聞こえてきた笑い声に、振り返ればベッドの上でニヤニヤと笑うオーリー殿下と目が合った。

 鼻に人差し指をあてて静かにしてほしいと示せば、笑いながらも頷いてくれる。


「ソフィ、出発前に騎士達が時間を作ってほしいとのことだったから、伝えに来たんだ」

「わかりました。準備できたらすぐにでます」

「ああ、後で」


 扉に耳をつけてニコラさんが下りていく足音を聞いて、ほっと胸を撫でおろす。


「兄上に俺といるのがばれるとまずいのか?」


 枕を抱きしめて、ニヤニヤと笑いながら言ったオーリー殿下に、何と答えるべきか悩む。


「何もなくとも、若い男女が朝まで一緒だったなんてダメでしょう?」

「俺は別に構わないが?」

「オーリー殿下は女好きの噂が流れているからいいでしょうが、私は構います」

「ふーん。ソフィは兄上のことが好きなのか?」


 ここで嫌いと言うのもおかしい気がして、私は頷いた。


「好きですよ。ニコラさんは優しいですから」

「うむ、よくわかっているではないか。人類で一番素晴らしいのは兄上なのだ。どこが素晴らしいかわかるか?」


 急に目力が増したオーリー殿下に圧倒される。


「え、えーと、優しいところですかね」

「他には?」


 前のめりになったオーリー殿下に腰が引けそうになる。


「ほ、他ですか? え、えーと、和やかな雰囲気とか?」

「うむ、確かに。兄上の周囲の空気は澄んでいる気がするな。俺が思うに兄上は」


 オーリー殿下は、重度のブラコンのようで、その後もニコラさんがどれほど素晴らしいか語っていた。最初は真剣に聞いていたけれど、立て板に水のように喋り続けるオーリー殿下の勢いに圧倒され、内容が入ってこない。


 ただ一つわかるのは。


「オ―リー殿下はニコラさんが好きなんですね」

「もちろんだ。しかしなかなか兄上のことが好きだということを人々に言う機会がなかったのだ」


 好きか嫌いか聞かれたら好きだと即答できるほどに私もコラさんに好意を抱いている。それでも、オーリー殿下には負けている気がするけれど。


「なんだかスッキリしたな」


 それはそうでしょうとも。

 好きな人を好きだと言えるのは、思いの外楽しいのだと思う。


「さて、そろそろ出発だ。先に行っているぞ、早く来いよ」

「はーい」


 閉まったと思ったドアをもう一度開けたオーリー殿下は、隙間から顔を出して言った。


「こんなにぐっすり眠れたのは久しぶりだ。マッサージ気に入ったぞ」

「それはよかったです」

「スーちゃんとは趣味も合うし、良い時間が過ごせた」

「趣味ですか?」

「兄上好き同士、今後も親睦を深めよう」


 大まかに分ければ同じものを好きなのだけれど、なんとなく趣旨が違う気がする。

 それでも、オーリー殿下が嬉しそうだからこれでいい気がしてしまう。


「それに、私も楽しかったな」


 オーリー殿下は嘘つきだし、何を考えているかわからないけれど、こうして話してみたら思いの外楽しかった。


 急いで身支度を整えて、外に出れば、外には馬や馬車が並んで、出発の準備が行われていた。


 出口には砦の騎士達が勢ぞろいしている。

 夜勤明けの騎士も、寝ずにみんなで見送りに来てくれたようで、見覚えのある顔が並んでいた。


「スーちゃん、帰らないでほしいっす」


 鼻を真っ赤にして目に涙を溜めている大きな子供のようなドニ。背が高いから、背伸びをしてドニの頭を撫でれば、余計に涙が溢れてきたようだ。


「ドニ、ありがとう」


 隣で、ドニのことを温かい目で見守る父親のような隊長さんにも別れの挨拶をする。


「隊長さんもありがとうございました」

「ああ。またいつでも遊びにくるといい」


 見送りに来てくれた砦の騎士達にお店の宣伝をする。


「みなさん、城下町の路地裏でマッサージ屋をやっていますから、王都まで来た時にはぜひ来てくださいね」

「もちろんだ」

「俺も行くぞ、スー、待っていろよ」

「僕もスーちゃんに会いに行きます」

「元気で暮らせよ」


 次々にそう言ってくれる騎士達は、最後までいい人たちだった。


「それではお世話になりました」


 馬車の窓から大きく手を振る。


 帰り道の馬車ではニコラさんと二人きりだ。


「この砦の騎士達と随分仲良くなったのだな」

「はい、みんな本当にとてもいい人たちでした」


 別れるのが寂しいと思ってしまう程、みんなと一緒にいるのは楽しかった。


「ソフィは誰とでも仲良くなれてすごいな」

「私も最初は仲良くなれませんでしたよ。何と言っても女スパイ疑惑のスーちゃんでしたからね」

「フッ、最後までスーちゃんと呼ばれていたな」

「みんなスーちゃんと呼び慣れてしまって、今更ソフィと呼んでほしいというのもどうかと思って、そのままになりました。みんなとここまで打ち解けられたのは、やっぱりマッサージのおかげだと思います」

「そうか」


 穏やかに笑うニコラさんを見て思い出した。


 この感じ。

 ニコラさんが作り出す、この温かい空気感が私は好きだったのだ。

 ニコラさんは決して口数が多いわけではないのに、一緒にいて気まずくなることはない。一緒にいると時間が緩やかに流れるような気さえしてしまう。


「ソフィのマッサージは心地良いからな」

「お褒めの言葉ありがとうございます」


 二人でこうして話すのも久しぶりだ。

 路地裏にいるときは二人でいるのが当たり前だったけれど、今は違う。

 二人きりなんて早々なれるものではない。


「ソフィに相談があるのだがいいか?」

「相談ですか?」

「こんなことを聞ける相手がいなくて」


 頬を人差し指で掻きながら、言いにくそうなニコラさん。


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