第一話 カップル
時は平成。
あるところに、一組のカップルがいました。
二人はともに大学一年生。サークルで出会い、男の方から告白をし、付き合うことになりました。
このカップルの見た目は、パッとしませんでした。
男の方は目元は整っていましたが、それが台無しになるくらいの肥満体型でした。一方で女は体つきは細身でしたが、顔立ちが平安時代ならモテたであろう風貌をしていました。
男はデートで出歩くことを苦に思っていませんでしたが、女はいつも恥ずかしさを感じていました。自分達みたいな、美しくないカップルが街を歩くなんて、周囲の人の気分を害さないか、馬鹿にされないか、そんなことばかり考えていました。
そこで、女はある日、男に提案をしました。
「私達、互いに努力して美しいカップルになりましょう」
男はそれを聞いて「あ?」と面倒くさそうな声を出しました。それでも、女は負けません。
「あなたの素敵な目元が印象的になるように、痩せてちょうだい。私はこの顔の造作を存分に活かせるメイクやヘアスタイルを研究します。
そうすれば、今よりももっと、お互いのことを愛せると思うのです」
女のことを愛していた男は、素直に女の言い分を聞き入れました。そして、その日から二人は、それぞれに努力を始めました。
◆◇◆
男はダイエットを決意しました。それでもジムに通うというようなストイックな方法は、嫌でした。
なので、極力歩くことにしました。駅でも大学でも移動の時はエレベーターやエスカレーターを使わずに、階段の上り下りをしました。
それに加えて、一食置き換えダイエットを始めました。テレビショッピングで、雑炊の置き換えダイエットを目にしたのです。はなまるコーポレーションという会社の製品であるそれは、カニ雑炊、梅鳥雑炊、中華風雑炊、海鮮雑炊、紅鮭雑炊、鯛味噌雑炊、帆立雑炊といろんな種類が一セットになっていて、飽きがこないと男は思いました。
早速、電話し注文をしたのでした。
女はまず美容雑誌を買い集めました。どんなメイクの方法があるのかを、勉強しました。雑誌の特集に組まれている〝あなたは どのタイプ?〟という自己診断で、自分に合ったメイクの方法を取得していきました。
また、ネットでもメイクについて調べ、自分に似合う色がわかりました。
次に十年来の付き合いのある美容師に、髪型の相談をしました。これまでは無難なセミロングオンリーでしたが、自分の骨格や頭の形に一番似合う髪型は何かを、美容師に問いました。
美容師は女の美意識が、急に高くなったことを喜び、真剣に似合うスタイルを考えてくれました。そして、ふるゆわボブヘアが似合うのではないか、という答えに行き着いたのでした。
◆◇◆
男と女は、それぞれ努力を惜しみませんでした。
そして三年の月日が流れました。
男のお腹周りは、三年前に比べてすっきりしました。デニムのサイズがMになりました。頰や顎下の肉も落ちて、顎と首がわかるようになりました。
三年前とは違い、整った目元にも魅力がでました。
そして、女。女もずいぶんと美しくなりました。真っ黒だった髪を控えめのブラウンにカラーし、ふんわりボブのスタイリングが自然にできるようになりました。
メイクも練習するうちに慣れていき、一通りのメイクをすることで、それなりになりました。
女が言ったように男は、もっと女のことを好きになり、女も男のことを愛おしく思うようになりました。街中をデートしても、もう恥ずかしくありません。
二人はその後も、仲良く幸せに暮らしましたとさ。
めでたし。めでたし。
読んでいただき、ありがとうございます。
さてさて次回のお話は……
つづく。