冬に食べるラーメンは怖いくらい病み付きになる
小人店主はハードボイルドな顔をし、駅前にある屋台の暖簾を閉店から開店に変えた。
1ヶ月煮詰めた極上とんこつスープを小皿に注ぎ、今度は100種類の醤油をブレンドして継ぎ足した秘伝の醤油を注いで混ぜ合わせる。
屋台は勿論、外にも極上のスープの匂いが広がる。
「うきゃ、今日も味も良し、香りも良しだきゅ」
小人店主は小皿のスープを傾け、味見をして確かめると頷いた。
それから、小人店主は素早くラーメンの麺を捏ねて包丁で切ると茹でる。
「おやっさん、小人とんこつラーメン一杯!!勿論替え玉一個追加で!!」
朝帰りの常連ホストが席について注文する。
「あいよ、いつも来てくれてありがとうきゅお」
小人店主はホストに礼を言うと、スープをどんぶりに注ぎ、麺を茹でる時間を視認しつつチャーシューを素早く包丁でスライスした。
「小人とんこつラーメン一丁きゃ」
茹で上がった麺をどんぶりに入れ、味玉とチャーシューを盛り付ければ、ホストの前に差し出す。
「頂きます」
ホストは手を合わせると、一心不乱に食べ始める。
濃厚なスープに麺が絡み付き、噛み締めれば広がるは豚骨の味と、麺の柔らかさがハーモニーを調和させる。
「はふはふ、おやっさん頼む」
「はいよ、替え玉ね」
ホストがどんぶりを差し出すと、小人店主はタイミング良く替え玉を入れた。
再びホストは一心不乱に食べ始める。
小人店主は満足そうに微笑み、駅前通りを見詰めた。
思えば長かったきゅ。
小人王国と日本が国交を結び、交流するようになってから日本でも小人族が行き交うようになったきゃ。
ダンジョンがあり、冒険者が当たり前の小人王国と違って日本は狭い箱庭の常識に囚われた島人きゃ。
最高峰のZランク冒険者を引退し、日本でラーメン屋を始めた時は世間の風当たりが強くて苦労したきゅ。
だが、紆余曲折の後にこうして常連さんを抱えるまでに来たきゅね。
小人店主は頷いた。
「ご馳走さま。おやっさん、この食材何を使ってるんだ?豚骨とかスープ、麺の味が考えても分からなくてな。俺もラーメン屋食べ歩いてるけどわからなくてさ」
ホストは苦笑して問い掛ける。
「豚骨はZランクのカイザーブタミアンきゃ。麺に使ってるのは難易度Zランクの小麦【白美人】を畑に作っているきゃ。他にも醤油は全部Zランクの大豆から作ってるきょ」
小人店主はどや顔で腕を組んだ。
「いやいや、Zランク!?それ、最高ランクだろう!?おやっさん、もしかして元Zランク冒険者か!?」
びっくりしてホストはツッコミを入れる。
「良くわかったきゅな、まあ……昔の話きゃ」
目を細める小人店主は頷いた。
「現在進行形で現役活動していても昔の話とか!?……なーる、だからこんなに旨いのか!?」
納得してホストはスープを見詰める。
「お客さんに旨いラーメンを食べて貰えるように、俺はひたすらラーメンを作るだけだきゅ」
小人店主は笑ってホストに言うと、空を見上げる。
「だから冬に食べるラーメンは怖いくらいに病み付きになるのか」
納得してホストは、どんぶりを傾けるとスープを飲み干すのだった。