黒夜
続きです
身体の上に重さのないなにかを感じる。
実体はない。感触もない。ただ形と輪郭が整っただけの虚像がうえから覆いかぶさりくねくね、もやもやしているのだ。
あぁ、もうすぐ死ぬ
今私の上に覆いかぶさっているのはかつて欧州ヨーロッパの人口4分の1以上もの人々をこの世から抹殺した死神なのだから。
黒いもやがかかった眼のない伽藍と開いた空洞で私を見下ろしている。
私は悔しいのだ。この血の呪縛が。この血を身に宿しているというだけで迫害され、命を狙われる。
本当の敵は私では、人間ではないのに。眼の網膜には数多の憎しみが映っている。
死神は鎌で私の延髄あたりをえぐっている。痛みはない。わかっている。
この死神は体の内側から徐々に壊していく。そうやって何百年間も人を葬った。体が壊されていく感覚に何の痛みを感じない。不思議な感覚だ。
冷たい風が吹きつける。死神を透かし私に鞭打つように吹き付ける。西に沈んだ陽を追うように私もこのまま落ちていく。
死んだ仲間がいて、仏様になって待っていると信じている。銀嶺が私を見下ろすように死の神も見下ろし続けている。
意識が遠のいていく。体は動かない。赤いドロッとした水たまり。いや血だまりができていた。やがて、血のたまりは沢となり流れていく。体に外傷はない。
死ぬ前に少しばかりノスタルジーに浸りたい気分だ。頭のどこかでよしなしごとがプカプカしている。