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それは、生贄の描く儚き夢  作者: 黒猫神無月
一章
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7 神の御下②


『そなたの感情だ。そなたが持つべくして持っているのだろう、好きにすれば良い』


 だとしても、アンジェリカ一人が時戻し以前の世界を知っている。

 アンジェリカの家族の身に何があったかを知っている。


 他に知っているものがいないのに、存在しないその出来事をもってして恨むのは、どこか違う気がする。

 けして割り切れるわけではない。


 でも、泥棒をしていないのに「お前はこれから泥棒をするんだ、そのせいで俺は不幸被ったんだ。だから今すぐお前を捕まえてやる」と言われたとして。

 まだ起こっていないことで、相手を捕まえることはできない。

 それに、言われた方は意味がわからないだろう。


 つまり、どれだけアンジェリカが国王を恨んでいても、まだ起こっていない以上、責めることもできないのだ。


 どれだけアンジェリカが歯噛みしようと、国王が何もしていないから、何もできない。


 アクアローズがアンジェリカの手を両手で包み込む。


『世界に歪みが生まれ、人が進む道が変わってしまったとて、人間性が変わるわけではない。一度目にそなたを苦しめた行為を、意図的に行っているならばなおさら、もとからそのような人物だということ。きっと二度目の今、また違った形で似たようなことをするであろう。そなたは国王がどのようにして公爵家を潰したのか知っている。ならばそれをもってして、国王の兇行に備えれば良い』


 確かに、そうなのかもしれない。

 アンジェリカが一度目で何があったかを知っているということは、これから何が起きるかも大体わかるということ。


 ならば、対策のしようがある。

 アクアローズはそれに、と言葉を続ける。


『そなたの瞳は今、黒くなっておる。ときが来ればまた真紅の宝玉になるだろうが、黒の瞳をもつ人間はおらぬ故、どうせ目立つ。ならばそれを誤魔化す魔法を教えよう。それだけでない。そなたは私の分身。私の使う術はそなたも使うことができる。いざというとき、その力をもってして、大切なものを守れるように。どれだけ力をもっていようと困ることはそうそうないであろう』


 アンジェリカは目を見開いた。

 魔法は遥か昔に失われて久しい。魔法は自然の力を思うがままに操る力である。現在使われている魔術は、魔法を術式に当てはめ、術式を用いて利用するすべである。


 摩訶不思議な力を使っているということは変わらないが、術式を用いるか否かは大きな差である。


 それだけでなく、自身の瞳の色が黒くなっているということについても、アンジェリカは驚いた。

 アンジェリカの瞳は、赤という赤を詰め込んだような見事な真紅。血のようだと評されたこともある。


 それが、黒くなっているらしい。


「か、鏡……」

『ほれ』

「ありがとうございます」


 思わず鏡と呟いたアンジェリカにアクアローズが鏡を出した。アクアローズが出した鏡を覗き込んだアンジェリカは、息が詰まるようだった。


 アンジェリカの、真紅の瞳が。


 真っ黒な、それも深淵のように底の見えない黒に変わっていた。


 アンジェリカは特になにかした覚えはないし、何なら瞳の色が変わるなど初耳である。

 慌てるアンジェリカに、忍び笑いをもらすアクアローズ。


『時戻しをかけるのに、私の力を使いすぎては世界に影響が出てしまうからな。そなたの中にある私の力も使わせてもらったのだ。そのほうが世界に与える影響が少ないからな。そのため、一時的に神により近くなっているといったところだろう。白髪と赤目はアルビノという特徴で、色素が限りなく薄いのだ。神がより馴染みやすい状態だな。神の一つ手前には天使と悪魔が位置するのだが、今回使った時戻しは悪魔寄りの術だから、悪魔の瞳の色である黒に染まったのだろう。逆に天使寄りの術を多用すれば白になるぞ』


 そこまで語ったアクアローズは、一旦話を止め真剣な顔を作った。

 ずいとアンジェリカに近づき、アンジェリカの瞳を覗き込んだ。


『先に言っておくが、悪魔や天使の力をあまり使いすぎるな。そなたが人間を辞めることにつながるぞ。瞳の色ならまだ良い。しかし髪の色まで変わってみろ。天使と悪魔、そして神への道へ問答無用で進むことになる』


 その顔があまりに真剣で、アンジェリカは嘘だとは言えなかった。

 確かに白や黒の瞳を持つ人種はいない。それがそういう理由だったからなのかとアンジェリカは納得した。


 しかし、ふと思った。

 白と黒の瞳の色に変化することが危険なのであれば、髪色は一体何色なのだろう。


 疑問に思ったアンジェリカがアクアローズを見ると、アクアローズは頬を引き攣らせ、顔を顰めていた。


「髪色の変化って一体何色に……?」

『わからん』

「え」

『髪色の変化の色は人によるのだ。今まで、赤だったこともあれば黒だったこともある。何ならグラデーションだったこともあるくらいだ。そのもの自身の性質を表すのだろうから何色になるかは私はわからぬ』


 そう言われると、何も言えない。

 アンジェリカ自身、自身の性質などわからないし、グラデーションだったこともあるということは、何色にでも変化するということだろう。

 それは、白もあり得るのでは……?


 もとが白い髪だから、アンジェリカの性質が白色になるようなものだった場合、変化がわからないのではと思うと、ぞっとした。

 知らないうちに神に近づいていたらと思うと、髪の色がカラフルになることはまだいいと思えた。


『まあ、いつでも来るといい。私はいつだってここにいるからな』

「はい」


 そうしてアンジェリカは、アクアローズの空間から現実世界へと帰るのだった。

 髪の色が変わってしまったらどうしよう。というかどれくらい術を使えば変化するの?と疑問を浮かべながら。


次話は九月九日金曜日に投稿を予定しています

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