13 番外編 妖精さんの悪戯?
森の中で過ごしていたときのお話。番外編です。
ある日の昼下がり。
アンジェリカはクローゼットの中にいつの間にか増えていた白地のワンピースを手に、疑問を持った。
(この洋服ってどこから持ってきてるの……?あと食材)
知らぬうちに増えている食材や、クローゼットに収納されている洋服をじっと見つめる。
『リカ、パイ焼けたー?』
『焼けたー?』
アンジェリカの周りを飛び回る妖精たちは、アンジェリカが先程窯に放り込んだアップルパイが気になるようだ。
「パイが焼けるのはまだ後だよ」
そう返事をするが、先程からの疑問は消えず、ほとんど聞き流している。
このあいだ、洋服の裾がほつれたとき。裁縫箱を持ってきてくれたのは確か──
「妖精さん」
だったはずだ。
『なあにーなあにー?リカ、僕たちに質問ー?』
『しつもーん!』
きゃははと飛び回る妖精さんはアンジェリカの周りをぐるぐると回る。
そろそろ目が回りそうだとアンジェリカが心配していると、窯からアップルパイの焼ける香りがする。
『ねーリカ、焼けたー?』
「焼けたよー」
『わーい』
『パイ焼けたー』
アップルパイを窯から出したアンジェリカは、切り分けながら妖精たちに話しかける。
「あの食材とか、私の洋服って、妖精さんが用意しているの?」
『えー?』
『食材?』
首をひねる妖精たちは、本当に何も知らないようだ。
アンジェリカはこの森で起こる摩訶不思議な出来事は大抵が妖精の仕業だと思っている。
そこまで明確な証拠はないが、確実に動物たちにできることではないものばかりだからだ。
裁縫とか。
だから、この食材や衣服の謎も妖精たちがやっているのだろうと思っていたのだが……。
『クマのヤヌさんが』
『そういえばー』
『いい布が手にはいったってー』
『言ってたー』
『ねー』
「へ?」
妖精たちが口にしたのはクマのヤヌさんがいい布が手にはいった、と言っていたという情報。
いい布が手にはいったとはどういうことだろうか。
迷い込んだ人から剥ぎ取った……?
(そんなことするわけ無いか)
半年以上共に暮らし、森の仲間たちがどのような性格なのかもある程度は把握している。その信用から、アンジェリカはふと浮かんだ物騒な考えを消した。
アンジェリカの使うものはいつの間にか補充されて、だんだんと増えていく。
妖精さんはやっていないらしいが、それなら結局どこから持ってきているのだろう。
(わからないから、また今度聞いてみよ)
妖精さんはアップルパイを両手で持って頬張っている。
その様子がとても可愛らしくて、アンジェリカは思わず微笑むのだった。
*
ちなみに。
アンジェリカの日用品の謎は近いうちに解けた。
実はこの森の近くにある村からの捧げ物で、衣服はなんと、アクアローズが作っていたらしい。
それをアクアローズの庭で聞いたアンジェリカは思わず、服くらい自分で作るのに!といい、アクアローズに「楽しみを奪わないで!」と訴えられた。
結局、これからもアンジェリカの着る服はアクアローズが作るし、食材は近隣の村からの捧げ物を使うということになった。
(私が街まで買いに行ってもいいのに)
アンジェリカはそう思うが、アンジェリカが森から出ないようにしているのは実は森の仲間とアクアローズだったりする。
『安全のために、アンジェリカが否定しない限りはこのままでよい!』
どこへともなくアクアローズはぷりぷりと怒った。
その後、アンジェリカが森の仲間とアクアローズの「アンジェリカ森の中安全生活作戦」を知るのは割とすぐだった。
*
「あれ、この紙ってどうやって手に入れてるの?村からの捧げ物にはなかったよね?」
アンジェリカがつぶやいた言葉に、うさぎのアリーはそっと目を逸らした。
アリーは知っている。
村からの捧げ物には食材と言っても、肉、野菜、果物しかないことを。
アリーは知っている。
実は布はクマのヤヌさんが織っている。そしてアクアローズが洋服にしていることを。
装飾品は実はリスのみんなが作っていることを。
靴は雪鳥たちが作っていることを。
魚は実は、クマの皆さんの狩の結果だということを。
そして……今、アンジェリカが手にし、首を傾げている要因であるその紙は、実は、自分たちうさぎが落ちた枝から作っていることを。
知っていたアリーは口には出さず、そっと目を逸らした。
(知らないほうが、いい気がします。こちらからしても全部村からの捧げ物ということにしたほうが都合がいいですし?)
アリーは今日も、アンジェリカを見守っている。
この番外編をもって、「それは、生贄の描く儚き夢」の第一章は完結となります。
第二章開始は11月中旬から下旬になります。詳しい日付はTwitterにてお知らせします。
https://twitter.com/kuroneko_kiral