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それは、生贄の描く儚き夢  作者: 黒猫神無月
一章
1/25

1 始まりの悪夢①

のんびり投稿です。最後まで続けられるよう頑張ります。


 アンジェリカ・アクエスト公爵令嬢。


 ロクサス王国四大公爵家の一つであるアクエスト公爵家の令嬢。


 彼女は齢六歳の頃に孤児院から公爵家へ連れてこられた、見せかけだけの令嬢。現公爵とは血の繋がりもなく、さらに言えばアンジェリカの両親は詳細不明。


 気づいたときには森の中にいて、木の実を取りに来ていた孤児院の院長に発見され、孤児院にて保護された。

 それ以前の記憶はなく、なぜ森にいたのか、どこから来たのかもわからない。


 ただ、この国には存在しない髪の色と特殊な瞳が、彼女の両親の出身地を示している。


 アンジェリカの真っ白な、雪のような髪の色は、ロクサス王国より遠く東にあるタナストリア帝国の人々に見られる特徴。

 濃い色の髪が多いこの国ではとても目立つ髪の色。


 ならばアンジェリカの両親がすぐに見つかるかと思えばそうではなかった。


 ここ百年近く、ロクサス王国にはタナストリア帝国の人間が入国したという記録はなく、さらに言えば、白い髪の色の人間を見たという人もいなかった。


 孤児院からの要請で王国入国管理局に問い合わせ、更には情報屋で探した領主も首をひねった。


 更に彼女の両親を探すための手助けになったのは、アンジェリカの持つ特殊な瞳。


 透けるような真紅に、金粉を散らしたような、輝く瞳。

 もちろん、この国にはそんな瞳を持つ人種はない。


 ならば、他国かといえばそうでもない。

 ロクサス王国と友好を結んでおり、入国を受け入れている国にも極秘にだが問い合わせた。

 その上、友好を結んでいる各国と友好を結んでいる国にも問い合わせた。


 しかし、どこにも真紅に金粉を散らしたような瞳を持つ人種はおらず、領主はわけもわからないと首を傾げた。


 その領主が、現アクエスト公爵家当主、アルバート・アクエストであり、アンジェリカを引き取った人物。


 公爵は他国の血を引くであろうアンジェリカが両親がわからず、さらに言えば周辺諸国のどこにも見られない特徴を持つアンジェリカが、その珍しさ故に人買いに攫われ、売り物にされることを危ぶみ、養子として引き取ったのだ。


 公爵は領地民からとても慕われており、民を大切にする人格者だった。

 一族みんながそうであるため、今までにも公爵家に孤児が引き取られたことはあったため、反対はなかったし、妬みもなかった。


 公爵はアンジェリカに、自身の子と同等の教育を施し、大切に育てた。


 アンジェリカはそれに対し、恩を返そうと必死で知識を吸収し、領地を栄えさせる案を出して、経済を回した。


 アンジェリカが作り出したものは特許を取り、公爵家が全面バックアップをして領地内に普及させている。

 公爵家の中にアンジェリカのための研究室を作り、アンジェリカがいつでもアイディアを現実にできるようにした。


 引き取られたアンジェリカの義姉である、公爵の実子、ソフィアナ・アクエストもアンジェリカを支えた。

 実験に夢中になり、寝食も忘れるアンジェリカをベットに放り込み、口にご飯を運んでいたのは、本来ドレスで着飾り、美しく装っているはずのソフィアナだ。


 ソフィアナは、幼い頃より父である公爵に民に寄り添うことを第一に考えろと言い含められてきた。

 故に、領地で過ごすときは、シャツにパンツという令嬢であればありえない、ラフな格好をしている。


 ソフィアナとアンジェリカの歳の差はわずか一年。

 七つのときに突然できた血の繋がらない妹のことを、当初は驚いたものの、笑顔で家族として迎え入れた。


 ソフィアナとアンジェリカは、義姉妹とは思えないほどに仲がよく、二人だけの秘密をいくつも持っていた。

 ときには仲間はずれにされた公爵が嫉妬するくらいに。


 公爵夫人のセレスティーヌは、そんな夫と娘たちを優しげに見守っていた。


 引き取られた先で虐げられることもなく、幸せな日々を送っていた、アンジェリカの日常は、姉のソフィアナに婚約者ができたことで終わりへのカウントダウンを始めた。


 その婚約は、このところ成長著しい公爵家の力を取り込もうとした王家の策略だった。

 ソフィアナに婚約者として第二王子を宛てがい、ソフィアナを篭絡し情報を手に入れようとした。第二王子はそれだけ、顔立ちが整っていたのだ。


 ソフィアナは、そんな第二王子に惹かれなかった。


 第二王子は、民を見下し、すべての人間は自身にひざまずくのが当たり前だと、そう考えているような人間だった。


 そんな第二王子と、民を大切にし、自身と平等に接するソフィアナの気が合うはずもなく、ソフィアナと第二王子は疎遠になった。


 ソフィアナは、今まで通りに民と親しみ、アンジェリカの面倒を見て過ごした。

 王子妃教育など、公爵家を継ぐ自身には不要だといい、跡継ぎとしての教養を身につけることを優先した。


 第二王子は、ソフィアナが自身に首ったけになると思っていたがゆえに認められず、フラフラと数多の女性を渡り歩いた。

 その折、様々な事故が起こったが、すべての処理をソフィアナに放り投げ、自身は遊び歩いた。


 もちろん、公爵家の情報など、一切第二王子には渡されていない。


 それに業を煮やした国王が、強硬手段に出た。


 他で見ることがないアンジェリカの瞳を、神に選ばれた生贄の証といい、生贄に捧げるようにと公爵家に命令を出したのだ。


 もちろん、公爵も、夫人も、ソフィアナも抵抗した。

 大切な娘であり、妹であるアンジェリカを生贄になどしたくはなかったのだ。


 そんな公爵家に国王は、アンジェリカを生贄にされたくなければ、財産すべてを差し出せと言った。

 受け入れようとした公爵たちに反対したのは、アンジェリカだった。


 血の繋がらない娘である自身のために、財産すべてをなげうつなどしてほしくなかったのだ。

 自身を、犠牲にすれば、公爵家は今まで通りに過ごせる。自身が作り出したものが招いたことなのだから、自分で責任を取る。


 そう言い出したアンジェリカに、公爵たちは、生活のために娘を犠牲にするくらいならそんな生活はいらないといった。


 アンジェリカは何があろうと私達の娘であり家族だ。


 そういったのは、普段は何も言わずに見守っていた公爵夫人だ。


 そして、公爵一家はアンジェリカを生贄にさせないために、爵位の返上と財産すべてを王家に差し出した。


 それを受けて、国王は悦んだ。


 成長著しい公爵家を自身のものにしたことに、国王は何よりも優越感を感じたのだ。


 しかし、そんな国王の機嫌は一気に降下した。


 領地を発展させていた人物は、自身が手に入れたものの中になかったゆえにだ。更に、人がすべていなくなっていたのだ。


 公爵家は民を大切にしている。故に、民をものとも思わない王家に渡す前に民に移民をさせていた。


 国王が手に入れたものは、人がいなくなり、経済が回ることのない空っぽの土地だった。

次回は八月五日金曜日投稿予定

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