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しに池

作者: 楠木 茉白

これは私が小5の夏休みの時の話しです。


私の家は毎年夏の頃になると、祖父母宅に遊びに行っていました。


祖父母の家は山の麓の農村にあり、人口は数百人程度の小さな集落でした。


ですが、夏の時期になるとキャンプや川遊び目当ての観光客で賑わったりもし、私たち家族も叔父の経営するキャンプ場で川遊びやキャンプを楽しんでいました。


キャンプ場にはこの時期限定のバイトのお兄さんやお姉さん達が子供達に川遊びや山遊び何かのレクチャーをする教室をしてくれていて、私もその教室に参加し、凄く楽しい時を過ごしました。


夜には蛍の観察教室も開催されて、本当に楽しかった。


そんな時に私は参加した子供達とかくれんぼをしていた時に、キャンプ場の外れに体育館くらいの大きさのため池があることに気付きました。


そこには他の場所より一際蛍が多く飛んでいて、とても綺麗でいて幻想的で、私はその綺麗な光景に目を奪われ、ずっと眺めていました。


すると後ろからバイトのお兄さんの大きな声が聞こえてきて。


「ちょっと!君その池には近づかないでね!」


池の畔で蛍を眺めていた私にお兄さんは昼間に見せていた優しい顔とは違い、厳しい形相で近づいてきたのです。


「あっ、ごめんなさい……蛍が綺麗でつい」


私がそう言うと、お兄さんはさっきまでの厳しい形相から優しい顔へと戻りました。


「分かってくれたらいいんだ、ここはね、しに池と言ってね昔からとっても怖い言い伝えがあるんだ、そうだ、後で皆にもこの、しに池に伝わる話をしてあげよう、さあ!かくれんぼは終了だ」


そう言うと、お兄さんは子供を集めて、しに池についてのこんな言い伝えを話し始めたんです。


「このキャンプ場の外れに池があるんだけどね、そこでは良く人がいなくなったり、運悪く亡くなってしまったりする事が頻繁に起きててね、この村の人は誰も近づかないんだ……なんでも大昔、江戸時代くらいに、あそこにはね、小さな診療所があったらしいんだよ、村の人は病気や怪我をすると皆連日診療所の先生の元にやってきて、診療をしてもらうんだけどね、先生は治療費を決して貰わないんだ…村の人達は凄く喜んで、その先生の事を尊敬してたんだけどね、流石に治療費を貰わないから村の人達は悪く思って農産物とかを差し入れに行っても、受け取らないんだ…でもとても親切な先生だから皆特に不思議に思わなかったんだ、でもね、ある日、村から人が度々神隠しの様に忽然と居なくなってしまう事が起きてね、昔だから山賊にやられただの熊に襲われただの、無くはない事だったけど怯えていたんだ……でもある日、1人の若者がねこう言ったんだ、居なくなった人達はいつも先生に観てもらいに行ってから居なくなってる、だから俺少し調べに行ってくる、とね、でも村の人達はとても親切な先生だったからそんな話を気にもしなかった……でもその若者が先生の元に行ったっきり戻って来なかっただ……流石に村の人も不思議に思って、先生の所に行ってみるんだけど先生は、若者は来てないって言って、いつも通り親切にしてくれるんだけど、流石に村の人もおかしいと思って夜中にこっそりと数人で様子を見に行ってみたんだ……するとね、診療所からぎぃこ…ぎぃこ…って何かを削る音が聞こえて来たんだ……村の人は何か薬でも作ってるのかと思ったんだけど…気になって覗いて見たんだ……すると中では先生が若者をバラバラに解体していたんだ、村の人達はその先生の姿を見て、物の怪だ、鬼だと驚き戸惑って、村の人達は先生に話も聞かずに直ぐに斬り殺して、診療所に火を放ったんだ…その後、先生の焼けた死体をあのしに池に村の人が葬ったんだけど村の人が池の中を見てみるとね多くの人骨が見つかったんだって……親切だった先生は本当は居なくなった人を殺してたんだ…先生は鬼だったんだと村の人達はそう言うようになって、先生を殺した事で村に平和が戻った!と村中の人は喜んだんだけど……神隠しが無くなる事はなかったんだ……村では先生があのしに池に引きずり込んでいるって言って、それからは皆近づかなくなったんだ」


その話を聞いていた子供達は皆怖がっていたけど、親達は笑顔で聞いていたのは、今思えば、あの話は子供達が池に近づいて事故を起こさない為の作り話だったのかもしれません。


「こわーい、でもその先生が鬼になって、今まだ人を探しているのかな?」


お姉さんは怖がっているような素振りをしながらもお兄さんに聞いた時、突然、お兄さんの顔が強ばるのを見て、私はなんとも言えない恐怖心を感じました。


「どうかな……本当にその先生は鬼だったのかな…確かに先生は若者をバラバラに解体していたかもしれないけど、先生が本当に殺したのかな……先生は医療を志す人だ、もし死体をたまたま見つけたとしたら、調べてみたくなるんじゃないかな、人体を」

「そ、そうなのかな?そう言えば医大生だもんね、そういう気持ちが分かったりするのかな?」


お姉さんの何気ない質問にお兄さんの目は瞳孔が開いたような怖い顔を一瞬したような気がしたけど、直ぐに元の優しい顔に戻っていました。


「いや、僕には分からないよ、やっぱり亡骸はちゃんと家族の元に返してちゃんと埋葬してあげなければいけないよ、でも……もし鬼がいるとすれば、事情も聞かずにこれまで恩に感じていた先生を簡単に殺した村の人かもしれないね……本当の鬼って人の顔をしてるかもね……」

「ちょっと……怖いよ」

「なんてね、さあ、皆!夜も遅くなるし、それぞれのテントに戻ろう」

「はーい」


他の子供達は特に気にする事もなく自分達のテントに帰って行ったけど、私はお兄さんの何とも言えない狂気的な雰囲気に恐怖を感じ、何時しかぶりに両親にくっついて眠りについていました。


そんな恐怖心もあってか私は真夜中に怖い夢を見て目を覚ましてしまいました。


普段であれば寝る前にはトイレをして朝を迎えるという習慣でしたが、急いで両親と寝床に入ってしまいトイレに行きそびれてしまったのです。


トイレはテントを出て100メートル程行った所にあり、それほど遠くありませんでしたが、私は恐怖でテントから出ることが出来ずにいました。


両親は共にアルコールが入ると何をしても絶対に起きない人達で、私はこの場でしてしまう事も考えましたが、尿意が強まる度にここでは出来ないと悟り、仕方なくテントの外へ恐る恐る出てみると、まだ晩酌などでちらほらと大人たちが起きている光景が見え、私は大人たちが起きているという安心感にさっきまでの恐怖心は一気に消え去り、怯えていた事がバカバカしくなり、意気揚々とトイレまで行く事が出来ました。


安心して用を済ますことができ、更に気が大きくなった私は、空を見上げると満天の星空に感動し、私の心からは恐怖心が完全に消え去りました。


私はせっかく夜に起きてしまったのだからと、大人の見える範囲で夜道を散歩してみようと思い、綺麗な星空を見上げながら歩いてみました。


都会では見る事の出来ない、光の少ない田舎だからこそ見る事のできる星空に私はしばらく見蕩れていると、少し離れた場所から、楽しげに談笑する、お兄さんとお姉さんが2人、蛍の見える場所へと向かって行く姿が見えました。


私は蛍の綺麗な光景が見たいということ、男女の恋愛に興味が出る歳頃でもあり、2人に気付かれない距離をとり、ついて行ってみたのです。


2人が仲良く談笑しながら歩く姿は、まるで恋人同士のように見え、私は夜更かしをしているわくわくと、2人の恋愛模様を見ているドキドキで怖い話の事は頭の片隅にもありませんでした。


2人は少し蛍を見ると、キャンプ場の外れの、あのしに池まで向かって行くことがわかりました。


私は池の畔で見た沢山の蛍の光景を思い出し、また見たいという思いと2人の事が気になり、何の迷いもなく、2人の後を追いしに池まで来てしまったが、2人バレないように茂みに隠れながら蛍と2人を眺めていたのですが。


突然、蛍の群れが一気に空へと飛び上がっていき、その光景はとても美しく、私は飛び上がった蛍をしばらく見ていると、池の方から、「バチャバチャ、バチャバチャ」と何かが池で跳ねる音がしたので、私は直ぐにその方向に目をやると、2人の姿は蛍が飛び立ってしまった為に確認が出来ないが、2人がいた方向で「バチャバチャ」という音がしていました。


私は恐る恐る、2人に気付かれないように近づき目を凝らし、見てみると、私はその光景に恐怖し、腰を抜かしてしまいました。


池ではお兄さんがお姉さんの頭を押さえつけ、溺れさせていたのです。


私はあまりの恐怖に助けを呼ぶ事も声を出す事も出来なくなってしまいました。


頭を押さえつけられたお姉さんは苦しみ悶えていましたが、お兄さんは手を外すことをせず、更に両手で押さえつけ始めました。


私は震え、恐怖で自然と声が漏れそうになるのを両手で押さえ止めることしか出来ませんでした。


お姉さんは必死に抵抗し、お兄さんの隙をついて池から逃れ、逃げようとしましたが直ぐに捕まってしまい、押さえつけられ、お兄さんにベルトで首を絞められてしまいました。


私は何とか音を出さないように、気付かれないように抜けた腰を何とかして林に隠れようとするが動かない全く動けずにいました。


そうこうしていると、お姉さんは抵抗する力は無くなり、目は充血し、恐怖と絶望で綺麗だったお姉さんの顔は別人の様に歪んでいき、そんなお姉さんの死に際に私は目が合った気がしました。


最後にお姉さんは聞こえはしませんでしたが、私に、「たすけて」と叫んでいるようでした。


私は恐怖でその場で固まっていた時にお兄さんの顔を見て更に恐怖心が増し、ついさっきトイレを済ましたはずなのに失禁してしまいました。


お兄さんの顔はまるで別人の様な顔で、まさにその顔は鬼そのものでこの世のものではありませんでした。


私は何とか立ち上がり、おぼつかない足でテントまで走った。

何かに追われているような錯覚を感じながら、振り向く事なく、全力で走り続けた、肺が痛くなっても、足が木々で傷つこうが関係なく、走り続けました。


何とかテントまで着いた私は両親に抱きつき、布団を頭まで被り、恐怖に震えました。


何も見てない、何も見てない、何も見てないと祈るように震え続けました。


翌朝、私は昨夜の出来事をあまりの恐怖で両親に話すことが出来ず、直ぐに帰るように両親を説得し、承諾させました。


私は昨夜の出来事をなかった事にしたかったからで、話す事で私自身にも危害が及ぶんじゃないかという恐怖と直ぐにでも忘れたい、関わり合いたくないという思いで殺人を犯したお兄さんから逃げたのです。


それから私はあの時の事を思い出さない様にあの村に行くことを拒否し、祖父母も亡くなった事とあり、私は二度とあの村に行くことはなく、いつしかあの出来事の事も忘れさり、今の今まで思い出すことはありませんでした。


どうしてこんな事を今になって文書として、あなたに話すかと言うと、今回の部署異動で私はあの村に行く事になったからです。


私はあの時に逃げてしまった事を後悔しています。

殺人を犯したお兄さんは捕まる事はなく、お姉さんは謎の行方不明という事になってしまっていたからです。


私があの時に勇気を出して、両親に話していたら、もっといえば直ぐにでも助けを呼び、お姉さんを助けだせたのかもしれない。


今更何を言っても遅いけど、今の今まで忘れていてこんな事を言うのも憚るるけど、私はお姉さんを助けてあげたい、恐らくお姉さんはあのしに池に1人寂しく、冷たい池の中で苦しみ続けていると思う。


だから、私はお姉さんの無念を少しでも晴らせれる様に出来たらお兄さんに罪を償わせれたらいいと本気で思ってる。


そうすれば、また、あなたとちゃんと向き合えると思うから、だから、私は行きます。


こんな事、今更言ってごめんね。


令和2年3月10日

中岡 香澄 より










彼女はこんな手紙を僕に残し、3ヶ月後、失踪した。


僕は直ぐにでも彼女の元に行き、無謀な事を止めさせるべき……いや、一緒に戦ってあげればよかった。


僕に彼女と歩む勇気がなかったから……でももう迷いはない、僕は彼女を探しに行きます。


彼女の言う、しに池に何があるか分からないが、これ以上後悔はしたくない。


だから、明日、僕は彼女のいる村に行きます。


これから何が起こるか分からないけど……


僕は……彼女の元へ行きます。


もし僕に何かあったら……















僕は、しに池にいます。














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