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星を掬う王子  作者: ジャンマフ
第1章 第六子の帰還
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2. 理由


「それで?空間を叩き割ってまで入ってきて、俺に何の用 。」


彼は玉座の上で優雅に足を組み、全てを見透かすような目で男を睨め付ける。

男は顔を上げ、また喉を上下させてから、深呼吸をした。


「紹介でこちらへ参りました。もちろん紹介状も持たされております。」


男はガサゴソと服の内ポケットを震える手でまさぐりながら言う。


「誰からの紹介だ。」

「ハティクヴァの…ネヴィーム樣からでございます。」


男はうやうやしく頭を下げながら、一通の封筒を彼に渡した。

彼は胡散臭そうに男を一瞥してから封筒に目を移す。確かに封筒に押してあるのはネヴィームの封蝋だ。

男はじっと頭を下げたまま動かない。その場で読んでほしいのだろう。

彼はため息をつき、仕方がなさそうに封筒を開けた。

        

          親愛なるお兄様へ。

この手紙を渡した男は、私が側近として新しく迎え入れたばかりの者で、名はまだ名づけておりません。本来ならば私もお兄様の元へお尋ねするべきではありますが、今回は不都合によりこの者だけを行かせることになりました。どうか、この者に貴方様のご加護をお与えください。

            ネヴィーム



「なるほどな。」


彼はゆっくりと手紙から目を離し、男を見据えた。

男はようやく頭を上げ、申し訳なさそうに、おずおずと口を開いた。


「我が主人は私がこちらを訪ねる際、貴方樣のことを何一つ教えてくださりませんでした。」


だろうな、と彼は軽く鼻を鳴らした。


「先ほどはご無礼を働き、誠に―」

「もういい。」


また謝ろうと頭をさげる男を遮り、彼はうんざりとした顔で手をひらりと振った。

あの女はいつもこうだ。肝心なことを言わないので、周りの者は翻弄される。

今回だってそうだ。彼は妹の顔をうっすらと思い浮かべた。


「この手紙の内容は知っているのか?」


彼の問いに男は頷く。先ほどの居心地の悪そうな表情とは打って変わり、男は頬を紅潮させ、涙ぐんでまでいる。忙しい男だ。


「ハティクヴァの方からご加護をお受けできるとは聞いておりましたが、まさか貴方様だったなんて、私はなんて幸せ者なのでしょう。」


男は跪いてさめざめと泣き始めた。男の涙がぽたぽたと水面に落ちてゆく。

男の下で、魚の影が素早く通りすぎる。


俺は別に偉大ではないのだよ。俺の使命も、他のハティクヴァと違ってあやふやなのだから。

彼は目の前の騒がしい男を、頬杖をついて眺めながら、心の中で呟いた。


「やりたいか、やりたくないかは置いといて、ネヴィームの側近に加護を与えるのは元々俺の役目だ。しかし、お前には名が無い。これでは何も与えられない。加護を与える以前の問題だ。」


彼は手紙の面を指で弾きながら男に言う。

あぁ、その事ですが、と男は涙を拭って顔を上げた。


「ネヴィーム樣からは貴方樣から名をいただくようにと申し付けられました。」


そう言った男の顔は涙で汚れているが、幸せで満ち溢れている。

そんな面倒な事は一切手紙に書かれていなかった。

今までだって、あれの側近に名前なんか付けたことがない。しかし、男の表情から嘘や思い違いとは思えない。


「その理由は言っていたか?」

「いえ、特には。ただ名前も貰うようにとだけ。」


あぁ、本当にあの女は肝心な事を言わない。彼は心の中で大きくため息をついた。


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