「駅」中
二話目です。
予想通り、スマホは圏外だった。無人駅で、公衆電話は勿論ないし、全く電車が通らない。
そう、停まらないだけじゃなく、通過もしない。記憶を辿ると日本では基本的に、一日で片道運行だけというダイヤはないのだとか。朝、通勤通学の為に乗り、夕方から夜に帰宅の為に乗るから。
ということは、俺は夕方まで此処にいなきゃ仕方がないってことか?
プラットホームから降りる方法は、色々と試したんだ、本当に。ホームの下を覗き込み、緊急用の電話や梯子も探した。一生の内で、こんなに必死になったことはない。
最後には少しだけ線路にまで降りてみた。でも、無理だった。高所恐怖症気味の俺には、風の強い渓谷に架かった鉄橋を渡るなんて、死ぬより怖い。飢え死にしかけたら、やるかもしれないけど。
ありがたいことに、ホームには屋根とベンチ、照明まである。鞄に残っているのは、ペットボトルの水が一本と携帯食が二個。もしも面接が昼を過ぎて、昼食に出られなかった場合に、と多目に持っていて助かった。
それでも、あと半日。ここでただ、待っているしかないってことか。
俺はとうとう、靴を脱いでベンチに横たわってしまった。どうせ誰もいないし、誰も来ないんだ。こんな風に、本当に一人きりなのは、いつ以来だろう。
ずっと昔、幼い頃に田舎に預けられた時。祖父母が知人の葬儀の手伝いに駆り出され、一日だけ留守番をすることになった。あの時くらいだろうか。いや、あの時は有線で電話も通じてたし、俺があの家にいると、家族が知ってた。
今はどうだ? こんな所に人がいるなんて、誰も思わないだろう。俺が電車から降りるのを、誰か見ていただろうか……いや、車両に人影はなかった、気がする。車掌の姿を見た覚えもない。
……やっぱりおかしい。工事中の駅で、乗り込むためだけだったり、間違いで開いた扉から降りてしまった、とか理由を付けようとしてるけど、どう考えても。こんな駅がある訳がない。
陸橋の途中に作られたプラットホーム、しかもそこそこの年数が経っている。実在するなら、鉄道マニアが放っておかないだろう。いくら外出を自粛していても、夏休みのカメラ小僧の一人くらいは、いる筈だ。
一輪挿しに生けられた花が揺れるのに、何故か寒気がした。
次話で終わります。
本日二十二時投稿予定です。