「駅」上
夏の一時をご一緒に……
って、三話とはいえ短いので、すぐに終わります。
「うーん」俺は、美しい風景を眺めながら悩んでいた。いったい、ここは何処なんだろう?
このご時世、就職先など見つかる訳がない。そう諦めながらも、毎日求人サイトを眺めては、一応、と呟きながらキャリアシートを送る毎日。お断りメールがある方が珍しい。なしのつぶてが殆どだ。
そんな中で、忘れた頃に届いた一通のショートメール。
『宜しければお越しください』と書かれた最寄り駅までは、電車で三時間。聞いたこともない社名だし、前日に前乗りするほどでもないだろう。
「行ってみるか」と重い腰を上げ、伺います、と返信した。日時は八月の終わりだ。
案外、電車の連絡は悪くない。乗り換えは三回、早い時間に出るから、長く乗る路線では座れるだろうし。
買っただけのリクルートスーツは少し大きめだったが、コロナ太りでちょうど良くなった。店員の勧めを断ってこれにして良かった。
万が一、事故かなんかで足止めを食うと嫌だから、飲み物と携帯食も買っておこう。
で、久しぶりの早起きに緊張したのか。昨夜は眠れず、目当ての電車に座ってほっとしたら、寝過ごした。
振動でふと目覚め、腕時計を確認したら。とっくに着いている筈の時間だった。咄嗟に開いた扉から飛び降りる。
反対車線の時刻表を探そうとして、固まる。いったい何処だ、ここは?
ぴーちちち、と鳥が鳴く。美しい渓谷に掛かった橋の上にプラットホームが置かれている。靄の掛かった朝の山々が瑞々しい。
駅名すら書かれていない。それに……どうやってここから下りるんだ? はるか下に、道路らしいものは見えるけど、エレベーターどころか、階段もないんだけど。
次回、本日二十時に……