第08話:消えた完済人 後篇
借金を完済した後に命を落とす"消えた完済人"。
この謎を追う闇金融会社の松永と竹原。
彼らが打つ次の一手とは。
松永は”消えた完済人”になりそうな債務者を探した。目をつけたのが杉山満だった。
松永が満に目をつけたのは2ヶ月前の話だ。竹原との会食で話が出た。
「竹原さん。この杉山って奴、そのうち”消えた完済者”になりそうなんです。こいつを使って今度こそ謎を解明したいんです。協力してもらえませんか。」
この時点で満は1500万の債務をかかえていた。竹原も捜査には躍起になっている。
「いいだろう。だが松永、少しずつでも定期的に返済させるようにしろ。監視も怠るな。1回は見失ってもいい。それでパターン化するからな。どこで見失ったかを路地単位で正確に確認するんだ。」
「わかりました。」
案の定、満は追い込まれた末に姿を消した。街中にある袋小路で、まず逃げられないところだ。松永も竹原もその現場に立ち会った。壁の向こうから見られているような視線を感じたが、壁の向こうは民家だし、誰もいない。行き止まりはただの塀だ。
これで、満が”消えた完済者”の対象となりそうなことは明白になった。松永は、満が消える前から部下を杉山家に張らせていた。満が姿を消した後、松永は、満を捕獲するために、満の妻・舞子に協力を求めた。
「奥さん。あんたと取引がしたい。」
「いまさらなんです?」舞子は今でも借金や松永におびえている。
「率直に言おう。ダンナをおびき出してほしい。ダンナは3日前、袋小路に追い詰めたところで突然消えちまった。周辺のどこを探しても見つからない。今度こそ逃がすわけにはいかないんだ。もしおびき出して捕まえられたら、この家の借金は全額ダンナに支払わせる。どんなことをしてもだ。連帯保証人のあんたに残金は要求しない。もちろん、仲間は全員引き取らせる。その代わり、ダンナをどうしようとあんたに文句を言う権利はない。どうだ?」
「……もし、捕まらなかったら?」
「当然、あんたに支払ってもらう。あんたは連帯保証人なんだからな。どんなことをしてもだ。どんな人間でも、いろいろと使い道はある。ああ、どちらに転んでも娘さんたちには手を出すつもりはない。あんたが逃げない限りはな。」
舞子は少し迷ったようだ。夫を切り捨てることになるのだから当然だ。それでも、10分ほどで了承してもらえた。覚悟は決めていたようだ。俺は舞子の携帯電話を預かった。杉山と舞子の携帯電話にはGPS機能がついているので、それで位置を確認するためだ。
3時間ほど経った頃、杉山満から電話が入った。松永は、舞子に電話に出てもらい、メモを渡しながら会話を促した。
《とにかく帰ってきて》
《松永たちはあなたを見つけたって言って血相変えて出て行った。家族しかいないから安心して》
《娘とも話をさせてやれ。里心がつくかもしれん》
一応「帰る」という約束は取り付けた。が、当然100%は信用できない。帰らないときのことも考えなければならない。
舞子の携帯電話で杉山の位置が確認できた。杉山家から少し離れているが、20分とかからない場所だ。俺はすぐに部下に電話し、付近を探させた。そのやり取りの間にGPSでは探知できなくなった。満の携帯電話に電話をかけたがつながらない。
結局、満は見つからなかった。松永は竹原と協力し、互いの部下を使って周辺をしばらく見張ることにした。街中にいるホームレスにも、満の情報を提供すれば金をやると言っておいた。
2度目に現れる位置は具体的に決まっていないが、松永が調査した限りでは全て、1度目に見失った場所から直径10キロ以内の場所だった。
ということで、杉山家に乗り込んで、彼らは"消えた完済者"の尻尾をつかみかけています。
次回からは、杉山満の妻・舞子視点の話です。
満はまだぐっすり寝ています。