第07話:消えた完済人 前篇
借金取りに追われる杉山は、謎の女・エリスから"アナザーズ"の仕事を持ちかけられ、7日の猶予を与えられる。借金取りのボス・松永とその協力者・竹原は杉山を追っています。
今回は松永・竹原側の話です。
松永は、同業の竹原と、悩んでいた。
この5年、多くの債務者に共通した完済パターンが見受けられる。業界全体で、少なくとも80人にのぼる。
松永の経営する松永ファイナンスで14人、竹原が幹部を務める斉田金融で9人いる。その80人は全員、いくつかの共通点がある。1000万以上の借金を抱えていた、返済能力なし、追い詰めたはずなのに突然姿を消す、数日経って見つかるがまた寸前まで追い詰めて姿を消す、その後で借金が利子込みで完済される、さらに数日経ってまた現れる。物言わぬ死体となって。
その死体が警察の捜査対象となり、債権を持っていた会社に捜査の手が及ぶ。しかし、すぐにアリバイが見つかり警察は引き取る。
死亡推定時刻が振込みの時間−完済の時間−より後であること、保険金が1円も返済に回っていないこと、完済の時間以降、関係者全員に完璧なアリバイがあることが、借金と死亡の因果関係を限りなく薄めさせた。
表の金融会社ならともかく、裏の金融会社にとって、濡れ衣とはいえ警察が会社に近づくことは障害とさえ言える。むしろ、少しは関係してくれたほうがまだ救いがある。松永たちにとって警察が来るだけでも迷惑千万なのだ。
そんなはた迷惑な完済人は「消えた完済人」と呼ばれ、その全貌を明かした者に2億の懸賞金がかけられている。懸賞をかけたのは闇金融で最大手の会社だった。
竹原は闇金融業界のベテランで、即決即断が持ち味。必要なら生命保険も家族もためらいなく使う。たびたび警察に目をつけられることがある。
松永は業界では新鋭だ。竹原とは対照的に、連帯保証人を頼らず債務者本人1人だけに支払わせる。臓器・皮膚・骨、何でも金にする。ふたりの仕事は対照的だったが、妙に気が合った。
松永は竹原から、「消えた完済人」の捜査で手を組みたいと話を持ちかけられた。松永は懸賞金の3割を貰うことで手を組むことにした。全貌を明らかにできれば、闇金融業界で一気にのし上がれる。松永にとって金より名を上げることのほうが優先だった。
松永が最も気にしていたのは、完済された金の出所だ。返済能力のない奴が、なぜ完済できたのかということだ。資金のルートを、警察の手を借りずに調べた。いくつかの口座を経由しているが、最終的に行き着くのは、不特定多数の資産家や投資家だった。
その資産家達は、「消えた完済人」のことは全く知らないと言う。経由した口座を持つ個人や会社も、振込元口座以外の所持者は同じ意見で、振込元口座の所持者に至っては、「彼(消えた完済人)から借りた金を返済した」という証言しか出てこない。
口座を持つ人物や会社はそれぞれのケースで全く違うのに、同じような証言しかえられず、もっともらしい完璧な理由だけが出てくる。怪しすぎる、が、口座を追っても手がかりはない。なら、完済人が消える前に本人を押さえて吐かせるしかない。
まとめて1話にしようと思ったのですが、多くなりすぎるので2話にしました。
この小説では初めて、第三者視点で書いてみました。