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第06話:家族との会話

借金取りに追われる杉山は、エリスという謎の女に"アナザーズ"の仕事に誘われました。

話を聞いた後、杉山は7日間の猶予を与えられ、街に出た後、すぐに家族と連絡を取ろうとします。

 周りをうかがいながら、ケータイで自宅に電話をかけた。

「……もしもし」

「……あなたなの?」妻の舞子が出た。

「舞子か?」

「ふぅ……、無事なの? 今どこにいるの?」なんだか疲れているようだ。

「とりあえず無事だ。奴らにも見つかっていない。そっちはどうだ? まだあいつらがうろついているだろう?」

「家に松永さんたちが来てあなたを待っていたけど、みんな帰ったわ。あなたを見つけたからなんとしてでも捕まえるぞって血相変えて出て行ったわ。今はわたしと美由となつきだけよ。あなた、見つかる前に帰ってきてちょうだい。」

 どうやら俺は見つかっているらしい。

「わかった。美由となつきに代わってもらえるか?」

「……おとうさん?」次女の美由が出た。5年生だ。今どき珍しく、まだ父親に甘えてくれる。

「美由か。おとうさんだ。すまない。元気か。」

「元気だよ。おとうさん、わたし、さびしいよ。帰ってきてよ。」

「わかった。できたら帰るよ。なつきに代わってもらえるか。」

「おとうさん。なつきです。早くそこを離れて。」長女のなつきは、親ばかかもしれないが、しっかりしたいい娘だ。

「なつき。迷惑かけてごめんな。」

「今さらいいって。あたしは大丈夫だから。お父さんこそ大丈夫?」

「おまえたちに比べれば平気さ。すまないが、母さんを支えてやってくれ。」

「うん。わかった。お父さんも気をつけてね。お母さんに代わるよ。」

 美由となつき、舞子の声が聞けた。もう充分だと思った。

「あなた。どこにいるのか知らないけど、とにかく一度帰ってきて。今なら帰ってきても大丈夫だから。」

 その優しい言葉が嬉しかった。俺のせいでこんなになっても慕ってくれる、家族というものがありがたいと思った。が、その思いは胸に押さえつけた。

「……今帰ったら、それこそ袋小路だ。4人一緒よりもバラバラのほうがいい。お前たち、そこから離れろ。奴らが戻ってきたらそれこそ危ないぞ。」

「あの人たちも帰ってくるとは思わないわ。やっぱり帰ってきてよ。わたしも寂しい。」

「わかった。追っ手をまけたら帰るよ」

 電話を切った後、俺はひたすら迷った。

 舞子も、みゆも、なつきもいる家に帰りたいが、帰っても借金はなくならない。俺がエリスと契約すれば完済できる(はずだ)が、お互いに二度と会うことはなくなる。一度帰ってしまえば、決心がにぶりそうだ。今でさえ揺らいでいるのだから。さっきの話だと、俺の場所が割れたらしい。携帯にGPS機能がついているからそのせいかもしれない。携帯電話会社のヘルプデスクに聞いたところ、俺が持っている端末はGPS機能をオフにできるらしい。すぐにGPS機能をOFFにし、こちらから電話するとき以外は電源も切っておくことにした。資産の処理をしたくても、家は担保に入っているから、俺にはもう何もない。後は、世話になった人に連絡するくらいだ。


 この6日間、県外に逃げていた。位置がばれているなら、周辺を細かく探すはずだ。県外だったら、少数で追うことはあっても、確実な情報でもなければ大勢で追ってくることはないだろうと思った。この6日間、3万では、全部ホテルに泊まると残金が少なかった。食費や交通費もかかっている。仕方なく、この6日はネットカフェやらカラオケボックスを渡り歩いた。1日1000円ちょっとで済んだ。それでも、約束の場所までの交通費を差し引いたら、残りは1万と少しだ。あと1日しかないので、そろそろ移動しなければならない。

 俺は戻る道筋で、今まで迷惑をかけた人たちと家族に再度電話をかけようと、電源を入れた。着信が何件もあった。舞子と松永、親からも。舞子からはメールもあり、妻の思いと松永の催促が綴られていた。親や同僚からは、「早く返して」という催促の伝言だけだった。散々無心しておきながら、まったく返せていないからだ。俺は着信のあった人のうち、松永以外の人間に電話した。近いうちに必ず返す、申し訳ない、と、今までと大して変わらないやりとりに終始した。当然、相手は信用してくれない。結局相手をイラつかせるだけになった。メールにしなかったのは、最後の連絡になるから肉声でと思ったからだ。

家にも電話した。帰ると言っておきながら、結局帰らなかった。最後に3人の顔を見ておきたかったが、それも叶いそうにない。電話の最後に、「また会えるよね?」という舞子の言葉が胸に突き刺さった。

 おまえたちの顔を励みにしたい、と言って、俺の顔をメールで送ったかわりに、舞子、美由、なつきの写真をメールで送ってもらった。GPSで俺の位置はばれるかもしれないが、彼女たちのこの顔だけで、もう充分だと思った。

 この日は、約束の場所まで電車で15分くらいの所にあるビジネスホテルに泊まった。ひさしぶりのベッドだ。食事はすでにコンビニで買ってきたし、トイレもバスもついているから、もう朝まで外には出る必要はない。

エリスにもらったメモを再確認する。明日の日付で、時間は17:40〜18:10と書いてある。エリスによると、空間へのゲートを開けられる限界の時間なのだそうだ。

夜8時を過ぎた。風呂に入り、食事を済ませ、部屋の鍵を厳重に確認し、9時には眠りについた。


あと1日、無事にたどり着けるでしょうか。

このあと数話は松永と舞子視点の話になります。

(4/8に表現の一部を訂正しました)

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